本当の気持ち2
家の前に着くと、生田が立っていた。
「ほら、時間無いから早く家に入ろう!」
「何でお前はそんな元気なんだ……」
俺は鍵を開けて家に入る。俺の両親は共働きで帰るのも不定期になるような仕事をしている。高校に入るまではそんな事は無かったが2人とも「仕事がしたい!」とか言い出して、俺が高校に入るとそんな感じになった。朝帰りの時なんかは、2人して気持ちよさそうに寝ている。なので日中は基本、家に俺しかいない。
部屋に入って、俺は生田に問いかける。
「生田は、時間とか大丈夫なのか?」
「友達と勉強して来るって言ったら、頭心配されたけど、大丈夫」
自信満々に答える生田。果たしてそんなに胸を張って言える事なのだろうか。
「そうですか。まぁいいや、早速、勉強しますか」
「了解!」
そう言って俺達は勉強を始めた。生田の頭はそんなに良くない。だから俺は基本的な事から教えていた。そして、その日はそのまま勉強だけして終わった。それから土日が来るまで、生田はずっと俺の家に来た。というか学校から帰るといつもドアの前にいる。お前どんだけ早いんだよ。ちなみに勉強の進み具合はまぁまぁだ。そして今日は金曜日だった。
「よし、じゃあ今日はこのくらいで終わりにするか」
「はぁー、やっと終わったー。木下、厳しくないか?」
「お前の頭じゃ、これくらいしないとダメだ」
「マジか〜」
「で?明日はどうするんだ?」
1週間教えると確かに言ってしまったから、求められたら教えないわけにはいかない。
「(お願いします。断れ)」
「お!明日もいいのか?じゃあ行くわ〜」
無惨に希望は砕け散った。遠慮のない奴め。
「わかった、じゃあ来いよ。何時から来るんだ?」
「面倒いから朝からでいいか?」
こいつ何を言っている。
「は?俺が面倒くせぇよ」
「教えてくれるんだろ?」
実際に生田は俺の家に来ても、勉強しかしてない。かなり真面目に、こなしている。だから俺は了承してしまった。
「わかったよ。朝からな、じゃあもう帰れ」
「はいはい、じゃあな」
生田は帰っていった。俺は思いの外、勉強が進んでいるからか、まぁ仕方ない、ぐらいにしか捉えていなかった。
10月14日のことだった。
翌日、生田は10時頃から来た。その日も一日中、勉強だけになるかと思っていた。しかしそうは、ならなかった。適度に休みながら勉強して、日暮れ頃。生田は話しかけてきた。
「なぁ、木下は辛くないのか?」
「何が?」
「イジメを受けたり、クラスのみんなから、疑われたりして」
今更何を聞いているんだ。
「別に。何とも思ってない。」
俺のその答えに口を開く生田
「なぁ、木下」
「辛い時は辛いって言えよ。助けて欲しい時は助けてって言えよ」
「……」
まるで俺が辛いと思ってるとでも言いたいのか。そんな筈ない。そんな事が、あってはならない。
「急に何を言い出すんだよ生田。ほらもう帰ろう。今日は充分やったし」
何とか声を出す事に成功した。しかし生田の言った事に触れたくなかった。
「また明日も勉強するだろ?今日はもう帰れ」
その言葉に落ち着いたのか生田は小さく、
「明日もまた来る」
そう言って帰った。俺は何をして良いか分からなかった。