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極東311  作者: 西田啓佑
9/15

009.確認

日刊している人とか、すごいと思います

「アイザックはどうしてヴァイオレッタたちとフレンドになったの?」

「ライノガンズと航空機を使いこなしているゲーマーに興味があったからさ」


 崖張り付き用のインセクトレッグと高速移動用のホバーを持つ狙撃用ドローン「グラスホッパー」を操って、死角から射的よろしく敵を狙撃しながら、ヴァイオレッタとアイザックの二人はそんな会話を交わしていた。マップは密林高地というギアナ高地をモチーフにした戦場である。

 ちなみに、古都子はガレージで人型ドローンの外装を作っていた。


「それ以外にはないの?」

「ないな。前に美槌の方に言ったんだが、ライノガンズは脚の遅いポイント稼ぎには向かない機体だ。それを乗りこなして、勝ちに貢献した点に興味を惹かれた。お前さんの場合は、航空機で最後まで生き残っていた点かな」


 二人は個人通話で話しながらも、射線の角度を変えたり、射撃位置を変えたり、と、淡々と冷静に試合を進めていた。


「じゃあ、質問を変えるの。なんで、このゲームをやってるの?」

「そう聞かれたんじゃ、答えないわけにはいかないな。スカウト目的さ」

「ふーん。けど、ヴァイオレッタも古都子も傭兵になるつもりはないの」


 スカウト。傭兵としてのドローンのオペレーターのスカウトである。国家という枠組みが解体されたこの時代、軍隊と傭兵の境界、民間人と軍人の境界は、存外あやふやなものとなっている。従業員とは言い換えれば企業の私兵ともいえるし、企業の私兵はそのまま軍属という側面もある。


 良くも悪くも、生き急ぐ世界となっているのは事実だった。そして、戦争がナノマシンとドローンによって行われるように成ってからは、ゲームと戦争の境界も曖昧になっている。どちらも、目の前にあるのはビデオ映像であり、ドローンやナノマシンのオペレーターの目の前では血は流れないのだ。人の死は書類と画像の向こう側の存在であり、倫理と道徳は市場価値によって都合よく上書きされている。それが、この時代だった。しかし、この概要を詳細に検討すれば、人間社会の本質は二十一世紀冒頭からこの時代まで、何の変化もしていないかもしれない。ただ、上品なキレイ事という幻想が、下品な市場価値という現実に上書きされただけかもしれないのだ。


「だろうな。だから、オレのゲーム目的と、あんたらとフレンドに成った事の間にはさしたる関係はない。どうせ遊ぶなら楽しく遊びたい。それだけだ。オレは、自分のポイントのために仲間を見捨てたり、チームの勝ちよりも自分のポイントを優先して動くような連中が嫌いなんだよ」

「まあ、そこは私も同意なの」


 二人は、まるで汚泥の溜まった沼地で蓮の花一人寂しく咲く蓮の花を見つけた観光客のような面持ちで、話を続けた。


「あとな。このゲームには名前でプレイヤーを検索する機能はない。あったとしても、俺は見ず知らずの相手には使わんぞ。そんな変質者じみた真似はしない。お前さんたちと出会ったのは正真正銘の偶然だ」

「その辺は別に気にしていないの。そもそも、気にするなら本名で遊んでいないの」

「そうか、勘ぐっていたのは俺も同じか。悪かったな」

「お互い様なの」


 二人は、淡々と試合を進め、淡々と負けた。他事を考えながら勝てるほど、簡単な試合相手ではなかったようだ。



 一方その頃、美槌古都子はポリゴンを捏ねていた。

 この時代になっても、三次元コンピュータグラフィクスはワイヤーとポリゴンとテクスチャで造られていた。しかし、製作者がヴァーチャルリアリティ空間に五感を投影する事でダイビングできるようになってからは、三次元コンピュータグラフィクスモデルもリアルで粘土細工を捏ねるように作ることが出来るように成ったのである。

 そう、まさに手捏ねである。これがボーイッシュな美少女による手捏ねハンバーグとかなら、オジサン大喜びという状況もありうるのだが、残念ながら三次元モデルを作っているだけである。


「うーん。こんなものかな」

「おお、完成でござるか?」


 ドローンクラッシュのガレージでポリゴンを捏ねていた古都子の隣では人語を喋る白馬がよくわからん手つきというか足付きで同じくポリゴンを捏ねていた。ちなみに、この白馬はゴザル口調で喋る。


「こちらも、完成したでござるよ。古都子殿」

「おお、カッコいい刀だね。ハイテクブレードって感じがする」


「なんというか、わかりやすすぎるネーミングセンスでござるな。では、この武器の名前はそうするでござる」

「え? そういうつもりで言ったんじゃないから!ねぇ。ハンス君!」


 ガレージには二人の作った刀とロボットが置いてある。

 刀というか刀の形をした電動ノコギリの名前はハイテクブレード。結局、強度と取り回しの関係から刃を振動させる方式ではなく、刃を回転させる方式にしたようである。そして、ロボットというかドローンの方は、西洋甲冑とライダースーツと武者鎧を微妙に混ぜあわせたモノに歌舞伎の隈取をまんべんなく施した出来栄えだった。すごく、努力したんだな。というのは、一目見て分かる力作である。


「古都子殿の作ったドローンの外装も中々のものでござるよ。今までに無い感じでござる」

「いやー。ハンス君の持ってきてくれたコンバットドレスの三次元モデルのおかげで、作業が捗ったよ。ホント」

「お役に立てて何よりでござる」


 馬のハンス君はアイザックのフレンドで、アイザックとルーム参戦していた流れでそのまま古都子たちのガレージに合流したのである。ちなみに、古都子とアイザックはルームを分けてそのまま試合に行き、人型ドローンに興味を示したハンスと作業中の古都子がそのままガレージに残る流れになった。

 そして、ドローンのデザインに苦戦している古都子の為にハンスがネットを漁って持ってきたデータが、各企業グループの私設軍隊が採用しているコンバットドレスの三次元モデルである。もちろん、本物ではなく、ネットに流布している販促用や二次創作モデルなのだが、素人には区別の付かない出来栄えなので、問題ないとの事だった。


「それで、古都子殿。こちらの人型ドローンの名前は如何ようにするでござるかな?」

「うーん。どうしようかなぁ」


 思いつきをそのまま口にすると、とんでもない名前になると学んだ古都子であった。

 そして、そんな悩んでいる古都子の前にヴァイオレッタたちが戻ってきていた。


「作業の方は捗っているなの?」

「ロボと武器の外装はほぼ終わったでござるよ」


「じゃあ、中身もできていることだし、試作機の製造を発注するの!」

「待って欲しいでござる。まだ、ロボの方の名前が決まってないでござる」


名前が決まっていないと聞いて意外そうな顔をしてヴァイオレッタが質問を返す。


「え?ちなみに、武器の方は、どんな名前なの?」

「ハイテクブレードでござる」


「ハンス君のネーミングセンスは最悪なの」

「いや、それがしではなく、古都子殿の命名でござるよ」

「ならなっとくなの。古都子は名前つけるの苦手なの」


 ハンスに渋い顔を向けて答えたヴァイオレッタは、ハンスの返事を聞いたあとに古都子を見て嘆息混じりにつぶやいた。そして、投げやりに言う。


「んー。名前、思いつかないなの。最悪、形式番号を適当に付けてもらうという手もあるの」


 そこで、名案があるとばかりにアイザックが名乗りを上げる。


「ああ、それだったら、俺がカッコイイ名前をビシッっと付けてやるぜ」

「へー。どんな名前にするの?」


「ショーグン。どうだ。カッコいいだろ?オレの好きな曲の名前でもある」


 得意満面のドヤ顔でアイザックがネーミングセンスを披露すると、ヴァイオレッタは古都子の方を眺めつつ、投げやりに彼に答える。


「ふーん。それでいいんじゃないかな」


 さすがのヴァイオレッタもアイザックの本気を感じ取って『もう、しょうがないの』という決定的なダメ出しを口走る事はなかった。そして、この話題を終わらせるべく、ハンスもアイザックのネーミングを採用する事を後押しした。人よりも空気の読める馬である。


「まあ、雰囲気は出ている名前でござるな」

「ボクも、それで良いと思うよ」


 そして、ヴァイオレッタのそんな様子を見て取って、ボクたち仲間だよね。と、言わんばかりに背伸びをして、嬉しそうにアイザックの肩に手を掛ける古都子であった。

 微妙な空気の流れに一抹の戸惑いを感じたアイザックでは有ったが、彼はそれを面に出すような、器の小さな漢ではなかった。


エターナりそうになっても気長に待っていただけると嬉しいです。次に面白そうなゲームが見つからないかぎりは、ちょこちょこ更新できるかも……。

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