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極東311  作者: 西田啓佑
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003.プロフェシー

 古都子がダンとヴァイオレッタの申し出を受けると、プロフェシーが手早く身支度を整えてくれた。さらに、古都子が不在の間の部屋の管理も請け負ってくれた。そもそも、プロフェシーは古都子が入居する以前から部屋の管理をしていたので、その点は古都子にも信頼できた。

 古都子がオムニ家邸宅に着くと、ヴァイオレッタは早速屋敷の中を案内してくれた。一通りの案内が終わった後、彼女たちは屋敷内にあるヴァイオレッタ用の客間でくつろいでいた。


「そういえば、古都子くんは自分の部屋のプロフェシーをカスタマイズしていなかったの。やり方分からなかったの?」


 ダン老人が居た時とは打って変わって砕けた、それでいて独特な口調でヴァイオレッタが話を切り出した。

 ちなみに、古都子の事はダン老人を真似て君付けで呼ぶつもりらしい。敬称にそれほど頓着していない古都子は、年下に君付けで呼ばれる事も特に気にならなかった。


「え?そんな事できるの?というか、プロフェシーってたくさんいるの?」

「プロフェシーは対話型インターフェースってみんなに言わてるけど、本当はこの都市の制御コンピューターだし、ユーザーごとに一人一個ずつ割り振られているの。で、自分のプロフェシーを区別しやすいように名前を付けることができるの!」


「へー。よく分かんないけど、名前を変えて自分だけのものにできるんだね」

「そうなの!ぷらいばしぃっていうのは大切らしいの!」


 この時にヴァイオレッタの話したことを要約すると、次のように成る。

 都市制御コンピューターであるプロフェシーはクラウド型ネットワークを形作っており、都市の住人に一台ずつクラウド端末が割り振られている。この多数の端末は都市各所の電算ブロックにおいてクラウド管理されており、それらがさらに対話型インターフェースとネットワークを形成して、都市住民にサービスを提供している。という次第である。なので、プロフェシーは一つであると同時に都市住人の数と同じだけ存在していることに成る。また、このサービスは程度の差こそあれ、社員と従業員すべてに提供されている。

 さらに言えば、プロフェシーは都市の全てに繋がっているが、同時に各端末がスタンドアローン化する事も可能で、各端末の保有する情報を常に共有開放しているわけではない。逆に、もしも常時共有開放していたならば、ゴミデータの処理に手間取り都市運営のクオリティは大幅に低下するだろう。


「だから、古都子くんも自分のプロフェシーに名前をつけるといいの!」

「うーん……。よく分かんないけど、まあいっか。ところで、ヴァイオレッタはなんて名前にしているの?」

「シャルロッテ」


「由来は何かあるの?」

「特にないの。プロフェシーに候補を出させて選んだの。欧州の女性によくつけられる名前なの」

「ふーん。じゃあ、ボクは日本っぽい名前で、プロ太郎にしようかな?」

「えー?なんか響がよくないの」


「確かに、太郎や花子は二十世紀末には日本人の名前の典型例として引用されていましたが、その名前自体は、それほど一般的ではありませんでした。また、太郎の前に『プロ』と名付ける例はほとんど無いです」


それまで黙っていたプロフェシーが発言した


「まあ、たしかにね。プロフェシーのプロに太郎を足してみたんだけど……。、うーん。あんまり良くないか」

「そうなの。その名前は止めておくの」


「じゃあ、ガチョウ倶楽部ってどう?」

「それ、レガシーフィルムに出てたお笑いグループだよね?」


 と、ヴァイオレッタがジト目で聞き返した。


「そうそう、けっこう面白い」

「ボツ。それグループ名なの」


「じゃあ、ざまぁーす」面倒くさそうに古都子が言ってみる。

「それ、番組名なの。ボツなの!」すかさずダメ出し。


「えー。じゃあ、ヴァイオレッタが決めなよ」

「古都子くんのプロフェシーなの。ちゃんと決めるの!」


 そう言われると、古都子は口をへの字に曲げてウンウン唸り始めた。古都子が適当に名前を言って、ヴァイオレッタがダメ出しするという光景がしばらく続く。

 業を煮やした古都子が立ち上がって声を荒げた。


「キミのそのダメ出しには、さんざんだよ!」


と、あるお笑い芸人のキレ芸を古都子がマネて、立ち上がりざまに叫んだ。すると、ヴァイオレッタは可愛らしく小首をかしげ、立ち上がっている古都子を上目遣いで、無言のまましばらく眺めた。


「……。取り乱しました。どーも、すみません」古都子は、茶目っ気たっぷりにコツンと自分の頭を拳で叩いて、着席した。


「レガシーフィルムに堪能なわたしだから問題なかったの。これが、しらふのパンピーなら、まず確実にドン引きなの。もう、そんなに思いつかないのなら、古都子くんもシャルロッテの名前候補から選んじゃえばいいと思うな」

「名前を決めるのって難しいよねー。んじゃ、シャルル」


と、言いながら古都子は、ヴァイオレッタがポケットから取り出した携帯端末のモニターを無視して言った。


「どうして、その名前にするの?」

「ヴァイオレッタのがシャルロッテでしょ。だから、シャルルかロッテにしようかなと思ってね。で、ロッテだとお菓子食べたくなっちゃうから、じゃあシャルルでいいやみたいな……」


「ふーん。もう、しょうがないの。それでいいんじゃないかな」

「ふう。やれやれだよ。じゃあ、名前はどうやって入力すればいいの?」


「プロフェシーの名前を変えるのは特別な命令に成るから、ここに書いてある通りに命令すればいいの」と、先ほど取り出したプラスティックの下敷きのような携帯端末のモニターを、ヴァイオレッタは指し示した。

「ユーティリティコマンド・プロフェシー。コマンド入力・リネーム・シャルル」


 古都子は音声入力の為に命令を、誰に言うふうにでもなく中空に向かって喋った。


「声紋およびサーカディアンリズム確認。リネームを実行しました。私の名前はシャルルです。こんごとも、よろしく」


プロフェシー改めシャルルが古都子の衣服に付属している端末から返事をした。


「そういえば、古都子くんはシャルルにパスワードを設定していなかったの。したほうがいいよ?」


「あ、そっか。んじゃ、一人の時にでもするよ。けど、パソコンだってパスとかユーザー名とか付けなくて良いヤツとかあったのに、プロフェシーは面倒だね」

「んー。せきゅりてぃは面倒な方が安全らしいよ?」

「そういうものなんだ」


「今日は古都子くんの為に一日お休みを貰っているから、勉強とかも特にないの。晩ごはんまで時間もあるし、何か他にしたいことある?」

「んー。特にないかな。そもそもレガシーフィルム調べる以外は特に何もしてこなかったし……」


ちょっと困惑した顔で古都子が答えた。


「そうなの。昔のことが気になるからって、根を詰め過ぎると良くないの。する事がないのなら私と一緒に遊ぼ?」

「いいよ。この時代の遊びって何があるの?」

「じゃあ、ついてくるの。こっちだよ」


 そう言ってヴァイオレッタは古都子を引き連れて部屋を出た。


次の更新まではしばらくお時間頂くことになります。

ヴァーチャルゲームパートの執筆が一段落したら日刊投稿致します


気長にお待ちいただければ、幸いです

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