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「…小夜に報告が終わった」
慎司は色素変化をしていないエルを前にして声を硬くした。
珍しく殺気を僅かに漏らし無表情に慎司を見つめるエルには、側の椅子に腰を下ろしていた玲吾も恐怖を覚える。
「小夜はなんて?」
この張り詰めた空気などお構い無しに、明るく笑いながら発言する女ーーー東野仁胡。
「…特には何も」
慎司はホログラムデバイスを仕舞い、ソファに腰掛ける。
ここはホテルの一室。エル、仁胡、玲吾と慎司で分け、3つの部屋をとり、今はエルの部屋に集まっているのだ。
「そう。…それにしてもエル、どうやって高嶺枢を無害化してきたのかしら?」
仁胡はまた能天気にそんなことを言う。
ベッドの上に座るエルは仁胡に目線を移し、おもむろに上着のポケットを探ると、その手に握ったものを仁胡へ向けて鋭く投げた。
仁胡は自分の耳元で危なげなくキャッチする。
「諏訪から提供された麻痺薬。慣らされてなきゃ即効のね」
仁胡が手を広げると、錠剤型の服用薬がケースに入っていた。
「これをどうやって飲ませたのよ…」
錠剤などは抵抗する相手に服用させることが困難だ。ーーー口移しなどしなければの話だが。
エルは仁胡の疑問に対して、もともと奥歯に忍ばせていた砕いた錠剤を口移しで服用させたことなど毛程も見せず、話をすり替えた。
「…それはそうと、仁胡、わざわざ呼び出しておいて悪かったね」
「え?ああ、構わないわよ。エルがお呼びなら何処にだって駆けつけるわ。なにより私の主様なんですもの」
仁胡は口角をきゅっと上げて、エルを愛おしそうに見つめた。
エルに対する仁胡なりの絶対的信頼と忠誠の現れである。
仁胡はホームで暮らしてはいないが、小夜や慎司たちと同様に、エルを主だと認識している。
ただ、仁胡はエルよりも年上の24歳で、自立して生活及び仕事が出来るために、ホームを数年前に出ているのだ。これと同じようなケースでエルに忠誠を誓うものは少なくない。
エルは無表情で、窓越しに空を仰ぐ。
「……もう、部屋へ戻っていい。お疲れ様」
玲吾は、エルに何と言ったらいいのか結局最後まで思いつかなかった。
更新予定から遅れてしまいすみません
今回も短めでしたので近いうちに更新したいと思います