覚悟1
10月17日、テストの1日前だ。いつものように少し早く起きてしまう。普段は暗い部屋が自分の目に映るのに、今日だけは少し明るかった。朝ごはんを食べて、着替えて出て行く。朝の空気の新鮮さを感じながら、ゆっくりと歩いていく。足はいつもより、少しだけ軽く感じた。
教室に着くと、みんなは急に黙る。あの空気感は抜けていない。
「(逃げる訳にはいかない。今度こそ自分で乗り越える)」
以前に比べれば前向きな感情だった。そしてしっかりとした足取りで自分の机へと向かう。まず一歩を踏み出すために、生田に声をかけた。
「おはよう」
俺が先に声をかけてきたから、生田は驚いた顔をする。
「おはよう」
そして笑って返事をしてくれた。
勝田と話す機会は授業が違うのであまり無かった。そのため、昼休みに勝田に声をかける。
「勝田、話がある」
「おう、いいぜ」
そう言って以前、藤村と来た場所にいく。生田も自然とついてきた。そして陽が入らない薄暗い教室に3人で集まった。
「勝田、悪かった。それと俺を助けようとしてくれて、ありがとう」
一言謝りたかった。そしてお礼を言いたかった。ここ最近は俺のために動いてもらってばっかりだったから。勝田はすぐに言葉を返す。
「やっと来たか、大将!いやぁ〜、大将が考えを改めてくれて嬉しいぜ!」
そういって背中を叩く。いつもは痛くてすぐに止めるように言うのに、懐かしさ故に、俺は何も言わなかった。そして叩き終えると、今度は生田に言葉を投げかける。
「それにしても生田はどんな魔法を使ったんだよ。こんな頭の固い大将に心変わりさせるなんてさ」
生田は困ったように答える。
「いやぁ、何したっけなぁ。ちょっと話を聞いただけだよ?うん」
かなり動揺していてとても下手な演技だった。それに面白がって勝田は言ってしまう。
「もしかして告白でもしたのかぁ?すごいなぁ生田は。そんな本気でやって…くれる…なん…て…」
俯いて黙る生田。心なしか顔も赤い気がする。ちなみに俺も少し暑い。この教室は涼しい場所のはずなんだけど。
「え?マジ?」
今更気づいたように、再び問いかける勝田。少し気まずそうにしている。
「そのー、すまん。まさか本当にこのタイミングで、するとは思わなかったんだ」
「タイミング?てことは勝田は知ってたのか?」
勝田のちょっとした事が気になった俺は聞いてみる。
「そりゃもちろん。あんなの見れば、普通気づくだろ」
「そうか……」
俺はさらに暑くなる。顔も赤くなっていると思う。生田はすでに沸騰している。
「取り敢えずだまれーーー!」
生田は爆発して大声を出した。
「じゃあ気を取り直して、話をするか」
勝田はそう仕切り直した。その言葉からさらに続ける。
「大将は今後どうしたいと思ってる?」
「俺は…この状況から逃げたくない。だから、全ての事をみんなの前でさらけ出して、俺にかかっている疑いもイジメも全てなくしたい」
逃げないと決めた時からそう思っていた。しかし、俺の手札はごく少数だ。
「でも俺1人じゃどうにもならない。2人とも力を貸してくれないか?」
「「貸し1な」」
2人同時にそう答える。それが面白くてちょっと笑ってしまう。
「ありがとな、2人とも、それで話なんだが……」
その時、丁度チャイムが鳴ってしまった。
「放課後、俺の家に来てくれるか?」
そう言うと2人は快く賛成してくれた。