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愛の成る木




 ナカノがSNSで自慢してくれたおかげで、金に目が眩んだ女たちはひっきりなしにオレの元へやってきた。


 投資をしている気分だった。女たちに貢ぐ代わりにオレは女たちの『愛』を売り払い大金を手に入れる。女たちは本当にオレのことを好いているわけではない。『金持ちのオレの彼女だった』『高価なものをプレゼントしてもらえた』彼女たちはその事実だけで、他の者にマウントをとれる。私は他の人間が経験していないものや、手に入れられないものを持っている。それを自慢出来るだけでお釣りが来るのだ。現に彼女たちが失うものはなにもない。




 初めはみんな、いい顔をして近づいてきてくれる。それはまるで、本当の恋愛のようにも感じられることもあった。しかし、日が経つにつれて化けの皮は剥がれていく。オレはそのたびに落胆する。その繰り返しだ。



 彼女たちを金の成る木程度にしか認識していないつもりだったのに、いつもどこかで期待してしまう。もしかしたら、この人は本当にオレのことが好きで、笑いかけてくれているんじゃないかと。しかし、そんなことはない。全員が全員オレの資産目当てだったのだ。




 金持ちになったからといって、全てが手に入るわけではない。

 この世で買えるものは値段がついているものだけなのだと今更になって気がついた。




 それでも止まることは出来ない。初めの資産は一億だったが、彼女たちにはその何倍も持っているかのように見せた。資産を悟られないように、持っている金の何倍も金持ちのように見せていた。だから出費も大きい。金持ちの生活をすることは出来ているが、『愛』の売却を止めてしまうとパンクしてしまうだろう。




 大金が失われ、勝手に裏切られ失望し、裏切り、また大金を手に入れる。

 そんな空虚な生活を続けていた。




 

 *





「サクラサヤって子、あんたの高校時代から付き合ってた元カノなんでしょ? あの子とは遊ばないの?」



 今回の女はどうやらサヤのことを知っているらしい。

 苦しかった貧乏時代は遠い昔のことのように感じられた。



「貧乏は嫌いなんだ」

「そうね、あの子すごい貧乏だもんね。考えられないくらいボロアパートに一人で住んでるって噂で聞いたもん。アンタはお金が好きだから、そんな生活耐えられそうにないもんね」



「悪いか?」

「ううん、悪くないわよ。だって、私もお金が好きだから。お金があればね、なんでも出来る。大切なものも守れる。誰かを笑顔にだって出来る。異性を自分のものにするのも簡単」

 女は遠い目をして、タバコの煙を吐いた。



「人間がお金を生み出したのに、お金に人間が支配されちゃうなんてね。滑稽だよね」

 乾いた笑いを浮かべながら、女は細い指先でタバコの灰を落とした。

「欲しいものは、もう買ったの?」

「欲しいものがなんだったのか、忘れちまったよ」



 違う。あの頃欲しかったものは全部手に入ってしまったから、欲しがらなくなっただけだ。持っているから、その価値が分からなくなる。

 自分の中にあったから、価値なんて必要なかったんだ。




 涙は出なかった。あれは売ってはいけないものだった。

 今更になって、アレが欲しい。なんてことを言うのは間違いだろうか。

 なくしてしまってようやく価値に気付いてしまった。

 探していたものは、そこにあったのに。




「ごめん」

「いいよ、でも待ってね。これだけ吸わせて」

 女は口に咥えたタバコをゆっくりと味わった。地上の人が見えない最上階の部屋の中で。

 オレはこの女も売った。6000万円だった。いつもよりも高く売れた。

 



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