水面下の戦い3
その日の放課後まで特に何もなかった。元カノが声をかけてくる事も無かった。恐らく、相川を警戒しているのだと思う。
その夜、俺は再び藤村に連絡を取った。
「藤村、お前に頼みたい事がある。時間がある時で良い。俺の家に来てくれないか?」
「頼みたい事?予定が無いから別に良いけど何かあるのか?」
「まぁ、電話じゃ話しづらいから会ってから話す。好きな時に来てくれて良い。学校が終わってからで頼むぞ」
「分かった」
そう言って電話は切れた。そして今後の流れについて俺は考える。綱渡りに近い行為だが社会的に復讐するにはその案しか思い付かなかった。
数日後、学校での相川の状況は特に変化なしだった。しかしこの日の昼休みにその状況は一変した。それは元カノが絡んできた時だった。
「ねぇ、悟。一緒にお昼食べない?」
上目遣いで恥ずかしそうに言う元カノ。俺はそんな元カノを、冷めた目で見ないように気をつけていた。
そして返答に迷っている内に相川が割って入ってくる。
「木下、こっちで一緒に食べない?」
「えっと」
俺は答えに詰まるフリをする。その間に微笑みながら元カノは言い放った。
「どうして相川さんは、悟と一緒にご飯を食べたいの?」
顔は笑っているが、空気が変わったと俺は感じた。それを相川も感じ取ったみたいだ。
「それは……その……」
「特に理由も無いの?」
少し躊躇った所を間髪入れずに、元カノは相川に向けて喋り続ける。
「ごめんなさい、理由とかはどうでもいいの。その……貴女が藤村くんとよく一緒にいる事が多かったから……」
その言葉は相川自身に白羽の矢が立つ事を示していた。更に止まることなく喋る元カノ。
「その……貴女が悟に何かするんじゃないかと思って……信用しきれなくて」
この発言に周りの人の空気も変化した。
誰だって自分が一番可愛いものだ。俺を寄ってたかっていじめていた奴らは、自分にその矛先が向かないように、吊るし上げられた存在を一緒になって叩くだろう。いや、叩く他ない。この異質な状況に気付いたとしても反抗すれば、次に狙われるのが自分になるからだ。
「私は何も——」
そう言おうとするが、人は相川を避ける。
「ま、まぁ、みんなで食べればいいよな」
俺はそう言って仕切り直そうとする。そのアイディアは大丈夫なのか元カノはしぶしぶ
といった様子で納得した。恐らくこれも演技だと思うが。
流石に3人で食事するのは俺も辛い。だから何人か一緒に誘った。しかし食事中は相川が黙っていて、元カノが喋ったり周りが盛り上げたりといった様子だった。
その日はそれで終わりだったが、翌日からは露骨に行動に現れるようになった。
「相川、大丈夫か?」
「大丈夫よ。まだまだ何日でもいけるわ」
あの日から相川は陰口を言われるようになった。あえて聞こえるように言ってるからか、精神的に少し参っているように見えた。相川の口から出る言葉は、どれも強がりに聞こえる。
「頑張れよ、証拠を取るためにも」
「言われなくても」
相川のサポートは勝田や生田に任してある為、俺は「そうか」と一言だけ言ってその場から離れた。
あの時、俺は相川をすぐに助けようとは思わなかった。もちろん、理由は元カノの目をもっと引いてほしいからだ。しかし、何処かに相川に対する不満があった。いじめを受けていた頃の不満が。
心の中では高揚する自分と、元カノだけを冷静に狙う2人がいた。普段の生活では、その気持ちを隠しながら、俺は次に起こる出来事を待った。
そろそろあの音声による影響が出る頃だと。そして、そこに藤村が関われば変化があると。
11月14日のことだった。