懐かしい空気
いつもと変わらない時間に俺は登校する。始業式が終わり、クラス替えの内容も発表されて間もないためか教室は騒がしかった。
しかし、以前のクラスとは違う騒がしさを感じて何か言葉にできない思いを感じていた。懐かしむようなそんな思いだ。
「悟?何、ボーッとしてるんだ?」
生田が俺の様子に何か気づいたようで、声をかけてきた。
「え?あぁ、別になんでもないよ。」
「……そっか。」
そう言って生田は軽く微笑んだが、深く聞いては来なかった。もしかしたら同じような事を思っているのかもしれない。
「よっ! 大将。調子はどうだ?」
会話の隙間を縫って、元気のある声が俺の耳に届く。
「悪くないよ。そっちは元気そうだな。」
「もちろん。朝から動いてるしな。」
そんな話を勝田としているうちに、チャイムが鳴った。
「あれ? もうそんな時間だったか?」
「いつもギリギリまで朝練してるからでしょ。」
勝田を嗜めるように生田は言う。そして自然と俺を含めた3人は自分の席へと戻った。
朝のHRが終わると再び喧騒がもどる。
クラス替えをしたこのクラスに以前と同じクラスだった人は少ない。その上、誰もがあの事件についての話をしたがらない。だからこのクラスにはまだ、元カノの悪評はそこまで広まっていなかった。それ程までに元カノに対して畏怖を感じていた人も多いという事だろう。
そんな教室だが、ある2人は異様に目立っていた。
「悠介っ!アンタまた数学やって来なかったの?」
教室の隅の方でそんな女子の声が聞こえる。彼女の声には幾分か苛立ちも混ざっているように聞こえる。一方で悠介と呼ばれた男子は目を合わせようとせずに下ばかり向いていた。
「えっとー、そのーなんて言うかですね、まぁ……」
「もごもごしない!」
「……はい。ごめんなさい。」
そう言って男子は女子に平謝りしていた。俺はそんな光景を目の当たりにして、隣で肩を震わせている男子に聞いてみる。
「ちょっと良いか?」
「えっと何か?」
笑いを堪えて彼は返事をする。
「アレっていつもあんな感じなのか?」
俺は2人を指差しながら言う。
「高校からしか知らないけど、何時もあんな感じだよ。ずっと一緒の幼馴染らしいけど。」
そんな話をしてる間に2人の会話は纏まったのか落ち着いていた。
「ありがとう里美……写させてくれて。」
「次やって来なかったらぶっ飛ばすわよ。」
そう言いながら彼女は呆れたような表情を見せていた。しかし、どこか信頼している空気も感じ取れる。その様子が俺の心に深く刺さった。どこで大山と間違えたのだろうか、俺が悪かったのだろうか。そんな考えばかりが頭に纏わり付いた。
その時、たまたま大山が視界に入る。その大山は2人をじっと見つめていた。




