策略3
「ごめん、よく聞こえなかった。もう1回言ってくれ」
「だから、もう1回付き合ってくれって言ったのよ。私に3回も告白させるなんてさすが悟ね。」
そういってあいつは笑う。
「……なんでだ?」
「なんでって、さっきも言ったでしょう?悟といる方が退屈しないからよ。」
「他は……?」
「他なんてないわ。それだけよ。もしかしてクラスのみんなの事を心配してる?大丈夫よ、私がなんとかするわ。人柱もいるんだし。」
「……まるで悪魔のささやきだな。」
「天使と言ってほしいわ。失礼しちゃうわね。で、どうなのかしら?。」
答えは最初から決まっている。
「無理だよ……お前とは付き合えねぇ。」
「そっかぁ、残念だなぁ。悟といれば退屈しないと思ったのに。」
「期待に応えられなくて悪かったな。」
俺は感情を交えずに喋る。
「いえ、別に良いのよ。悟がいじめられているのを見ているだけで退屈なんてしないから。しばらくは黙って見ていようかしら」
「……」
「じゃあね」
そう言って彼女は去っていった。
少し俺は玄関の前から動けなかった。
何故そこに立っているのか自分でも分からなかった。するとその間に声をかけられた。
「よぉ、大将。久しぶりだな」
勝田が後ろから声をかけてきた。
そこで俺は我に帰る。
そして勝田に向き直る。手にはスマホを持っていた。誰かに連絡でもしたのだろうか。
そう考えていると、生田も顔を出した。
「来たぞ、木下」
俺は深く息を吐く。
「見てたか?」
「おぅ、バッチリだぜ大将」
「その……ごめん」
勝田と生田はそう答えた。
「今日見た事は忘れろよ。その方が良いからな」
俺は最初にそう言う。
「いや、もう無理だ。十分、俺も待っただろ?そろそろ助けさせてくれ」
重みのある声で喋る勝田。
「それでもっ!……関わらない方が良い。」
「はぁー、変なとこで頑固だよなぁ大将は。丁寧だったのが急に変わりやがる。」
「うるせぇ、なんでも良いだろ。お前らには関係ねぇよ。」
「関係あるよ!」
大声を出したのは生田だった。
あっけに取られて俺は黙り込む。
「だってさぁ、木下。お前は気づいてないのかよ。お前の顔、すごい辛そうなんだよ。」
生田はそう苦しそうに言った。
「(は?俺が?辛そう?訳わかんねぇ。そんなはずがねぇ。)」
「まぁそういう事だ。そろそろ中に入れてくれや。」
「いや、だから——」
「貸し1。仕方ねぇがここで使うか。もっとマシな事に使いたかったんだが」
「ここで使うかよ……」
こうなると勝田は本当に動かない。『俺は義を重んじる男だ』とかいつも言っている。勝田の口癖だ。何故こんなに守ろうとするのか俺にはわからないが、中学からの付き合いで知っている俺は中に入れる事にした。
そこである事を思った。生田を家に入れる必要なくね?
「生田はどうする?」
俺は問いかける。
「は?入るに決まってんじゃん」
「なんで入れなきゃならん」
「は?なんでだよ!これは一緒に家に入れる流れだろ!」
「いや流れって言われても…」
「……」
「……」
少し沈黙。
「じゃあ、また明日な〜」
と言って俺はドアを閉めようとする。
「待てっ!今思い出した。ほら、お前が疑われた時!助けてやったろ!あれ!貸し1!」
ブツ切りの文章で必死に訴える生田。
「(そういえば助けられた気がする。くそぅ。)」
仕方なく生田を家に入れた。




