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過去から現在へ

家に入ると急に生田はそわそわし始めた。

それを俺は窘めようと言う。


「ちょっと落ち着けよ生田。」


「わ、悪い。どうにも落ち着かなくって。」


まぁ、仕方ないかもしれない。あまりこういう機会もなかったのだろう。

そして俺は部屋に案内する。


「取り敢えず適当に座ってくれ。」


そう2人に促した。

そしてまずは俺から切り出す。流石にこれは言わなきゃならない。


「まず、生田。無視したりとかして悪かった。ごめん。」


俺は生田にしっかりと謝った。


「いや、そんないいよ別に。気にしてない……って事はないけど、もう大丈夫。こうやって謝ってもらえたし。」


「ありがとう。あと聞いておくけど帰る前に生田が言おうとしてた事ってなんだ?」


「あぁ、それはこの事だよ。勝田と一緒に木下の家に行くぞって言おうとしたのに勝手に帰るから。」


「あぁ、そういう事か。悪かったな。」


「全く……。そろそろ本題に入らせてもらうがいいか大将?」


少し胸の鼓動が速くなる。


「あぁ、いいぞ。最初から話すぞ。」


それから時間をかけて俺は話した。

勝田と生田はかなり覚悟していたみたいで、俺が話していた時は黙って聞いてくれた。しかし勝田はこぶしを強く握り締めて震えていた。


「それでお前らがさっき見た光景だ。これで全部だよ。」


気づくと俺は大量の汗をかいていた。もう10月だというのに。


「ちょっと1人にさせてくれないか?少し考る時間をくれ、でないと誰かを殴っちまいそうだ。」


声は落ち着いていたが、その後ろ姿はとても重々しい雰囲気が漂っていた。


「いいぞ、ちょっと外に散歩でもしてこい。


「ありがとう」


勝田は短く礼を言って外に出ていった。

生田は少し考え事をしている様子だ。


「生田、何考えてんだ?」


俺は少し気になって聞いた。


「え、いや別に何でもないぞ?」


「本当かよ……。くれぐれも部屋を荒らすなよ」


「言われなくてもそんな事しねぇよ!」


「そうか、それは良かった」


「……」


「……」


会話が続かない。


すると今度は生田の方から切り出してきた。


「あの……その……木下」


「何だ?」


「えっと……良かったら?いや違うな…その…」


「纏まってから話せよ」


「あぁ、うん。その……私に泣きついても良いんだぞ?」


「は?」


何言ってんだこいつは?


「いや、変な意味じゃないぞ!辛そうな顔してるし……その……」


少し詰まったあと、また声を出す。


「少しだけ話して良いか?」


「あ、あぁいいぞ」


そして纏まったのか生田は喋り始めた。


「小学校とか幼稚園ぐらいの時かな。私は結構、泣いてばっかだったんだ。」


「そうなのか、全然そうには見えないけど」


俺を助ける事やクラスのイジメに対して意見なんて勇気が無いと、とてもじゃないが出来ないだろう。


「そうか、それは嬉しいな。まぁ話を戻そう」


そう言って再び話し始める。


「私はちょっとした事でよく泣いてたんだが、その時にはいつもお母さんが安心させてくれたんだ。でも1度だけお父さんが安心させてくれた事があるんだ」


「小学校の低学年だったかな?その時くらいに、クラスの男子から少しからかわれる事があってさ。お母さんが頑張っても泣き止まなかったんだって」


「それを見かねたのか、お父さんが私の近くに来て抱きしめてくれたんだ。『辛い時は周りの人を頼りなさい』って言って。何をされたとか、何でそんなに泣いてたのかは覚えてないけど、それだけは今も覚えてる。お父さん、人と距離感を計るのが苦手なくせに。」


そう思い出を語る生田は懐かしむように、大事にするように顔を綻ばせた。


「それからだな。強くあろうと思ったのは。私も流石に人に頼りきりじゃダメだと思って、自分も強くなろうと思った。もちろん、それでも辛い時は人に頼るだろうけど」


「……そうか、生田は強いな」


心の底から思った。


「そんな事ない。私の中身はまだ弱いままだ。結局押し切られたりする事も多いし」


「それでも強いよ」


無視をする俺より。何倍も。


「そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう」


そのまま言葉を続ける生田。


「まぁ…その……余計な御世話だったな。さっきの話は聞かなかった事に——」


「そんな事ない。いつか借りる……かも」


俺の口から自然と言葉が出た。

驚いた表情をする生田。しかしすぐにそれは、優しい顔つきに変わり、


「いつでも貸してやるよ!」


満面の笑みで俺に言った。




「そう言えば、なんで勝田って木下の事を大将って呼ぶんだ?」


話す事が無くなったのか急に生田がそう聞いてきた。


「さぁ、知らないけど。勝田に聞いたらいいんじゃないか?」


「そうか、そうしてみる」


するとそのタイミングで勝田が帰ってきた。

そしてそのまま俺の部屋に向かってくる足音が聞こえる。


「入るぞ〜。大将、ちょっとトイレをかりたいんだが……?」


勝田が首を傾げる。


「どうしたんだ勝田?何かあったか?」


それに俺が答える。


「いや、なんか雰囲気が変わった気がしてな。まぁ気のせいか。トイレ借りるぞ」


それに俺は応じて勝田はトイレにいった。

すると生田がまた慌てながら、喋りかけてきた。


「あいつなんであんな鋭いんだ!?」


「まぁ、なんかそういうのには、よく気付くんだよ」


そういえば最初に声をかけてくれたのも勝田だったか。


「何をそんなに慌ててるんだよ」


「いやだって、思い出したら恥ずかしかったんだよ!?要約したらアレだぞ。抱きついて良いよって言っておきながら、自分語り始めた痛い奴だぞ?」


「まぁ、そうだな」


「バレたら死にたくなる……」


生田がそう言う。


「勝田も察し良いから話さない限りは聞いてこないよ」


すると勝田がドアを開けて入ってきた。


「さて、もう少し話そうか」


そういう勝田に俺は問いかける。


「何を話すんだ?もう話せる事はないぞ?」


「何言ってんだ大将。これからの話に決まってんだろ」


「いや、巻き込むわけには——」


「ダメだ。これも込みでの貸し1にきまってんだろ。俺は助けさせてくれって言ったんだぞ」


「もう話を聞いてくれたので充分助かってる」


本心だ。心は少し楽になってる。


「はぁ、全く。仕方ねぇ、出直すわ。邪魔したな」


そう言って今度はあっさり引き下がって部屋から出て行こうとした。


「帰るぞ生田。少し話がある」


「ちょっと待てよ。おい!……あぁ、もう」


「じゃあ私も一回帰るから……その、またな」


生田と勝田はそう言って帰っていった。

俺の中には久々にモヤモヤした気持ちが残った。


10月2日の事だった。

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