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極東311  作者: 西田啓佑
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005.アイザックとルーキー

ちょっと、短めです

「よし、地上部隊はそのままトンネルを抜けて、敵拠点手前の丘陵まで前進、飛行機は地上部隊の援護。俺とスナイパーの四足チームは東側を進む。巧くいけば打ち合いの横っ腹をスナイプできるはずだ」


 レールガンの砲弾を敵飛行機にばら撒きながら、四足ドローンのオペレーターが手慣れた調子で提案というよりは、むしろ命令を行うと、誰も反論しなかった。

 そして、音速で飛行していた敵機は、素早く回避行動を取りながら接近するが、それを見透かしたかのように追い打ちの戦術高エネルギーレーザーが照射された。照射したのは、先程からレールガンを速射していた四足ドローンである。ちなみに、速射用の小型レールガンは三秒に一発は撃てるので、六門搭載していれば秒間二発撃てる計算に成る。

 バルカン砲の掃射に比べればは遥かに見劣りする連射だが、射撃精度と威力が段違いなので問題ない。回避行動を取る敵に対して高エネルギーレーザーをポインタ代わりに照射しつつ、さらにレールガンを速射して追い打ちを掛けるが、この敵機も致命的な損害を受ける前に撤退していった。苦し紛れに放たれた敵機のクエンチガンは古都子の乗るライノガンズの近くにクレーターを作っただけだった。


(この男の人、誰?)

(名前ならホログラムで表示されていますよ)


 彼の機体を見ると、機体名はエアヘッドキャメルとなっており、オペレーター名はアイザックと書いてあった。ちなみに、ヴァイオレッタの機体名はスツーカだった。


(いや、そうじゃなくて、エライ人とかヴァイオレッタの友人だったりするの?)

(ヴァイオレッタさんの交友範囲までは、シャルルでもさすがに調べられません。ネットで検索した所、ゲームに登録された名前も本名ではなく、オペレーターアイコンも顔写真ではなくイラストなので、ゲームに登録された事以上はわかりません。ゲーム内でも大会入賞歴が有るわけでもなく、特にクランやギルドなどの大勢を率いる人間関係を構築しているわけではないようです)


(この指示には従ったほうが良いのかな?)

(それは、シャルルのお答えできる質問ではありません。ただ、彼の言い出した指示は、このマップでは妥当なモノと評価されています。いわゆる定石です。)


 古都子がシャルルに相談しながらアイザックに追従して行軍していると、またも両軍の飛行機が上空に現れたので、クエンチガンで狙撃を試みる。アイザックの方も射程が届くレールガンのみで狙撃していた。


(ねえ、シャルル。このゲームはレーダーで策敵したり、サーカスみたいなミサイルをばら撒いたり出来ないの?)行軍と狙撃の合間に古都子が尋ねる。

(まず、敵対的ナノマシンクラウドの影響がある場所においては、遠距離の無線通信が大幅に阻害されています。このゲームの戦場はすべてクラウド境界線という扱いなので、敵味方のナノマシンが相剋しつつ充満しています。しかも雨天なので、ナノマシンクラウドを利用した中空での通信も不可能となり、航空機タイプのドローンは使用できませんし、無線方式のミサイルも使用できません)


(へー。レーダーは?)

(レーダーも同様で大きく阻害されます。専用のレーダーを使用しても索敵範囲は五十キロメートルほどが最大となります。これは、ドローンで運用される戦術高エネルギーレーザーの最大射程とほぼ同等の性能です。ですので、光学カメラで敵影を確認した上で、敵影の電子データを記録するスポットという索敵方法を専用レーダーと併用する方法が、戦場では一番効果的となっています)


 ちなみに、シャルルによる説明の間に行っていた狙撃は全て外れている。移動と立ち止まっての狙撃を繰り返しているとはいえ、既に大体の狙撃ポイントが敵にバレており、敵機は巧みに回避行動を取りながら、索敵と爆撃を味方の本隊に繰り返していた。


「おい、美槌。そろそろ、味方本隊がトンネルに入る。そうすると敵の飛行機には射的の的がなくなるから、こっちに向かってくるぞ。気をつけろ」


 古都子の隣を行軍する首なしラクダドローンのオペレーターであるアイザックがプライベート回線で話しかけてきた。


(このプライベート回線って、内緒話だよね?)

(そうですね。チーム回線やルーム回線では会話が錯綜して混乱しますからね。戦闘中の会話は必要な相手とだけプライベート回線やルーム回線で話すのが一般的です)


 古都子がシャルルに相談して黙っていると、アイザックはさらに続けた。


「俺がレールガンを速射して相手を追い込むから、俺の砲撃から逃げるのに必死なヤツを先に始末するんだ。片方潰した時にこっちが両方健在なら、十分勝ち目は在る」

「わかりました。ボク、がんばりますね」


 しとしと穏やかな雨の降る中、古都子は言われた通りに狙いを定める。隣からは、レールガンの砲弾が空気と雨を焼き切る鋭い音が聞こえている。秒間二発。六門のレールガンが代わる代わる打ち出す、破滅の鉄塊だ。

 敵飛行機二機も負けじとソレノイドクエンチガンによる爆撃を行う。しかし、なにぶん飛行機のクエンチガンは搭載数が少ない。ペイロードと出力の関係で、多くて二門だ。そのせいで、古都子たちには有効打を与える事が出来なかった。しかも、メイン武装は高機動戦闘用の戦術高エネルギーレーザーである。近接爆撃のヒットアンドウェイか、超長距離爆撃が最適解なのだが、随伴しているアイザックが操るエアヘッドキャメルのおかげで一機は近接爆撃を阻害されている格好になっている。

 狙われている方の敵飛行機は機首を揺らして回避行動を巧みに行うが、それ故に次第に速度を落としていく。相手がある程度速度を落としたところで、アイザックの砲撃が敵の尾部を狙う形に変化する。敵は釣られて速度を上げる事に専念し始めた。

 そこを狙いすましていた古都子が、相手の航路を先読みしてソレノイドクエンチガンを全弾連射した。全弾命中とはいかなかったが、古都子の砲撃で固定翼を一つもぎ取られた敵機はそのまま墜落する。


「へへっ、やーりぃ!」


 敵機の撃墜に、つい古都子は歓声を上げてしまう。


 しかし、ノーマークだった方の敵機が首尾よく近接爆撃を実行してきた。降り注ぐレーザー照射とクエンチガンの砲弾が容赦なく古都子のドローンに降り注いだ。


「うわわっと!」

「なんでも良いから動け、狙撃している時以外は常に動くんだ。止まれば的になる」

「は、はい!」


 敵の攻撃が降り注ぐ中、前後左右に移動したり、ジャンプしたりと、古都子は賢明に機体を動かした。

 敵飛行機としては超長距離でも十分な破壊力でスナイプ可能なソレノイドクエンチガンを大量に装備したライノガンズこそ、真っ先に始末したい相手なのだろう。古都子を無力化すべく有効な火力の全てを彼女のドローンに叩き込んできた。


「へっ、スナイパーの存在に釣られて、インファイト可能な俺のドローンの目の前に飛び込んで来た段階で、お前に勝機は無いんだよ!」


 回避行動を捨てて対空砲火に集中したアイザックのエアヘッドキャメルからレーザーと砲弾による濃密な攻撃が敵機にぶち当たる。機体をズタボロにされた最後の敵飛行機は、墜落する事なく爆発四散した。


「ふぅ、助かったぁー」

「良い機体をチョイスしたな。美槌。敵飛行機の接近を許して戦闘不能にならなかったんだからな。で、損耗はどの程度だ?」


 アイザックの疑問に答えるように、シャルルが古都子に報告を始めた。


(損耗率はナノマテリアル換算で六十%、ソレノイドクエンチガンが一門大破しており、修復完了にはしばらく時間がかかります)


 内容が良く分からなかった古都子は、そのままアイザックに伝えることにした。


「ナノマテリアル換算で六十%、クエンチガンが一門大破だってさ。ボクにはよく分かんないかな」

「ああ、ドローンは搭載しているナノマテリアルが尽きないかぎり、ナノマシンで自動修復可能なんだよ。瞬間回復ってわけじゃないけどな。で、マテリアルってのが修理用の材料ってわけだ。ナノマシンそのものの材料にも成るんだがな」


 アイザックが話しながら進軍し始めたので、古都子もそれに追従した。


「へぇー。じゃあ今さっき喰らった攻撃をもう一度受けたら、ボクのドローンは大破しちゃんだ?」

「そういうことだ。ま、そうなったら、ガレージで五分ほど電子ドラッグでも齧って待ちぼうけだな」 


「えー。おクスリはなんかイヤだなぁ」

「お前、変わったヤツだな。このゲームも初めてなのか?」

「はい。そうですよ!宜しくお願いします!」

「お、応。俺はアイザックって言うんだ。よろしくな」


 古都子の弾けるようなスマイルと挨拶に、アイザックは軽く気圧された。


「ボクは美槌古都子って言います」

「ま、名前は見えているが名乗って挨拶ってのは存外重要だからな。ところで、そのライノガンズは自分で選んだのか?」


 すこしだけ声のトーンを気軽なモノから落ち着いたモノに変更して、アイザックは古都子に質問した。


「ヴァイオレッタが選んでくれたんですよ」


「へー。あの飛行機に乗っているお嬢ちゃんか。普通、スナイパーって言うと軽量で機動性重視のドローンを選ぶんだがな。そうすると、自然と耐久が疎かになって、さっきみたいに近接されるとまず撃破される。その点、そのライノガンズは耐久性が高いからやりようによっては生き残れる可能性がある。俺好みだな」 

「彼女が作ったみたいだから、そう言ってあげれば喜んでくれるかもしれませんね」


 あ、これヴァイオレッタを口説きたいんだな?と、バカな勘違いをした古都子が、さわやかな笑顔とともに、応援しますよという感じに返答した。


「そうなのか。まあ、機会があったら褒めてやるさ。わざわざ、言うほどの事じゃない。重要なのは実際に使いこなす事だからな」


 返事を軽く流されたので、古都子は興味本位で気になった事を聞いてみることにした。


「ライノガンズを使うのって変わってるんですか?」

「ポイント稼ぎが大好きなゲーマー共には人気が無い機体だな。だが、初心者や集団運用基本の軍人が使うには良い機体だ」


「そうなんだ」

「しぶといってのは重要なのさ」


 何かの思い出を噛みしめるように、渋みのある声音でアイザックは返事を返した。

 敵飛行機部隊が全滅し、敵本隊が味方本隊と本格的な砲撃戦を始めた今、アイザックと古都子はまさに無人の野を征くが如くドローンを進軍させた。


「よし、この辺で良いか、左側に遮蔽を取ってマップに付けたマーカー辺りを、超望遠で見てみろ」


 ポポーンと低めの音程の音とともに、画面端のマップの上にマーカーが記される。

 マップの北西、敵の主力が遮蔽を取りながら陣取り、味方本隊と砲撃戦を繰り広げている辺だ。

 そして、アイザックがチームチャットで指示を飛ばす。


「こちら東側の別働隊。狙撃ポイントに到着した。飛行機は敵のメディックを追い立ててくれ。こっちはメディック優先で片付ける。そうすれば、相手の戦線は瓦解するはずだ」

ヴァイオレッタがすかさず返事をする。

「分かったの!敵をスポットするから、ちゃんと狙い撃ちにするの!」

 彼女の返事とともに再び低い警告音が響いてマップに再び敵影を示すマーカーが打ち込まれた。


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