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10年前の少女が泣いた  作者: 冷凍みかん
episode1: あと、365日が5回だけ
11/19

10




 冬馬は酒好きだが酔いやすい男である。


 本人もそれを自覚しており、仕事の場で思い切り酒を飲んだことなどなかった。


 それ故に、今、焦っているのだ。



 「あら、お酒あまり進んでいませんのね」



 目の前の女ーーー紗枝は全く酔った素振りも見せず、もうボトルを1本開けているのではないだろうかと思われる。相当なザルだ。冬馬の摂取量ではとてもついていけそうにない。


 冬馬は潰される前にカマをかけるべきだ、と早々に判断した。



  「……貴女()は皆、強い耐性でもお持ちで?」



 冬馬の不自然な複数形に、紗枝は眉をピクリとさせる。



 「貴女、()…?」



 声は少しばかり硬くなったが、その笑みは崩れない。


 とぼける紗枝に焦れた冬馬はチッと舌打ちをして、手元も見ずにグラスをテーブルに置いた。ーーーそして。



 「()()()()()の話だよっ」



 紗枝の足元を狙った鋭い回し蹴り。素早い切り返しに、紗枝は脚を掬われたかのように見えたが、すんでのところでひらりと跳躍し、バルコニーの手摺にバランス良く立った。



 「全く…お酒が回ると、殿方は乱暴になっていけないわ」



 くすくすと楽しげに笑って、紗枝はグラスに残っていたワインをぐいっと飲み干した。



 「愉しいわねぇ」



 冬馬は紗枝を殺意全開で睨みつける。


 冬馬の右手はスーツの内ポケットに入っている。L字型の()()を、硬く握りしめた。



 「遠山さんにはなあ、紗枝さんっつう姪がいるのは確かだ。だがな、紗枝さんは今妊娠されているんだよ。そろそろ臨月だからなあ、テメェは紗枝さんじゃあねェんだよ!」



 冬馬は紗枝ーーーもとい、目の前の女の髪を掴んで思い切り引っ張った。


 一見、男として呆れた行為だが、女の髪は驚いたことにズルリと落ちてしまった。


 赤みがかった髪はウィッグで、女の本当の髪色は、月夜に煌めく白銀だったのだ。



 「テメェは誰だ?『セラフ』」



 ウィッグを脇へ放り投げて、内ポケットからL字型のソレーーー小型銃を素早く取り出した冬馬は、それを女に突きつける。



 「…誰を殺しに来た!!」



 冬馬の迫力をものともせず、女は目を細めて笑った。



 「う〜んと……50点よ、神崎さん」


 「あァ?」


 「合っていることと、間違っていることがそれぞれ1つずつあるわ」



 楽しげに女は手摺の上を器用に歩く。


 冬馬の銃口は女に固定されたまま逸れることがない。



 「まず、そうね。(わたし)は『セラフ』。そう呼ばれることは好まないのだけど…よくお分かりで」


 「仕事柄な。大抵は区別が付いているつもりだ」


 「ただ、私は殺しの依頼を受けた戦闘員じゃあないわ。ただのサポーターよ」


 「なっ…」



 冬馬は予想だにしなかった女の言葉に驚いた。セラフがこの会場に来ている時点で、暗殺稼業だろうという目星は付いていたが、この女が主犯でないというのなら、他にもセラフが存在することになる。しかし、冬馬を始め他のS1班は誰も察知出来ていなかった。つまり、主犯はフリーな状態でパーティ会場を彷徨っていることになるではないか。



 「…そいつは今どこだ!誰を狙ってる!?」



 冬馬の懸命さに、女は笑いが止まらない。



 「うふふっ…流石は我が主様ーーーここまで全てが計画通りなのだもの」


 「おい!!答えろ!!」


 「ふふ……貴方が気付いていないだけで、もうこの任務はラストスパートをかけているのよ。そろそろ…どこかで銃声が聞こえるのではないかしら?」



 一向に見えてこない女の真意に、冬馬は痺れを切らして銃を撃った。








冬馬くんは肉体派なのでちっちゃくても強いんです。お酒は弱いです。きっとチョコレートのお酒にもすぐ酔います。

次回の投稿は来週辺りかと思っています…!

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