崩壊1
月曜が来る。目覚めた時から、こんなに気持ちが引き締まっている日は、他に無いかもしれない。ベッドから起き上がり、今日の流れを頭の中でシミュレーションする。何度考えても完璧とは言えない、杜撰な計画だ。元カノに逃げ切られる可能性もあるだろう。でも、自分の為にも逃げる訳には行かない。失敗の許されない計画の始まりはすぐそこだ。
学校にいつものように登校する。教室は普段よりざわついている。理由は明白。あの藤村が登校してきたからだ。
その影響で、藤村の周りには円が出来ていた。俺はその藤村と軽く目を合わせる。その目には以前とは違う強い意志と大きな不安が感じ取れた。
そのまま、相川のもとへと俺は歩く。
「ちょっと、まさか準備してあるって、これの事なの?」
「あぁ、あいつを揺さぶるのに、ここまで最適な人材は他にいないだろうな」
俺のその言葉に相川は閉口する。相川も言いたい事があるのだろうが、そこは我慢してもらうしかなかった。
「おい、大将。これはどういう事だ?」
「木下、なんであいつが急に登校してきてるんだ?」
流石の変化に勝田と生田も困っているようで、すぐに俺に話を聞きに来た。
「少しあったんだよ。大丈夫、今回は味方になってくれるはずだ」
「そうか……そういう事なら、別に良いが……気をつけろよ大将」
勝田は危険視しているようで、納得はしていないが仕方ないといった態度だった。生田は考え込んでいる様子で、悩みながらも俺に質問してきた。
「もしかして今日だったりするのか?」
「あぁ、今日やるつもりだ」
「本当に……?」
生田の表情が、悩んでいる様子から不安な表情へと変わっていく。
「今日やるのが、ベストなんだ。わかってほしい」
俺はそう言って、頭を下げた。
「わかったよ、大将。だけど失敗するじゃねぇぞ」
「木下。私にできる事はないけど……頑張って」
「2人ともありがとう」
俺は相川に向き直り、最後の確認をする。
「じゃあ今日の放課後頼んだぞ、相川」
「わかったわ」
それで朝の会話は終わった。後は放課後になるだろう。
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HRを終えて担任が教室の外へと出て行く。その瞬間、相川の方から机を叩く大きな音が聞こえた。
「イジメなんて止めてくれない?」
一瞬、静まり返る教室。
「ちょっと、急に何を言い出すのよ?」
それに反応するのは相川をいじめていた奴等の中心人物だ。弱いくせに、とでも言いたげな雰囲気が、彼女からは出ていた。
「はぁ?今更何言ってるのよ。散々、手を出しといて」
「手を出した?そんな事したかしら?楽しく会話してたくらいの事しか、記憶に無いわ」
相川は彼女を睨みながら話すも、相手にはされていないように感じた。そこで相川は追い詰めるように喋る。
「どの口が言うんでしょうね。もし、この場に写真とか音声があれば、公開してしまうかもしれないのに」
その言葉に教室の空気は緊張を強める。
「……持っているとでも言いたげね」
「どうかしら?持ってたかもしれないし、持ってないかもしれない。ごめんなさい、私も貴女みたいに記憶には自信が無いの」
「っっ!」
その言葉を聞いて、彼女は相川を睨みつける。先程とは違い、今度は相川の表情に余裕があった。そこでさらに畳み掛ける。
「貴女だけじゃないわ。他の人たちもよ。自覚がある人は、先に出てくるのが身の為だと思うわよ?」
最初とは違う空気が教室を包む。誰かが名乗り出れば一気に変わるのだろうが、その勇気がある人が居るとは思えない。
「あぁーあ。変わんねぇな、お前らは」
そんな静かな空間で声を上げた人物。
それは藤村だ。