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間話 相反する感情

俺は今、藤村と2人で話している。そしてそれを録音している。何故こうなったのか。それはテストの初日だった。


———————————

勝田から朝早くに来るようにライムが来る。どうせ、くだらない内容かと思ってた。


「おっす、宮島」


「おう、勝田」


その時は妙に真面目な顔しているな、という事ぐらいにしか気づかなかった。


「その、話があるからちょっと来てくれ」


「あ、あぁ」


そう言って誰も来ないような所へ、連れて行かれる。


「これを聞いて欲しいんだ」


そう言って取り出したのはスマホ。イヤホンを通して俺に聞かせるようだった。


「これは、本物だ。取り乱さないで最後まで聞いて欲しい」


どんな下らないドッキリかと思ったが、勝田の顔は至って真面目だ。今までに見た事がないくらい。そして勝田が再生させる。


聞こえてきたのは、クラスメイトの大山 美香と木下 悟の声だった。木下の声が聞こえて、俺は一瞬顔をしかめる。何故ならあいつはそれだけの事を、やらかしてきたかもしれないからだ。しかし、聞こえてくる内容は耳を疑うような事だった。



『どうせアレでしょ?私が藤村とヤッていたのを聞いてたとかでしょう?』


冷たい水を頭から被ったかのような衝撃を受けた。


「(あいつらは付き合ってたはずだ。いや、そもそもこの会話はいつなんだ?)」


そして会話は続く。


『それにどう?今回の私の策略は?私がみんなを纏める。でも頑張って作り上げた物が壊されるの。私はゾクゾクしたわぁ〜』


それ聞いて動けなくなる。そして気づけば、録音されてた内容は終わった。


「おい勝田、これ本当に本物なのか?作ったとかじゃないよな?」


あまりの出来事に俺の許容量を超えていた。


「ああ、紛れもなく本物だ。俺がこの耳で聞いて、この手で録音したからな」


「そうか……少し整理させてくれ」


少し時間をとり、俺は内容を整理する。


「勝田、お前がこれを聞かせるって事は俺に何かさせたいんだな?」


俺は頭の中を整理した結果、そう考えた。


「話が速くて助かる。宮島にして欲しいのは藤村から言質を取る事だ」


「何故俺なんだ?」


「俺が外から見た中で、宮島はまだ、冷静な方だ。それに藤村と仲も良いから、口を滑らせやすいと思ってな」


確かに俺は藤村と仲が良い。しかしそれは最近までだ。今はあまり話していない。なんだか藤村が変わったような気がして。俺は藤村を良い奴だと思う。いや、今も思ってるかは、分からない。


「なぁ、本当に嘘じゃないのか?」


「お前の疑う気持ちも分かる。だからこそ、藤村と話して欲しい。宮島なら藤村も事実を話すだろう。それで、その上で判断して欲しい。だから1度でいい。藤村との会話を録音してくれないか?」


俺は藤村を信じたかった。だけどあの音声がそれを邪魔する。そして最近の藤村の変化に何かおかしいものを感じている。だから俺は最後の希望として、作り物という可能性を信じて、その話に乗った。


「もし、藤村から話が出て来なかったらどうする?」


「その時は俺を殴ってくれても構わない」


「……わかった。じゃあまた後で」


「待て、最後に1つ。これの存在は俺が公開するまで言わないでくれないか?」


「わかったよ」


偽物とでも疑われたら大事だからだろう。俺はそれを了承した。今まで、自分がしてきた事を受け止められない奴は真っ先に疑うだろうからな。それ程の内容だ。正に、天地がひっくり返るという表現が似合う。そして俺はその場を立ち去った。



今考えれば、勝田にそれだけの事をさせるというだけで、俺の中ではもう、勝敗は決まってたのかもしれない。


そしてテスト終了後、冷静になって考えた俺は、アレが本物という可能性が大きいと考えている自分に気づいた。俺は藤村を信じたいと思っているはずなのに、頭では木下に謝る事を考えている。そして、そんな矛盾した気持ちを抱えながら木下に声をかけた。



「木下、先ずは謝りたい。冷たい態度をとって悪かった」


俺がそう言うと木下はあっさりと謝罪を受け入れた。そしてすぐに次の話に移る。内容はもちろん録音の事だ。そして翌日の決行になった。そして現在に戻る。


———————————————


藤村と2人で話す事になった俺は、話を聞き出そうとした。


「なぁ、教えてくれよ藤村。どうしたんだよ?」


「あぁ!クソ!最近イラついてんだよ、木下をボコそうとする度に勝田が出てきやがって」


前はこんな奴じゃなかったはずなのに、と思いながらも藤村に同調する。聞き出すためだ、そう自分に言い聞かせながら。スマホでも既に録音は始めている。


「あぁ、そういう事か。なんであいつにそんなこだわるんだ?あんな奴、無視すれば良いじゃんか?」


「そういう訳にも行かねぇんだよ」


「なんでだ?」


「そうしてくれって美香に言われてるからな」


その名前を聞いた瞬間、汗が吹き出た。


「なにがどう絡むんだ?」


そう聞いた瞬間、藤村は少しニヤつきながら喋った。


「いやぁ、俺、美香と付き合ったんだよ。木下と付き合ってる時に」


もう俺の中で、藤村と友達だったという、信用は崩れた。逆に演技に徹する事ができた。


「マジで!それはお前、大変な事してんなぁ」


「だろ?そしたら美香がさぁ、『別れたいのに付きまとってくる』って言うからさ、そのために動いたわけ」


「なるほどなぁ。え?じゃあお前がキレたのって演技?」


「そうだよバーカ。引っかかってやんの」


笑いながら俺に言う藤村。


「(ふざけんじゃねぇ。あの時は、本気でお前を止めてやったのに)」


「なんだよ、心配して損したわ」


しかし表面上では俺も笑って返す。


「悪かったって。それにしてもさぁ、それも美香からの提案でよ。なかなかエグい事するよな、あいつ。」


笑いをこらえるように肩を震わせる藤村。どうして、こんなに変わっちまったんだろうな。


「じゃあ展示物壊したのも?」


「そうだよ、美香だよ。いやぁ傑作だったわ。まんまと木下に白羽の矢が立ってさ」


「そうか、すげぇな、それは。ちなみになんで付き合ってるんだ?お前、元々付き合ってる奴いなかったか?」


さらに顔に笑みを浮かべる藤村


「それがさ、向こうから誘ってきてよ。それに乗ってやったんだよ。俺が付き合ってるのを知ってる奴なんてそんな居ねぇだろ?だから俺も二股かけようかなと」


笑いながらそう喋る。確か、藤村は後輩と付き合っていた。いずれは話す時が来るのだろうな。


「はぁー、お前、刺されても知らねぇぞ?」


冗談混じりに聞こえるように俺は言う。


「大丈夫だよ、バレねぇって。それよりさ、美香が誘ってきたくせに、レイプみたいな感じになっちゃってさ」


さっきまでのイライラは無かったかのように、饒舌になる藤村。


「聞きたいか?」


ニヤニヤしている藤村。

ここで俺は録音を切った。必要な事は聞いたし、もういいかと思ったからだ。それに何より、木下に行為の内容まで、知らせたくなかった。


「いや、流石にいいわ。もう帰るし」


「ちょっとだけだから、聞いてくれよ」


藤村の気分を損ねたくなかった俺は、仕方なく聞いてやった。内容は、少し嫌がる大山を相手に藤村が強引にするという感じだった。そして最後には藤村の脅しつきだ。しかし藤村の話し方からすると、大山も同意しているように感じた。藤村が雰囲気作りの為に言ったのだとわかった。


それが終われば俺はやっと解放された。そしてこの足で、木下の家へと向かう。

そこで勝田達に頭を下げられたが、きっと俺はそんな人間じゃない。




裏切られたと思っていながら、自分の意思で藤村を裏切ったのだから。

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