策略2
「ほんっとうに面白かったわ。この1ヶ月間。」
「何がそんなに面白かったんですか?」
「全て、かしら。悟が私に刃向かった日から今日までずっとよ。退屈な日なんて1日もなかったわ。」
まるで感謝を述べるように答える元カノ。
「どうせアレでしょ?私が藤村とヤッていたのを聞いてたとかでしょう?」
自然と背筋が伸びて鳥肌がたった。
「いつから気づいたんだ?」
「んー、藤村と喧嘩したあたりかしらね。最初は他に女でも出来たのかと思ったけど。そうじゃなかったわね。」
そういって微笑む元カノ。
「一応聞くけどなんでそのタイミングだったんだ?」
俺はこれが気になった。最初から気づいていたわけでもなく、最近でもない。そのタイミングで何故気づいたのか気になった。
「そんなの簡単よ。悟の顔よ」
は?俺の顔?
「どういう事だ。」
すると元カノは
「どういう事って酷いわね。悟とは幼稚園の時から一緒なのよ?その私が悟の気持ちが分からないわけないじゃない。」
当然だと言わんばかりに笑いながら答えた。
さらに元カノは続ける。
「あの時の悟は酷い顔してたわね〜。私しか気づいてないみたいだけど。藤村が近づいたとき少し表情が変わったのよ。大方、恨んでるような、でも諦めてるような、そんな感じだったわ。それで、あの時の物音の事も考えれば答えなんてすぐ出るわ。」
「……」
俺は言葉が出なかった。
「面白そうだから精一杯、利用させてもらったわ。感謝しているわ。」
「そうか……」
「悟は全然壊れないし、逃げたりもしない。やりがいがあったわね〜」
そう言ってまるで良い思い出だと思っている反応を見せる。
「それにどう?今回の私の策略は?私がみんなを纏める。でも頑張って作り上げた物が壊されるの。私はゾクゾクしたわぁ〜」
そういって自分を抱きしめるように自分の肩を抱く。
「……あれはお前が壊したのか?」
「そうよ?他の奴にやらせようと思ったけどね。やっぱり最後くらいは自分で詰めなきゃね。本当は失敗させるくらいのつもりだったんだけど、桐島くんが予想外だったわね。パソコンを持ち帰られちゃ、何も出来ないじゃない。」
そう言ってあいつは軽くため息をつく
そしてさらに続ける。
「でも教室に戻った時の空気で確信したわ。悟が疑われてるって。どうかしら?楽しめたかしら?」
「……狂ってるなお前。」
「そう、嬉しいわ。」
「……」
その場で俺は動けなかった。
「あら、もう良いのかしら?もっと面白い事を悟に聞いて欲しかったのに。」
「まだあるのか…」
「まだたくさんあるわよ?藤村を操ったりだとか。クラスを掌握するのも楽しかったわ!そうだ!後で聞いた話だけど鹿又さんが言い出したみたいじゃない。悟は驚いたでしょ?鹿又さんが主張してきて。」
「……」
「彼女、少し煽るとすぐに誰かを頼りたくなっちゃうの。悪い癖ね。恐らく彼女自身も気づいてないわ。まぁ、序盤から煽った甲斐があったわ。悟の事、ずっと見ていたもの。」
そう言って話を続ける。
「彼女からは何もされないと思っていたでしょ?いえ、彼女は何かしたと思っていないから、結局のところ何もしていないのかしら?難しいところね」
黙って俺は聞いていた。
「取り敢えず、私と戦うんだったら、もっと準備は上手くやらなきゃね」
「もう1ついいか?」
「何かしら?」
「何で藤村とヤッたんだ?」
冷や汗が流れ落ちるのを感じる。
「端的に言うと退屈だったから、かしらね。悟と付き合うのも楽しいけど、もっと別の刺激が欲しかったのよ。藤村も少し誘ったら、すぐ調子に乗るから驚いたわ。あの後社会的に殺してあげようかと思ったけど、結局は暇つぶしに利用させてもらったわ。」
あいつはさらに言葉を続ける。
「でも藤村と楽しいのは最初だけだったわ。すぐに飽きちゃった。それに彼は浮気性だしね。悟とは真逆ね。その後気づいたわ。悟と付き合ってるって言うのは贅沢だってね。正直、藤村があんなにつまらない男だとは思わなかったわ。」
吐き捨てるように言う。
俺もやっとの気持ちで声をひねり出す。
「人の気持ちを……考えた事はないのか?」
するとあいつは答えた。
「考えるだけ無駄よ。1番大事なのは自分がどう感じるか。悟もそうでしょ?」
そう冷たく言い放った。
「そうかよ……」
俺の最後のたった一握りの思いさえ粉々になった。
「そうそう、ネタばらしなんてついでよ。本当の目的はこれじゃないのよ」
「……」
「話の長い女は嫌われるわね」
そう言ってあいつは笑う。
「悟、どうかしら?私とまた付き合わない?」
俺はこいつが何を言っているのかわからなかった。