嵐の後1
自然と、この5人が教室に残った。その中で最初に口を開いたのは勝田だ。
「取り敢えず終わったのか?」
「けど、ダメージは殆ど無さそうに見えるわね。」
「仕方ねぇだろ。寧ろこのクラスの状況なら、これが最善だろ。」
相川や藤村も口を開いてそう言った。自分自身でもこれが最善を尽くした結果だとは思う。もちろん、初動が早ければもっと良い結果に持っていけたかもしれない。
でも、俺はその時に立ち上がることが出来なかった。こればかりはどうにもならない。
でもいつまでも後ろばかりみて行動するわけにも行かない。俺は自分の考えを無理矢理、
今後の事についてシフトさせた。
「でもなんとか落ち着ける状況になったって事だよな?」
生田の声には願うような気持ちが入り混じっている。
「それはどうだかな。あいつがこのまま静かでいるような性格には見えないが。」
しかしそれを打ち砕くように藤村は言った。
「大将はどう思ってるんだ?」
「……俺もまだ終わるとは思えない。ここからが本番だとも思ってる。」
俺の発言に誰もが閉口する。これから起こる事をそれぞれが想像しているのだろう。
「まぁ……いいさ。取り敢えず帰ろう。酷い状況から一時的でも脱した訳だからな。」
勝田がそう言うと残りの4人は同意するように帰路に着いた。
日が落ちるのも早くなって、外は薄暗くなっている。既に10月も中旬を過ぎようとしていてるのだから、当然だろうとは思う。
しかし、俺にはもっと長く時間が経っているように感じた。冷たくて厚い、そんな鉄のような長い時間を過ごした気がした。
翌日も変わらず学校へと向かう。教室に入ると、外面はいつもと変わらないように見えた。しかし、全員の表情は固くお互いに愛想笑いなのが見て取れる。
そしてその原因となった元カノは椅子に座りながらつまらなそうにしていて、誰とも喋る事なく静かにしている。
何か元カノに対して行動を起こせば、それ以上の報復をされると、誰もが思っているからこそ均衡が保たれていた。
きっと、この崩壊した空気が戻る事は無いだろう。そうした壊れた空気が流れる教室で、俺はしばらく生活していた。
そんな中、俺は生田を呼び出した。あの告白の返事をするために。
教室には生田と俺の2人しかいない。
「その……返事……くれるのか?」
「あ、あぁ……そのつもりだ。」
生田の緊張感が、正面にいる俺にまで強く伝わってくる。その影響で、俺も言葉が詰まりそうになる。
「えっと……じゃあ、返事を聞かせてほしい。」
生田の気持ちに対する返事は既に決まっている。
「その……俺でいいなら……よろしく。」
「……」
「なんか言ってくれよ……」
生田は目を思い切り開いたまま静止している。数十秒が経ち、我に帰ったのか今度は慌てふためいていた。
「……なんでなんだ?」
「え?」
「だってこんな事があったから絶対断られると思ったし、告白するタイミング最悪だったし……」
後半に行くにつれて生田の声は小さくなる。
「それは……お互い支えていけると思ったし、何より生田なら信じられると思ったんだ。」
こんな事があっても俺を好きと言ってくれて、全力で支えてくれる人なんて、そういないだろう。そしてこれまでの時間が、俺に生田を信じさせた。生田ならもしかしたら、と強く思った。
「そう……か……ありがとう。」
そう言った生田の表情は笑顔を見せながら泣いていた。生田がどんな事を思って、どんな事を感じながらこの時間を過ごしてきたのか、俺には想像も出来なかった。
あと1話で2年2学期は終了の予定です。
時間が飛び、次は3年1学期となる予定です。