いいひと
「あっ、マツモトさん、おはよっス」
「おはよう」
アカザキはオレを見つけるとニパッと明るい笑顔をくれた。ショートヘアが相変わらずよく似合っていた。一回ご飯を食べに行ったことがきっかけで、随分と距離が縮まった気がした。オレから話しかけることも増えた。
初めて同世代の同僚が出来たことにより、仕事も少しずつ楽しくなってきた。
家に帰ると、いつもサヤはオレのことを待ってくれていた。言葉の節々から愛してくれていることが分かった。それでもやっぱりオレは愛することが出来なかった。サヤもそれは分かっていた。分かっていたから、サヤがオレに「好き」と伝えることも少なくなっていった。オレに嘘をつかせるのが辛かったんだと思う。まるで呪いのようだった。
どれだけ大事にしても、愛することが出来ない。
それが自分が受ける当然の報いだとしても、辛くないといえば嘘になる。
愛されているオレでこんなに辛いなら、愛されないサヤはどれだけ辛いのだろう。
*
「こんにちは! お邪魔します!」
「いらっしゃい。いつもセイイチくんがお世話になっています」
アカザキがオレの家に遊びに来た。
サヤがお出迎えをする。
「わっ、本当に小さくて可愛らしい人っスね! いつもマツモトさんがサヤさんのこと自慢してますよ。大変なんっスからね。こっちはいつも惚気を聞かされて」
「べ、別にそんなにサヤのこと話してねーだろ」
サヤは顔を赤くして俯いてしまった。
「と、とりあえず玄関にずっといるのもあれだから、上がれよ。狭いけどそこは我慢してくれ」
「私の部屋よりも広いっスよ」
職場でも呑み屋でも、オレたちの家でもアカザキは変わらなかった。
彼女の誰にでも分け隔てのない開いた性格は、人見知りのサヤが打ち解けるのにに、そう時間はかからなかった。




