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枢は体の力を抜き、ベッドに倒れ込む。
「……本当に行っちゃったなあ」
誰もいなくなった窓の向こうの夜空を眺めて枢は昔の記憶を探った。
『アレと関わってはいけません』
『目を合わせてはなりません』
『言葉を交わすなどあってはならないことです』
『アレは、貴方とは全く違うものなのです』
(……)
枢はゆっくりと瞼を閉じて、柔らかな夜風を感じた。
部屋には、再び穏やかな静寂が訪れた。
「エルちゃんが、暗殺…失敗……?」
ホログラムデバイスーーー昔ではスマートフォンと呼ばれていた情報端末の発展で、現実空間に3Dの仮想オブジェクトを表示する腕時計型端末。十数年前から比較的安価で普及しているーーーを片手に、小夜は絶句する。
待機を命じられた小夜は、寂しさを紛らわすために星を眺めていた。現在地はホームの廃ビルの屋上。慎司からの連絡を受け、エルのミッション達成報告を期待した矢先のことであった。
「っそんな……」
エルの仕事が成功しなかったなどという報告を受けたのは、小夜の経験上初めてのことだ。
小夜はホーム常駐のセラフの中でも最もエルとの関係が長い。そんな小夜でも、エルの暗殺失敗を耳にしたことはないのだ。
「…うん。……うん」
慎司の報告をほぼ放心状態で聞き、通話の終了音が響いても小夜は虚空を見つめていた。
根拠の無い考えが浮かんでは消え、浮かんでは消える。
頭脳派でない小夜は、頭痛がしてくる思いだった。
そして、ある1つの解に辿り着く。
(エルちゃん……高嶺枢……ーーーたかみね?)
小夜は自分の中で、何かがカチリと嵌ったような音がした気がした。
何かに気付いた小夜が持っているホログラムデバイス。もっと早くに普及して進化していてもおかしくはないのですが、クリスマスの惨劇から続く爆発テロで技術企業なども多大な損害を受け、発明でも大きく遅れをとっているのです。
感想頂きました!ありがとうございました
次回更新予定日は今週中に出来ればいいなと思っています