本当の気持ち1
文化祭も終わり、その後の片付けも終えた。俺は終始無視されたままであったが、その間に変わった事があった。それは、勝田と生田だ。片付けてる途中でも事あるごとに、話しかけてくるのだ。基本はどうでもいい話をしてくる。「最近はこんな事があった〜」とか「今度ちょっと遊ぼうぜ」とか、様々だった。俺は会話を無視する事は出来なくなっていた。最後に勝田と喋った言葉にモヤモヤした気持ちを、感じたからだろうか。
もちろん、それを快く思わない人達も居たが、勝田が絡んでくるおかげで、視線のみに留まった。そして今日は通常授業の戻った1日目だ。
俺は今日もいつもの時間に、学校に行く。いつもはギリギリに行っていたはずなのに、少し早く学校に着く事が習慣になってしまった。そして、なりを潜めていたイジメも姿を現す。
「(毎度ながら飽きねぇな)」
今日は机の中には悪口を書かれた紙が入っていた。まるで何でも出てくるポケットのような机だ。そしていつもの事のように、俺はそれを捨てる。しかし、席に戻ろうとしたところで、今日は藤村の方からアクションがあった。
「なぁ、木下。ちょっと来いよ」
「(何だよ今度は)」
俺は黙ってそれに従う。
藤村ほか、何人かに連れてこられた場所は人気の無いところ。
「(これは暴力振るわれるかなぁ)」
「お前さぁ、最近調子乗ってね?」
藤村が俺に威圧するように話しかける。
「いや、そんな事無いと思うけど」
俺は無気力に答える。
「そういう所が調子乗ってるって言ってんだよ!どうせお前の事だ。生田や勝田を騙してんだろ?なぁ!答えろよ!」
そう言って藤村は俺に殴りかかろうとする。
「誰が騙されてるって?」
藤村の拳が止まる。
「朝練が自主練だから、早く行って早く上がろうと思ったってのに……これはどういう事だよ藤村」
勝田が後ろにいた。大きな体格とは裏腹に落ち着いた声で喋っていた。
「これはどういう事だって、俺は聞いてんだが?」
完璧に藤村達はビビっている。鍛えてないお前ら3人じゃ勝てそうに無いくらい怖いもんな、勝田は。わかるよ。
「い、いや別に喋ってただけだって」
1人が答える。
「それにしちゃあ、不穏な声が聞こえたが?騙してるとか、調子乗ってるとか」
「なんかの聞き間違いだろ……は、は……」
「じゃあ俺たちはもう行くぞ。じゃあな木下。また後でな」
藤村が最後にそう締めくくると、逃げるように退散していった。お前ら小物すぎんだろ。
「大将、なんもされてないか?」
普段の明るい声で俺に喋りかける。
「あぁ、なんもされてないよ」
「それは良かった」
安心したように息を吐く勝田。そして言葉を続ける。
「そろそろ俺らも動くからよ。それだけは知っといてくれ。あぁ、ちなみに、俺らが勝手に動くだけだから、大将に止める権利なんてねぇからな」
俺が言う前に制されてしまった。俺は諦めて礼の言葉だけいった。
「そうか、助けてくれてありがとな」
「大将を助けるのは当然の事だろ」
そう言って勝田は教室に戻っていった。
俺もしばらくしてから、SHRに遅れないように戻っていった。教室に戻ると勝田は宮島と話していた。そんな教室の光景を見ていると
生田が話しかけてきた。
「おはよう、木下」
「おう、おはよう」
「その〜、ちょっと話があるから良いか?」
「あぁ別に良いけど。何の話だ?」
SHR中でも、おかまないなしに喋る生田。
「その〜、テストまであと2週間ぐらいじゃん?木下、それなりに出来るから、教えて欲しいなーなんて」
「そういう事か。それくらい別に良いけどお前、部活は?」
「もちろん、教えてもらうのは1週間前からで良いか?」
「そりゃそうか。了解」
そんな感じで話は終わった。
その日からイジメの主犯格である藤村がイジメを止めた。何故かと言うと、いつも何かありそうになると、勝田が止めに入るからだ。
藤村のイジメが表立って出なくなったからか、他のも一緒になくなった。それでも教室の空気は変わらなかったので、特に他に何か変わった事はない。しかし藤村は勝田の事を相当ビビっているようだった。気づけばテスト1週間前までになっていた。
「じゃあ今日から教えてくれ、木下」
「別に大丈夫だけど、どこでやる?」
「え?木下の家に決まってんだろ?」
当然だ、というような態度を取る生田。何で?
「何で俺の家なんだ?学校でも出来るだろ?」
「だって図書室じゃ喋れないだろ?自習室も無理だし、教室じゃあほら、木下と私の事、見られたら面倒になるだろ?だから歩いていける木下の家しかないじゃん」
思いの外、理屈は通っている。
「いや、だけど——」
「まぁまぁ、とりあえず行こうぜ?というわけで先に木下の家に行ってるな。じゃ!」
そう言って生田は俺の話も聞かず、脱兎の如く教室から出て行った。
「(マジかよ、これ。大丈夫か?)」
俺は不安になった。