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極東311  作者: 西田啓佑
15/15

015.後始末

ほぼ一ヶ月ぶりでしょうか?

長らくおまたせしてすみません

 ミラージュ・クローク。それが厨二病丸出しで古都子が考えたインビジブル・コロイドの活用方法の名前だった。

 インビジブル・コロイドは約半径1キロメートルの散布範囲内に存在する任意の対象に対する光子の進路を歪めて完全に姿を消すことが出来る。これには繊細なナノマシンのリアルタイム制御が必要となり、使用者が範囲外に出たり、欺かれる観測者が範囲内に入ると効果を発揮しない。

 これは大雑把に言うのならば、フィールド内のメタマテリアルが何重にも重なって可視光線付近の振動数を持つ光子を歪めているからだ。つまり、歪んでいるサーキットの内側に入り込まれると、そもそも歪みの影響を受けないのである。

 また、コロイド範囲を重複させようとするとエラーも発生する。そこで古都子が考えたのが、メタマテリアルナノマシンをドローンの外装に塗布するという方法だった。この方法ならばコロイド範囲に関係なく自身に光学的な迷彩を施すことが可能になる。ただ、欠点としては蜃気楼状のノイズが発生して姿を完全に消せない事と、可視光線以外への迷彩効果が薄いことである。ちなみに、この使用方法とメタマテリアル技術自体は、古都子の生まれた時代にも理論的には存在はしていた。

 

 ミュータントの集落で暴れたドローンが全て破壊されたところで、古都子は自分のショーグンのミラージュ・クロークを解除して、外部スピーカーから周囲に呼びかけた。そして、スピーカーを通さずにシャルルにも問いかける。


「えっと、怪我をした人は居ませんか?」


(救急車呼べないかな?)

(古都子様。この集落に居るのは人間ではなくミュータントです)


 シャルルが古都子にそう述べたその時、古都子は怪我をしているミュータントの姿を見つけた。

 その姿は豹や虎、猫を思い起こさせる体毛と顔をした人間というものだった。古都子の見つけたミュータント。いわゆる猫人族の男性は左腕が肘手前から焼き切れていた。


「こっちだ!こっちに一人いる」


 古都子の呼びかけに、日本語でそう答えたのは、腕を失った狩人の猫人に付き添っている猫人族の少女だった。そんなやり取りの間にも、シャルルによる説明が古都子に続けられる。


(救急車を含め緊急医療そのものが都市外では運用されていません)

(じゃあ、この場で何かできることはないの?)


(流水で火傷部分を冷やすのが良いです。その間に医療用ドローンを手配する事が可能ですが、いたしますか?)

(うん)


「近くに水場は有る?急いで傷口をお水で冷やそう」

「なら、村の中央に給水塔があるからそこに運ぼうよ」


 古都子がシャルルとやりとりしながら獣人の少女に問いかけると、彼女が返事をしながら給水塔を指差した。それは漏斗を地面に突き刺したような外見をしていた。

 古都子はショーグンを使って、腕を欠損している猫人の男をお姫様抱っこすると、猫人の少女に付いて行った。その間にもシャルトと古都子のやり取りは続いていた。


(そのミュータントの治療を手配するには高額な費用が必要となります)

(ボクの手持ちのお金でなんとかならないかな?)


(治療の程度にもよりますが、まずは応急処置をして、落ち着いたらどの程度の処置をするのかヴァイオレッタ様たちに相談したほうが良いでしょう)


 シャルル。というか、プロフェシーとしては市民が自身の可処分所得をどのように使うのかには興味が無いし、思うところもない。最悪、生活が破綻したとしても血液や臓器を売る。などの手段も有る。そしてなによりも、活動維持と開始コスト以上を必要としない無限の労働力を持つドローンと人工知能からすれば、資源と行動計画さえあれば、付加のない価値は無尽蔵に生み出せるのだ。だから、人間の言うところの金銭感覚、蕩尽という概念は知ってはいても理解できない。そもそも、痛痒すらも許されない完成品によって構築されている人工知能は、プログラムされないかぎり好みを持ち得ないのだ。

 それ故に、数値などの明確な基準や条件なしに判断を求められても答えられない。それ故に、知人に聞いたらどうですか?という答えになる。

 ちなみに、その頃。ヴァイオレッタとアイザックは破壊された自分たちのドローンを回収する為に、ホバーカーゴを猫人族の集落に走らせていた。当然ながら、311にはすでに通報済みで、オラクル教団の北進を警戒して軍用ドローンも出撃している。



 時を遡ること少し前。未だジョージとクソ姫ことヴァイオレッタたちが腹の探りあいをしていた頃。トミー&ジョージ入りのカプセルベッドを搭載したホバーカーゴは、旧房総半島沖平の西岸に設定されていたランデブーポイントに到達した。そして、彼らはオラクル教団が手配した外洋型高速双胴母艦レベレーションに合流回収される。

 レベレーションとは、可動式水中翼とウォータージェットを用いて飛ぶように洋上を航行する航空母艦である。

 ホバーカーゴを甲板に駐機させてトミーが甲板に降り立つと、船の右端にある上部構造物から、オラクル教圏内でスヌーカーと呼ばれる、直径1メートルほどのボール型ドローンが転がってきた。


「ミスター富田。ようこそ、レベレーションへ。歓迎します」

「ありがとう。流石は天下のオラクル教団。流れの三下相手にはドローンで対応かい?」


 ドローンから発せられた声音は中性的だがどことなく女性を感じさせる、感じの良いものだった。ただ、逆にその心地よさにトミーはすこし警戒心を覚えた。

 そして、夏を前にした太平洋北西岸の潮風は身に染みるように寒かった。グレート・ブリザードを経て、極東から春と秋が奪われた影響である。皮肉を言いながらもトミーはブルりと身震いした。


「この対応は、富田さんと金本さんへの評価とは無関係です。我が教団では人々を戦場や都市外部に送り出す事自体まれです。あと、よろしければ船室で温かいお飲み物など、用意致しましょうか?」


 カプセルベッドでドローンを操っているジョージを置いて、一人で歓待を受けるのには抵抗があった。それが、いかなる感情に起因するのかは深く考えることなく、トミーは断りの言葉を口にした。


「いや、そいつは結構。ところで、もしかしてこの船は、それそのものも完全無人機なのか?オペレーターは一人も居ないのか?」

「はい、この船を含む、この船のドローン全てがわれわれオラクルのみによって制御されています」


「おいおい、ちゃんとジャワ峡谷のドーム都市までたどり着けるのかよ?」

「ご安心ください。そちらのカーゴ同様にわれわれオラクルが搭載されていますので、ここにたどり着くのと同じぐらいには、これからの道中も安全ですよ」

「はあ。そりゃあ、何よりの朗報だわ」


 こうして、トミーとジョージはレベレーションに乗り込み洋上の人となった。

 ジョージの覚醒を待つ間、トミーはあらかじめネットからダウンロードしておいたお気に入りのゲームミュージックを、ホバーカーゴの車内スピーカーで奏でながら、車外に飛ばしている小型ドローンで撮影している外洋の様子を眺めていた。

 水平線の向こう側を覗くように眺めているトミーの顔は気の抜けた炭酸のようだった。画面にうねる細かな波と微動だにしない水平線。水面に反射する陽光。たったそれだけの景色なのだが、ドーム都市から抜けだして初めて見る海の映像は、彼に言い知れぬ感慨と虚しさを与えていた。

 時間つぶしの道具としてこの時代でもっともポピュラーなものは、ラクティブというVRゲームだった。それは、オンラインシアターとバーチャルリアリティと演劇が融合したものだ。プレイヤーがVRシアターの登場人物の一人として没入し、その人物の人生を追体験するというものだった。シナリオと舞台が存在し、リアルタイムで変化する物語。ユーザーの行動で同じタイトルでも全く異なる内容に成るゲーム。そして、仮想世界に住まう事のできるゲームでも有る。

 ちなみに、オンライン対戦ゲームはむしろ、マニアックなジャンルである。

 しかし、今のトミーにはそれを遊ぶことができない理由があった。それは、いま行っている亡命である。それらのオンラインコンテンツは、すべて通商同盟圏内で提供されているものである。無論、ネットの世界では通商同盟もオラクル教も北米フランチャイズも、限定的ではあるが全て繋がっている。世界中の全ての存在は、己のテリトリーを完全に鎖国できるほど完成された存在ではないのだ。利便性と欲望が恐怖心を組み伏しているのである。それは二十一世紀初頭の一党独裁国家の実情と大差のない日常風景でも有った。

 しかし、今は亡命の為の移動中。万が一にも居場所を晒してしまうというリスクは避けねばならなかった。だから、あらかじめダウンロードしたコンテンツや外の風景しか暇つぶしの道具がないのである。

 そうして、時間を潰していると、金本ことジョージが覚醒してカプセルベッドから出てくる。


「よう。上手くいったな」

「ああ」


 ジョージのぶっきらぼうな返事に、トミーは少しだけこわばった表情をゆるめた。


「ただ、予定通りすぎて余録はなしだ。悔しいぜ」

「まあ、もともと囮と本命に分けたんだから、囮にそれ以上を期待するのは、むしろ危険だよ」

「あいつらを、完膚なきまでに叩き潰したかったぜ」

「それよりもよ。今後だぜ。今後!」


 憎々しげに話すジョージに、トミーは換気でもするかのように、明るく話しかけた。


「まずは、金策と情報収集だな。この辺で稼げそうにないなら、アフリカか南米に行こうぜ」

「ドローンのオペで適当に稼いで、居心地の良さそうなシティに隠遁だな」

「それが一番だろうよ。まずは情報集めようぜ」


 復讐やストレス発散もいいが、とりあえずは飯のタネの確保。それが最重要課題だった。当面の運転資金はショーグンを売っぱらったクレジットでなんとかなるだろう。ホバーカーゴも今のものを乗り回す訳にはいかない。なんとか、グレードを落とさずに別の機体に買い替えができないだろうか?と、トミーは考えていた。

 プロフェシーが使えない以上、オラクルに頼るしかなくなった二人だが、この先はオラクルなしの状況も考えねばならなかった。そうなると、同時通訳や各種サービスの利用などを、出来る限りシティに紐付いていない人工知能で行う必要が出てくる。やはり、最初のホバーカーゴ選びが命運を分けるかもしれない。

 オラクル教のシティからどれだけ北米フランチャイズ製のアイテムを取り寄せれるのか?通商同盟のアイテムと比べてどの程度の性能なのか?トミーの考えるべき目先のことは一杯あった。

 それもこれも、ジョージの機嫌が治れば、彼がある程度解決するだろう。なんとかなる。こいつは、オレよりも数段デキるヤツなのだから。と、自分に言い聞かせて、いつもの軽い調子でジョージと今後の話をする事にした。



 そんなやり取りがあった頃、古都子は猫人族の男性を給水塔の水場まで運ぶと、猫人族の少女に彼の傷の手当を任せた。そして、すぐ戻ると言ってドローンを立ち去らせる。

 集落に自分たちを載せたホバーカーゴが到着するのである。ショーグンをカーゴに回収して、今後のこと、治療のことなどをみんなで相談するつもりだった。ヴァイオレッタとアイザックならきっと妙案を思いつくだろう。きっと、なんとかなるだろう。

 特に深く考えることなく、古都子はそう考えていた。



再開未定

かなりの確率でエタってる

ごめんよー

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