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10年前の少女が泣いた  作者: 冷凍みかん
episode1: あと、365日が5回だけ
10/19

9




 枢はこう見えて計算高い男である。


 紗枝の()()を断り、その場を冬馬に任せて離れた後は、紗枝のいた場所から遠い向かい側のバルコニーへと足を運んだ。敢えて1番端ではなく2番目を選んだのも、自然さを憂慮した結果だ。


 余談だが、今夜のパーティは、この多すぎる人数に見合った大きなパーティーホールで行われている。天井は高く、バルコニーの上にも通常より二回りも大きな窓が嵌められていた。


 枢はふと上を見上げて、窓に引かれたカーテンを見つめる。



(…流石だな)



 独りで意味深にククッと笑ってから、バルコニーの扉を開いて春の少し冷たい夜の空気で肺を満たした。



 「…おっと」



 バルコニーは貸切ではなかった。


 手摺にもたれ掛かり夜空を眺める女が、ワインを煽っている。



 「ん…」



 微かに呻いたかと思うと、突然女の重心が後ろに傾いた。


 グラスが手から離れ、音を立てて割れる。


 枢は素早く女の腰に腕を回し、なんの躊躇いもなく受け止めた。



(…ん?デジャブーーー)



 倒れてきた女と枢の顔が丁度向き合う形になり、枢は目を見張った。



 「君は…」



 その顔には覚えがあった。紗枝と話す前に、つまづいたところを受け止めたあの金髪の美少女。


 顔が耳まで色付いていて、意識がない。髪は少し乱れて手が熱い。



(酒くさいな…)



 直前までワインを煽っていたことからも、潰れたことに間違いない。


 枢は金髪美少女の顔を覗き込んで少し考える素振りをすると、ひょいと軽々抱えてバルコニーから静かに出ていくのだった。










 ーーー同時刻。



『慎司、そっちどう?』



 ーーー玲吾、現在地木の上。



『上々。…計算通りだ。そっちは?』



 ーーー慎司、現在地カーテンの陰。



『いい感じ。相変わらずお上手で…あの(ヒト)は』



 冗談交じりに玲吾は目の前のバルコニーへ目をやった。そこでは紗枝と冬馬がワインを飲み交わしている。



『エルの言う「イイこと」を奴らが理解したとき、どうなるか見ものだな、慎司』


『……』



 玲吾が慎司にふざけて話しかけるが、返ってくるのは不自然な沈黙。



『…慎司?どうかした…?』



 慎司が回線中に応答しなくなるのは珍しい。余程のことでもあったのか。



『ーーー悪い。見失った』


『なっ…マジでか!』


『高嶺…あの男、俺に気付いてるかもしれない』


『慎司の隠密に…!?』



 慎司はホームの戦闘員の中でも隠密に長けた男だ。さらに、不意打ちの「まさに暗殺らしい」襲撃を得意とすることから、場数も多く踏んでいる。余程格上の相手でなければ慎司の隠密が露見することなど今までにない。



『バルコニーに出る直前、俺の方を見た…と感じた』


『ーーー仕方無い…取り敢えずホール全体が見渡せるところに移動して貰えるか?高嶺(ヤツ)がもしホールに出てきたらそのときはまた連絡くれ』


『了解』



 年齢は慎司の方が玲吾よりも4歳上で、本来なら言葉遣いがなっていないのだが、ホームでは年功序列の制度をとっていない。エルの意志に沿った、自由なスタイルである。

ーーー閑話休題。


 回線を切り、玲吾は高嶺の能力値を想像して不安が募った。



(エル…)



 ーーーホームに住まう者たちは、その全員がエルとの()()()()によって生きている。そこには絶対的な信頼が必ずあって、揺らぐことは万に一つもない。


 不安は募っても、玲吾の中に「エルが負ける」という可能性は一欠片も無かった。







ここにifとか置いたら面白そうですね笑

感想など頂けると嬉しいです〜!

次回の投稿は1週間後以内に予定しています

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