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勇者の子育て奮闘記  作者: 砂夜
9/10

勇者、育児をする

 アルフレッドは息を大きく吸い込み、気合を入れた。このドアの先は戦場だ。生半可な気持ちでは入れない。ドアの先からは、狂乱の渦と形容するのが相応しい騒音が溢れだしている。


「よしっ!」


 アルフレッドは覚悟を決めて、ドアを開ける。ドアを開けた先では、子供達が遊んでいた。ただし、人間族ではない。人間族以外の、様々な種族の子供達だ。部屋にいるのは五名。


「あ~アルせんせ~だ」


 鳥人族のオーニス。歌を歌うことが大好きで、いつもよたよた空を飛んでは何かにぶつかってしまう、とてものんびりおっとりした女の子だ。


「おはようございます。先生」


 ラミア族のオピス。礼儀正しく、言葉遣いも丁寧な女の子で、保育園の子供達のまとめ役だ。問題があるとすれば、蛇の下半身を物や人に巻き付かせる癖があるところか。


「おらあ! おっす!」


 獣人族のガルラ。とにかく腕白な男の子で、アルに対して過剰に攻撃を加えてくる。もっとも、子供の力なので大事にはならないのだが。それでも痛くないわけではない。


「ガルラくん。そんなにせんせいをたたいたらダメだよ」


 そんな優しい言葉を掛けてくれるのは、淫魔族のミーナだ。性に奔放な淫魔族にしては珍しく、生来の性格なのか、非常に恥ずかしがり屋で気弱な性格をしている。しかしおろおろおどおどしながらも、言うべきことはしっかりと言う意思の強さも持っている子だ。

 そして、


「アルー! アルー! きーてきーて!」

「はいはい。どうした?」


 有角族のアリス。天真爛漫で、裏表の無い素直な性格。だがそれイコール良い子というわけでは決してない。むしろこの保育園の一番の問題児。アルフレッドの頭を悩ます一番の原因だ。


「でっかいカエルつかまえた!」

「おーそりゃ凄い。でもな、勝手に外に出るな」

「うん。わかった」


 言葉通り、アリスの手には大人の掌程もある大きさのカエルが握られていた。他の子は興味津々という風に、そのカエルを見て、どこで捕まえたのか口々にアリスに質問する。


「あっちでつかまえたんだ! みんなでつかまえよ」


 アリスは他の子供を扇動し、外へと出て行こうとする。


「待て待て待て! 勝手に外に出るなって言ったばかりだろ! 俺が一緒の時以外は外に出るのは禁止だっていつも言ってるだろ」

「えーでも」

「でもじゃない!」


 反論を一喝して封じるが、アリスは不満顔だ。そしてその不満は他の子にも伝染していく。


「そんなのおーぼーだー!」

「どこでそんな言葉を覚えてくるんだ……」

「オピスちゃんにおしえてもらった!」

「教えましたわ。他にも色々と」


 クスクスと笑うラミア族の子供は、困り果てるアルを見て楽しんでいるかのようだった。


「じゃあさ、アルもいっしょにきてよ。そしたらいいでしょ?」

「駄目だ。これから読み書きの勉強だ」

「やだー! そとでアソびたい!」

「わたしも~おそといきた~い」

「おれもソトがいい!」

「私も外がいいですわ」

「えと、あの……じゃあ、わたしも」


 子供達は好き勝手に己の欲望を押し付けてくる。


「駄目だ駄目だ。ちゃんと勉強をしてからにしろ」


 アルフレッドは厳しく、威厳を持って子供達に接する。


「ケチー!」


 しかし正論で説き伏せようとしても、相手は子供。道理が通るはずもない。


「ぐっ……いい加減に」


 忍耐が限界に達しようとしたその時、助け船が来た。


「はいはい。じゃあ皆、今日は特別にお外でお勉強しよっか」


 この保育園の園長である、ウィンターだ。さすがに子供の扱いは慣れた物なのか、上手く子供をコントロールして、混乱を収束させていく。


「ったく。アル先生は子供の扱いが下手だね」

「面目ない……」


 揶揄ってくるウィンターに、アルは何一つ反論できずに項垂れる。

 なぜこんな仕事を引き受けてしまったのか。自分でも、不思議に思う。

 事の起こりは、一か月程前に遡る。

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