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極東311  作者: 西田啓佑
10/15

010.転機

もうしばらく、新しいゲームは見つからなさそうです

 人型戦闘用ドローン「ショーグン」、オムニインダストリアルから限定販売。

 その一報は人々に衝撃をもたらした。おもにドローンクラッシュのプレイヤー界隈で。

 それもそのはずである。戦闘用ドローンとは、いわばウェポンキャリア。武器運搬装置でしかないのである。運搬装置に必要なのは、移動手段と、頑健なボディと、武器搭載容量であり、目的に応じたそれらのバランスでしかない。付け加えるとしても、火器管制との相性ぐらいである。間違っても、人型である必要性はないし、そもそも四肢に移動を頼るのは構造上の脆さや弱点にしかならない。


「いくら新作ドローンとはいえ、ネタ機四人小隊とか嫌がらせにも程があるだろ……」

「これでケツブロックとかされた日には数え役満だな。トミー」

「ああ」


 自軍のチームに配置されている四機のショーグンを見て二人はルーム回線で話し合っていた。機体に付随している名称ホログラフによれば、彼らは金本譲司と富田賢治のようである。機体はどちらもグラスホッパーであり、ソレノイドクエンチガンを使用するスナイパーである。ちなみに、ケツブロックとは前線の味方の背後にピッタリと張り付いて退路を断つ迷惑行為である。車間距離を考慮できずに攻撃だけを考えていたりするゲーマーにはありがちのミスでもある。

 マップは密林高地。マップ中央に南北を走るように断崖絶壁を誇る三つの高台が鎮座し、南東に金本たちのチーム。そして北西に対戦相手のチームの本拠点が配置されていた。マップ全体は密林に覆われており、装輪ヴィークルでの密林横断は不可能になっていた。救済措置としてマップの至る所にオフロードが敷かれているが、ルートの固定されている不利は免れそうにない。無限軌道ならば密林を破砕しながらの前進も不可能ではないかもしれないが、現実味に欠ける。

 ホバー機が高度を取れば、最高五メートル程度の密林もたやすく走破可能だが、そうすれば今度は遮蔽なしの集中砲火を浴びる可能性が高くなる。という、立ち回りの難しいマップである。

 結果として、金本たちの選んだグラスホッパーは、高台からのスナイプよし、自由な高速移動も可能という、このマップには最適のドローンと言えた。ただ、ソレノイドクエンチガンをメインとする軽装スナイパーは、小型レールガンをメイン武装とするフォワードよりも、マップを選ばずにポイントを稼げるという傾向もあるので、むしろ金本たちがこの機体をチョイスしている理由はそちらでもあった。

 以前に、小型レールガンとレーザーをガン積みしたタンカーフォワードを使って、ハイエナに失敗した挙句に爆散した事を根に持っている訳ではないはずである。


「まあ、いいさ。せいぜい連中を弾除けや囮に使ってポイントを稼ごうぜ」

「ああ、今回も絶好のスナイプポジションを確保して狙撃でハメ殺してやるぜ」



 彼らと同じチームに居る四機のショーグンは一つのルームからの参戦であった。そう、美槌古都子と愉快な仲間たちである。


「さあ。いよいよお披露目でござるよ」

「よーし。ボク、がんばるぞー!」

「まあ、チーム構成は悪くないと思うの」


 ハンスと古都子がやる気を見せる中、ヴァイオレッタは冷静に呟いた。


「俺達だけでもバランスは取れているからな。まさか、騎乗用のリバーストライクのバリエーションを豊富に作るとか、考えもしなかったぜ」


 アイザックの言うリバーストライクは前輪二輪で後輪一輪の装輪ヴィークルで形状的にバイクに近い。ただ、バイクよりも搭乗する人型ドローン比で車高が高いので、またがると言うよりは、乗り込むバイクという風体に近い。


「そこはヴァイオレッタと古都子のわがままの成せる業なの」

「ま、何にしてもメディック用のトライク一機に、砲戦用のトライク三機なら、ある程度の状況に対応できるだろ?」



 砲戦用のトライクには対空用レーザー三門に小型電磁レールガン三門が装備されている。そして、メディック用のトライクにはタレット角度を調整した汎用レーザー三門と修理用ナノマシンベースが一基装備されている。此処にはない他のバリエーションのトライクとしては、電子戦用やナノマシン散布用。兵装輸送用などもある。変わり種では水陸両用も設計されたが今回は製造を見送られている。

 これらのトライクはショーグンを介して操縦可能であると同時に、プロフェシーによる遠隔操縦も可能になっている。

 ちなみに、すべてのドローンはプロフェシーによる操縦も可能ではあるが、様々な事情からプロフェシーによる制御は行われない。なお、一番の理由には、動きが最適化されすぎて柔軟性に欠けるという点がある。


「見たところチームにはグラスホッパーも二機居るみたいだし、オールレンジで戦えると思うの」


 定石である初手の敵拠点への間接砲撃をしながら、ヴァイオレッタたちはルーム会話をしている。ショーグン四基はトライクに搭載している携帯用小型電磁レールガンを取り出して発砲している。さながら対物ライフルを強引に構えて発砲しているような姿である。


「出発!」


 古都子の号令一下、四機のショーグン部隊はオフロードに沿って進軍する。


「よし、ヴィークル部隊は道なりにそのまま前進。スナイパーはその援護をしろ!」


 金本がチーム回線で号令を出した。別に彼がリーダーというわけでもなく、指揮権が誰かに存在するわけでもないので、誰も命令を実行する必要はない。ただ、こういうゲームにおいては、チャットでの指示は言ったもの勝ち早いもの勝ちという傾向がある。無論、理不尽な命令やて定石に外れた命令や要請を出せば、無視もされるし、クレームを叩きつけられることも有る。


「この試合には軍師殿が居るでござるな」

「心強い限りだな。軍死じゃなければ」


「たぶん、軍死なの。命令出している彼。スナイパーだもん」

「ま、ありがちなポイ厨か」


「どゆこと?」

「ん?ああ、俺たちは俺達のやりたいようにやるのが良いって事さ」

「そうだね。ゲームは楽しまなくっちゃ!」


「狙撃がはじまるまではこのまま突っ切ろう。狙撃を確認次第、トライクは乗り捨てて徒歩で密林内を進む」

「離脱後のトライクはプロフェシーたちに制御をまかせるの。基本指示はショーグン以外のヴィークルで構成された味方集団のフォローなの」

「了解しました」


 シャルロッテがプロフェシーを代表して応答する。

 


 移動ルートが敵の射線に入らないように高地を盾にしながら一番手前の高地に駆け寄る二機のグラスホッパー。敵を警戒しつつも富田が雑談を始める。


「あのショーグンとかいう機体。別にドローンでバイクに乗る必要なかったんじゃないのか?」

「乗せたかったから作ったって感じなんだろうな。だから、ネタ機は困るんだよ。アレじゃ、耐久性も火力も中途半端だろ。速度だけは一人前みたいだが。余計な機能付けるぐらいなら、タンクとしての完成度に気を使えってんだよ」


「ま、さっさと狙撃ポジションについて敵の地上ドローンを食っちまおうぜ。あいつらが全滅したら、こっちが狙撃の的にされるからな」

「だな」


 富田と金本は一番手前の高台の麓に到着すると、ホバーを停止して手早く高台の崖に飛びついた。インセクトレッグの自在に変形する流体金属で出来た爪と脚力を駆使して、彼らのグラスホッパーは、ほぼ垂直の崖を登攀し始めた。



「あの二人、敵のスナイパーを牽制してくれると思う?」

「デキる狙撃手だったら相手のスナイパーを追い払ったあとか、追い払いつつ地上機を始末するだろうが、アテにしない方が良いだろうな」

「完全ルーム参戦ならば、緻密な連携も可能でござるが、野良が混じっている以上、最悪の状況を想定して動くのが安牌でござる」


 登攀を始めたスナイパーたちを視界に捉えつつ三人は相談しながら進軍を続ける。その間、古都子は密林のドライブを満喫していた。

 そして、ついに敵のスナイパーによる狙撃が始まる。敵方のスナイパーは三体居るようで、ソレノイドクエンチガンの発砲数は多めだった。高台から打ってきている事から、インセクトレッグ持ちのスナイパー。たぶん相手方もグラスホッパーであろう事が想像できた。


「敵スナイパーからの攻撃だ。援護射撃頼むぞ。こっちのスナイパー」


 狙撃に肝を冷やした味方プレイヤーがチーム回線で叫んだ。味方のドローンたちは狙撃を回避しながらオフロードから外れて密林の中に入る。そして、敵の狙撃が着弾すると、リロードタイムを狙って一斉に走りだすを繰り返した。

 このマップでの地上ヴィークル型のドローンたちは、最初の高地の麓までたどり着けば、高地を盾にする事ができる。そこからは、スニークや迂回、ダッシュを駆使して距離を稼ぐか、不利を承知で遮蔽を取りながらの射撃戦になる。なお、高地への登山口は中央高地に存在し、その頂上から南北の高地に架橋が伸びているのだが、移動している間にスナイプの餌食になる上に、走破できたとしてもスナイパーに間違いなく逃げられるので、利用するものはほとんど居ない。

 このマップはスナイプし放題のスナイパー天国であるため、ソレノイドクエンチガンを使用しないドローンを使っている人間にはすこぶる評判が悪い。とくに、地上用ドローンの使用者には鬼門のマップである。

 ただし、それはショーグンには当てはまらない話であった。バックパックを背負ったショーグンたちはリバーストライクから下車すると素早く密林の中に潜り込む。携帯兵装はバックパック以外には、腰に下げたハイテクブレードのみである。

 ちなみに、携帯型小型電磁レールガンは抱え込んでの携帯も、バックパックや背面のハードポイントに搭載しての携行も可能ではあるが、今回の作戦には不向きなのでトライクに搭載したままである。

 中腰で密林に潜り込んでひた走るショーグンを光学カメラや肉眼で探しだすことは困難を極める。しかも、センサー類は敵対的ナノマシンクラウドによってほぼ妨害され役に立たない。密林の木々の丈がもう少し低ければこの利点もなくなるのだが、その場合は匍匐前進という選択肢もあるにはあった。


「よし、このまま敵のスナイパーが陣取る高地まで駆け抜けるぞ」

「なんか、こうやって中腰で走ってると影の軍団って感じだよね」

「そうでござるな。ニンニン」


 古都子が悪ノリして言うように、中腰で疾走るショーグンたちは、確かに独特で異様な軍団ではあった。

 四機のショーグンは中央の高地麓まで到着すると、敵の視覚に入らない角度の岸壁に駆け寄り、前腕部に内蔵されたロケット噴射式のアンカーザイルを崖上に打ち込む。アンカーザイルはショーグン用のクライミングロープの先端に、ロケット噴射で推進して岸壁にロープを固定するアンカーを取り付けたザイルである。


「アンカーザイル固定よし。ブーストジャンプ!」


 古都子がルーム回線でそうつぶやくと、四機のショーグンはバックパックのロケットを併用したジャンプとザイルの巻取りを利用して、ロッククライミングを開始する。その姿はハーネスとロープを用いた懸垂下降を逆回転再生した映像のようだった。

 自分の背丈の何倍もある断崖絶壁を登り切ったショーグン四機は、周囲を見回して敵に発見されていない事を確認すると、高地間に掛けられた鉄橋を渡り北上を始めた。


 時間を前後して、古都子たちが密林を疾走している最中、金本と富田は戦況の膠着に苛立っていた。


「クソ、味方が密林に潜伏し始めたせいで、敵スナイパーのヘイトがこっちに向いているぞ」

「ふざけやがって。俺達が敵の地上部隊を叩いている間にさっさと進軍しろよ。それが、勝利への一番の近道なのに」


「こっちもポイントが稼ぎにくくなっているし、相手の狙撃に打ち返そうぜ」

「しょうがないな。どれを打ってもモグラたたきの硬直状態だからな。相手の狙撃を潰して、新しい狙撃ポイントを探そう」


「それにしても、あのショーグンどもは本気で役に立たないな。あいつらが、ガチタンクに乗って集団で突っ込んでれば、もっと有利に戦えたんじゃないのか?」

「ネタ機なんて、所詮こんなもんだろ」



 古都子たちが中央高地の岸壁に辿り着く前に、金本たちは敵狙撃集団と本格的な神経戦を開始したので、彼らが古都子たちのロッククライミングに気づくことはなかった。ショーグンの無名さと幸運が古都子たちに味方していた。


 「敵狙撃手発見!数三」


 北端の高地にある崖っぷちに陣取って角度と地形で巧みに遮蔽を取りながら、金本たちと狙撃合戦をしていた敵のグラスホッパーたちを発見すると、古都子はルーム回線で呟いた。そして、誰かが声を上げたり、行動するまもなく、そのうちの手近な一機に駆け寄りざまに、バックパックに内蔵されている有線式プラズマ弾頭マイクロミサイルランチャーを発射し、ミサイルの爆発半径に気をつけつつも全力疾走で単分子ダガーを構えて突撃した。

 しかし、敵もさるもの、奇襲を許したとはいえ視界に身を晒したショーグンを確認すると、素早く身を反転して迎撃用の対空レーザーを六本のレッグを駆使してショーグンに向ける。しかし、ほぼそれと同時にショーグンから無数のミサイルが発射される。敵グラスホッパーのオペレーターたちは、そのミサイル弾幕に驚きながらも、冷静にレーザーで薙ぎ払う。この時代のレーザーの前にはミサイルは脅威とは成り得ないのだ。そして、その対空レーザーでショーグンそのものも薙ぎ払おうとした時、視界を煙幕に遮られる。構わず、ショーグンが居ると思われる位置をレーザーが薙ぎ払うが、手応えはない。その刹那に思わぬ方向から二本のアンカーザイルが、レーザーを発射したグラスホッパーに躍り掛って突き刺さる。

 スモークディスチャージャーを炊いた直後に煙幕の中でサイドステップをしたショーグンがアンカーを射出していたのだ。アンカーを巻き上げつつ突貫した古都子のショーグンは、敵に組み付いてレーザー発射口とインセクトレッグの付け根を順繰りに破壊していった。

 古都子がグラスホッパーに組み付いた頃残りの三人も同様に敵に組み付く。そして二人がかりで組み付いたヴァイオレッタとハンスが手早く敵の解体を終えると、すかさず手分けして古都子とアイザックに加勢した。

 古都子たちは大した時間も掛けずに敵狙撃手たちを撃破する事ができた。むしろ、手ごわかったのは味方からのフレンドリー・ファイアすれすれの援護射撃であった。格闘中の古都子とアイザックの戦闘相手に、彼女らを無視して狙撃が行われたのである。

 結果として、アイザックの操るショーグンが左腕前腕部を失うダメージを受けていた。


「クレームはあと回しだ。相手がリスポーンする前に、敵本拠点を抑えるぞ」

「分かったなの」

「右手があればダガーやハイテクソードは使えるでござるからな。急ぐでござる」


 古都子たちは崖っぷちに立つと、バックパックのスタビライザーを展開。さらに修理用のナノマテリアルも動員してスタビライザーをグライダー形態に変形させると、グライダー滑空とロケットブーストを併用して、空路を用いて敵本拠点を急襲した。

 撃破された敵ドローンのオペレーター達がチーム回線で古都子たちの奇襲を伝えているが、高地の遮蔽と密林を利用して流血の伴う南下を続けていた敵地上部隊の対応は遅かった。彼らが古都子たちの姿をはるか遠くに視認した頃には、古都子たちは敵本拠点に取り付いていた。


「へへっ!やーりぃ!敵本拠点に一番槍!」


 引き返す敵地上部隊。古都子のチャンネル回線での一番槍発言を聞いて突撃を開始する味方地上部隊。ポイント獲得の為にひたすら狙撃を繰り返す金本と富田。リスポーンした直後、狙撃を諦めて至近距離でソレノイドクエンチガンと対空レーザーをぶっ放して応戦する敵のグラスホッパー。

 結局、四機のショーグンは一度敵本拠点で全滅することに成ったが、その頃には味方の地上部隊が殺到し、金本たちの狙撃と地上部隊の連携で、無事に試合に勝利する事ができた。

 ちなみに、対空レーザーは射角が空を向いているだけなので、レッグで巧く姿勢制御すれば、地上の徒歩のショーグンたちを狙うことは可能なのである。


 そして、一悶着が起きたのは、この勝利の直後であった。この騒動がその後の長い旅路の始まりになるとは、古都子もヴァイオレッタもまったく考えもしなかったのである。


月末を目処に短編を一個書こうかと思うので、そのうちもっとペースが落ちるかも。

けど、一段落するまでは書き上げたいですね。


冒険の旅が始まります

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