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本当の気持ち3

翌日も朝から生田は家に来た。流石に昨日までの元気さは、感じられなくなっている。そんな空気だからお互いに気まずい感じになっている。お互いに短く挨拶するだけで、昨日の朝にしていた、ちょっとした雑談もしなかった。そして昨日までの事が無かったかのように勉強の準備を始める生田。心の準備を整えていた俺は拍子抜けだ。

そのまま午前中は今までと同じように勉強だけだった。昼食を食べて部屋に戻ると、ついに生田が口を開いた。


「なぁ、木下は自分の置かれている状況をどう思う?」


唐突にそんな事を聞いてくる


「どう思ってるって言われても……まぁ嫌われてるんじゃないか?」


「木下は本当に何とも思わないのか?」


「本当だ」


何とも思ってない……筈だ。


「嘘つくなよ」


「なぁ、木下。今日は、はっきりと言わせてもらうぞ。何でそこまでして逃げるんだよ」


逃げる?


「逃げる?どこが?それに俺は嘘なんか——」


「もうやめろよ!木下を見てるのは苦しいんだよ!イジメられてんのにヘラヘラして。辛いのに、辛くないフリをして。そんで、現状から逃げて。何が変わるんだよ!何も変わらねぇじゃんか!」


聞きたくない。


「何が『何とも思ってねぇ』だよ。思ってる事はたくさんあるだろ!何とも思ってない奴はそんな顔しねぇよ!」


頼むから喋らないでくれ。


「全てから逃げて、自分は大丈夫ですなんて言いやがって。ただ自分で言い聞かせてるだけだろ!」


お願いだ。


「私がどんな事を思って、木下を見てきたと思ってんだよ。自分だけの世界に入るんじゃねぇよ!もっと周りを見ろよ!頼れよ!」


何かが崩れる音が、聞こえた気がした。同時に自分の足では立てなくなって、膝をつく。

自然と言葉が出てきた。



「……俺だってわかってたさ……こんな事したって何も変わらないって。無視した所で、変わらないって。けどショックだったんだ。逃げるしかなかった。そのまま受け止めてたら、自分が何をするか分からなかった」


藤村と行為をしているのを聞いて以来、一粒も出なかった涙が溢れてきた。止まらない。


「悔しかったし、辛かったし、苦しかった……でも1度逃げてしまったら、もう他に道は無かった。もうどうにもならなかった…」


「イジメられる苦しさを、また味わいたくなくて逃げたんだ。他人事のように思うことで……」


「……」


生田は黙っている。


「生田…俺は弱いんだよ…もう無理なんだよ……心も体もとっくにボロボロなんだよ…こわれてんだよ……」


俺は泣きながら訴える。生田はずっと黙って聞いていた。





そして俺の事を静かに抱きしめた。





「……っ!」


「ボロボロでも私が助けるから。私じゃ足りないかもしれないけど、木下を支えてあげるから。壊れてもなんとかして、私が直してあげるから………それに言ったじゃん。ちょっとぐらいなら貸すよって」


生田は優しく声をかけた。


「……ごめん……」


声を殺して泣く俺の背中を、生田はずっと撫でてくれた。しばらくそうしていた。







気づけば俺は床に寝ていた。生田も一緒に寝ている。目を開けると、もう夕日が射していた。俺は生田を起こす。


「おい、起きろ。もう夕方だぞ」


「う、うぅ〜〜ん。……は!やべ寝ちまった!」


生田は飛び起きた。


「おう、おはよう」


「おはよう……もう大丈夫か?」


心配そうな顔で聞いてくる。


「あぁ、大丈夫だ。助かった」


「そっか。それは良かった」


そう言って立ち上がる生田。


「今日はもう帰っていいぞ。こんなんじゃ勉強できないしな」


流石にこんな空気じゃ勉強する気にもなれなかった。苦笑いしながらそう言った。


「わかったよ、すぐ帰る。それと木下が笑った所、久し振りに見たよ」


「そっか……」


そんなに俺は笑ってなかったのか。自分の表情を確認するのも久々かもしれない。


「なぁ木下。1つ言いたい事があるんだけどいいか?」


扉を開けて、部屋を出ようと背を向けている生田。


「あぁ、なんでも言えよ。生田には恩があるし」


一瞬間が空き、



「私は木下の事が好きだ」



またしても静寂が訪れた。俺はどう返したら良いか分からなくて黙り込む。生田は喋り続ける。


「返事は今じゃなくて良い。全部、落ち着いたらで良いからさ。今度は逃げないで欲しいな…なんてな。またな」


そのまま生田は振り返らずに帰って行った。

10月16日のことだった。

また月曜日がやってくる。

追記

書き忘れましたが、次は間話となります。

内容は、木下の家を出た後の勝田と生田の話です。

多少、時間が前後しますがよろしくお願いします。

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