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変化

翌日、学校に行けば教室では、あの音声による噂が広がっていた。様々な事が起きているこの状況で、嘘か本当かわからない情報は見えない所で、より強く広まっていた。「自分はいじめられたくない」という気持ちが透けて見えるこの教室では、みんなが神経質になっていた。噂に関しても、そうだったのだ。それが昨日の相川の事で、火がついたみたいだ。


「あの噂本当かな〜?」


「どうだろ?あまり信じられないけど」


「でも本当だったらヤバイよな」


そんな会話がうっすらと聞こえていた。そして表面上はいつも通りの日常が始まる。


いくつかの授業が終わる頃にスマホが震える。俺はズボンのポケットから取り出して確認をする。映された名前は藤村だ。それを見た所で急に声をかけられる。


「悟〜。どうしたの?」


背後から声をかけられた事に、俺は心拍数が上がる。決してバレてはいけない。強く、強く何も無いと、思い込む。


「なにかな?」


「いや、スマホ見て真剣な顔してたから」


「そうなの?そんなに言うほどの事は無いと思ったんだけど」


心臓が飛び出そうになるのを必死に抑える。じんわりと手に汗が出る。ここで藤村との事がバレれば一貫の終わりだ。


「そう?何があったの?」


「いや、ちょっとプライベートな事だよ」


「そう。まぁいっか。次の授業、遅れないようにね」


少し怪訝そうに俺を見たが、そう言うと笑顔で離れていった。姿が見えなくなってから安堵と不安の入り混じったため息が溢れた。

あの場では深く追求はされなかったが、何か企んでいる事が読まれただろうか?それとも読まれなかっただろうか?考えても仕方ない事なのに、頭ではその事ばかりがグルグル回っていた。

放課後になってから俺は早足で家に帰る。あのライムが理由だ。そして家の前には人影があった。


「よぉ、木下」


「やっと来たか、藤村」


そこには以前と比べ、さらにやつれた顔をした藤村がいた。あの日からは約3週間が経っていて、その間も1度も登校していない。


「この状況を変えられるんだろうな?」


「もちろんだ。お前の方も、多少は楽になるだろうな」


「そうか、ならいいんだけど」


「まぁ、取り敢えず中に入って話そう。細かい部分についてだ」


「わかった」


俺は藤村を部屋に入れる。藤村は少し辺りを見回した後に、適当な所に座った。

向かい合うように俺も座った所で藤村は口を開いた。


「俺にやってもらいたい事って何だ?」


「それなんだが……お前には……


———————————


「……そうか……分かった、やろう」


藤村の顔には苦々しい表情が浮かんでいた。


「ありがとう。早速だが藤村。いつなら行ける?」


「準備する時間が欲しい。次の月曜でどうだろう」


今は噂が広まっていて、効果が期待できる。出来るだけすぐに行動に移したい俺は、藤村に同意した。


「そうか、じゃあそれで行こう。切り出しはこっちでやるから、途中から入ってこい」


「わかった。後は任せてくれ」


「話はこれぐらいで良いだろう」


「そうだな。木下、またな」


そう言って藤村は立ち上がり、玄関へと向かった。藤村がドアに手をかけた所で、背を向けながら俺に話す。


「俺の後処理は……してくれるんだろうな?」


「ああ、もちろんだ。少なくとも、犯罪者扱いはされなくなるだろうな」


「……頼んだぞ」


最後にそう言って玄関のドアを開けて、藤村は帰っていった。



日を経るごとに学校での相川の対応は酷くなっていた。いじめがエスカレートしていき、既に俺と似たような所まで来ていた。相川は、さらに衰弱した様に見えたが、気持ちは強く持っているみたいだった。そんな態度の相川を見て、俺は事が上手く進んでいると考えていた。そんな中、変化があった。


「悟、最近何か隠してない?」


「そんな事無いと思うけど……何かあったの?」


「いや、そう言う事なら良いの。また後でね」


このように元カノが学校でも露骨に話しかけてくるのだ。この1週間で最低1回は話しかけてくる。以前と比べれば、考えられないほどの頻度だ。

この変化に戸惑って何度、汗が吹き出たか分からない。でも避けるわけにもいかず、対応には困っていた。何を考えているのだろうか。

そして、金曜日。相川からライムを通じて電話が来た。


「証拠を取ったわ」


「本当か?どんなものだ?」


「写真と音声、それに色々されていた時の物を残しておいた。今、これを持っていけば1発だと思うわ」


「分かった。時間はかけたくないんだ、すぐにでも行動に移したい」


俺がそう言うと相川は一瞬、無言になる。それでも覚悟を決めたのか、言葉を発した。


「分かったわ。それで行きましょう。具体的には?」


「次の月曜だ。放課後になってから、全員がいる所で言ってくれ。内容はいじめについてだ。証拠があると言えば、全員が聞くだろう」


「その後は?それだけじゃ甘くないかしら?」


「大丈夫、それはこっちで準備している。相川は、口火を切ってくれれば良い」


「……分かったわ、後は頼むわよ」


「任せてくれ」


そう言って電話は切れた。納得していない様子を見せていたが、なんとか信用してくれたみたいだ。

俺はベッドに倒れこんで天井を見る。あの日から長かった。今までの事を思い返しながら、そう思った。気づけばそのまま俺は眠りに落ちた。

仕掛ける日は、すぐそこまで迫っていた。

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