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真説桃太郎  作者: 石豊徳
7/15

吉備の王 六

§ 六 §


 たたら小屋がかたまっている場所から少し東にいったところに、城壁の南東部の突出したところがある。その通称「屏風折れの石垣」と呼ばれる場所の石の上にウラはひとり佇んでいた。

ここの石垣は山肌にほぼ垂直に積み上げられており(有名な熊本城の石垣でも、きちんと角度が付いている)、その突先に立つとあたかも地上四百メートルの空中に浮遊しているような錯覚に陥る。元々この場所は雨乞いや収穫祭などの祭儀の折に使用するスペースであったが、吉備中の力がここに集中しているような気がして(パワースポットの一種か)、ウラは心に迷いがあるとこの場所にやってくるのだった。

 何か自分たちでは制御不能の力によって無理矢理突き動かされていっているような、そんなとても不快な感覚が脳裏から離れなかった。こんなことは初めてだ。

 この間の評定以来、阿曽郷ではアゾタケもまるでとり憑かれでもしたかのように毎日護摩炊きに専念していた。

それに―、

 最近巷を賑わしている一つの噂があった。それは新羅の討伐軍が、ウラたち百済系の王族を根絶やしにするために立ち上がって、それがとうとう出雲あたりに上陸した、というものだった。そんなもの根も葉もない戯言のような話ではあるものの、吉備の里民にはその真相は解る筈がない。彼等の間で動揺が沸き起こっても少しも不思議ではないし、ここのところウラ一族に対する里民たちの様子が妙にヨソヨソしいのも事実であった。

 この噂が事実無根であることは、少し考えれば解りそうなものである。新羅が百済に対して戦を仕掛けるのであれば、国としての百済を討てばそれで済む。海を跨いで、遥々吉備の国までウラたちを討伐にやってくるなど、どう考えても荒唐無稽すぎる。まるで意味がない。

 しかし、ウラが苦慮しているのは、その噂の真相ではなく、寧ろその噂の出処の方であった。噂というものは、誰かが何かの意図を持って流すものである。今のウラにとって、この噂の本当の意味が解りかねていたので、モヤモヤした感じが拭えないでいたのだ。

 ―誰が、一体何の目的でこのような妙な噂を流すのか―。

「ウ・ラ。」

 不意に背後から名を呼ばれた。振り返らずともその声の主は判る。これだけ高いトーンの持主はサンをおいて他にいない。自分が妙な表情になっていないか、とても気を使いながら振り返った。サンを不安に落とし入れたくないのだ。

「どう?似合うかしら。」

 そう言って、ウラの前でクルっと一回転してみせた。

 いわゆるミニスカート風に着物をザクっと切っていて、そこから綺麗な足がすらりと伸びていた。朱色の服と相まってその太股がとても白く見える。また、普段はセミロングの黒髪を、今日は後ろに革紐で括りポニーテールのように仕上げていた。こうするとサンの透き通るように美しい項尻うなじが妙に強調されて艶めかしくさえもある。

「もう、何とか言ってよ。」と、言って膨れっ面になっている。観れば指先に朱の後がある。そうか、この着物は今染め直したばかりなのだ。

「あ、ああ。とても綺麗だ。似合うよ。その着物も良い。」

「本当?実はね、さっき染めたばっかりなんだ。」と、言ってニッコリ微笑んだかと思うとピョンピョン跳ねながらもう一周回った。

 今のウラにとって、サンが一番の精神安定剤であった。サンと居るときには、嫌なことも全て忘れ去ることが出来た。

「最近、あまり元気がないから、私、心配なんだよ。この間の評定で何か嫌なことでもあった?」サンはウラの前の立って、肌蹴たウラの着物を丁寧に直しながらそう言った。

「いや、大丈夫だ、何でもない。」ウラは横に顔を背けてしまった。とてもサンを直視出来ない。

「本当に?」と言って下からサンの顔が追いかけてくる。

「実は、里の変な噂を気にしてんじゃないの?」とうとう、サンの耳にまで入ってしまっている。

「違うよ。大丈夫だ。」とは言ってみたものの、先ほどの嫌な感覚がウラに甦ってきてしまった。

何か途方もない悩みをウラは抱えている、それがサンには嫌になるほど判っていた。

「それならイイんだけどね。」と、しか言えない、言ってやれないサンである。二人の間に一瞬だけシンとした空気が流れた。

「そうだ、ウラ!」と、ポンと一つ手を叩いた。

「ん?」

「セックスしよ!」

「はぁ~?」と、聞き返したが、その言葉の意味を考え直すと、ウラの顔はみるみる真っ赤になっていった。

「ば、ば、バカなこと言ってんじゃないよ。」それだけ口にするのがやっとのことである。耳はおろかつま先の方まで真っ赤に染まっているような気がした。それがサンに気取られてしまうのではないかと気が気ではない。

「いやぁーだ。」と言って、クククと顔を手で隠して笑い出してしまうサン。

「おっかしー、ウラったら。ムキになってまるで子供みたい。」

 からかわれて、少しムっとした顔になるウラ。

「サン。」と、諭すように言った。しかし、サンも負けていない。何か思うところがあるようだ。

「だって、ウラ。おかしいじゃない。」いつになく表情が真剣だ。

「そうでしょ。私たちはもう夫婦なんだよ。ウラにとって私はもう他の誰かじゃないんだよ。」

 と、必死に訴えかけてくる。

 まるで、今まで胸につかえていたものを一気にはきだしているかのように・・・・、

「あなたは私のことが好き?愛してくれてる?」

「勿論だ、サン。お前は俺の命だ。」

 でも、サンはウラの言うことを聞いていない。

「私が聞きたいのはそんな事じゃないの、ウラ。」

「あなたはちっとも解ってない、」

「どうして一人で悩んでいるの?」

「何で私には相談してくれないの?」

「そんなウラを眺めていて、私が何にも感じていないと思う?」

「二人は夫婦なんだよ、ウラ。」

「どこに行くのにも、何をするのにも一緒でなきゃ、イヤ!」

ひとりでに涙がサンの頬をつたっていた。

「お願いだから私をひとりぼっちにしないで・・・・・、」

 え?

「私だけをのけ者にしないで!」

「私を置いてけぼりにしないで!」

「だって、私はこんなにもあなたのことを、」

―アイシテルのに。

 そう言ってサンは、ウラの胸の中に飛び込んできた。

 ウラもそのサンを抱きしめると、自然とサンと唇を合わせていた。

 サンの目から止めどなく涙が溢れている。その涙を拭こうともしない。

キスをしている瞬間もジっとウラを見詰めている。

サンの心の中、全身全霊を掛けてウラに投げ掛けたその言葉であった。何の飾りもない、とてもシンプルであるだけにその「アイシテル」はウラの心に突き刺さった。

真直ぐにウラを見詰めているサン。当たり前の話だが、サンも実は不安で不安でたまらないのだ。

 泣きじゃくっているサンを優しく抱きしめるウラ。

「ゴメンね、サン。ごめん。」と、言ったときに気が付いた。ウラだけではない。サンも嫁いできたばかりで不安で一杯なのだ。それに加えて結婚式からこっち、忙しくて中々二人でゆっくり話をする時間も無かった。それでもサンはウラに要らぬ気を使わせぬよう、無理に元気に振舞っていただけなのだ。そんなことにすら気が付いてやれなかったのか?

 サン、と呟いてもう一度ギュっと抱きしめる。

「頭をちゃんと整理する。あとで、俺の話を聞いてくれるか?とても大事な話だ。」

 うん、うん、と、ウラの胸元に抱きついたままのサンが頷いていた。この娘だけは何としても幸せにしなければならないのに。


 初めてサンに会ったときには、実に生意気な少女であった。いつもアゾタケの後ろに引っ付いて色々なところで出くわす。吉備に着いたばかりで、まだ日本語がたどたどしかったウラに対して、私が教えてあげるから大丈夫、安心して。と、まだ八つの子供がお姉さん気取りであった。苦笑しながら「お願いします。」と言ったのを良く覚えている。

 ウラの破れた着物を、知らないうちに縫い付けてくれていたこともあった。しかし、背と腹が縫い付けてあり一体になってしまった着物は袖を通すことが出来なかった。そのときも苦笑しながら、もう一度糸を解いて自分で縫い直した。

 初めて作った黍団子を、ウラに食べろと持ってきたこともあった。見かけは不細工でどうにも美味そうには見えない代物だったが、味は格別だった。美味い、美味い、と言って食べてやると、目を細めて喜んでいたサンがそこに居た。

 姉と喧嘩をしては、ふて腐れてよくウラの家に来てブツブ言っていた。ウラが居なくても勝手に上がり込んで、当時一緒に住んでいたミョンバと屈託のない笑顔で話しを弾ませていた。ウラが帰って来たのが分かると、はち切れんばかりの笑顔で、お帰りーウラ!と、玄関まで迎えに下りてきてウラに抱きついた。

 百済を出てきて八年。気が付けばアッと言う間の八年だったが、いつも傍らにはこのサンが居てくれた。この娘が居てくれたから、実は故郷のことを懐かしがらなくてもよかったのだ。

 とても不思議な娘だった。

 ウラは当時の吉備の国の人にしてみれば巨人の部類に入る。恐れ多くて誰も近寄りもしないのが普通だ。勿論、将来ウラの嫁にという、アゾタケの考えもあったのかもしれないが、サンは全く怖がる素振りを見せたことがなかった。

 ウラにとってサンは宝物以上の存在であり、正に天使と言って差し支えなかった。半年前にアゾタケからサンの婿に、という話を貰ったときには、小躍りするほど嬉しかった。祝言の前の日には興奮して一睡もすることが出来なかったほどだ。

 目を閉じると、どんな表情のサンでも一瞬で思い浮かべることが出来る。

コロコロと笑い転げているサン―。

ムっとして睨んでいるサン―。

はにかんで上目遣いのサン―。

流し目の妙に大人びたサン―。

涙を目に一杯溜め込んで必死に何かを訴えかけようとしているサン―。


気持ちを落ち着かせてサンの顔に手を遣り、そっと涙を拭ってやった。サン、大丈夫?と問いかけてやると、サンも小さく頷いた。随分落ち着いたようだった。

ウラは近くに休ませてあった自分の馬を引っ張ってくると、サンと馬の間で跪いた。さっ、ここに足を掛けて馬に跨って、と、自分の膝を叩く。

「ええ~?私、馬に乗ったことがないのよ!」と、サンが言うが、大丈夫、と、ウラも譲らない。

 おっかなビックリで、何とかサンが馬の背によじ登ると、その後ろにウラが跨ってきて、ちょうどサンを抱きかかえる格好になった。

「いくよ、サン。」そう言うと、ウラが馬に鞭をくれた。

 二人を乗せた馬は一気に走り出した。あまりの恐怖に、サンは目を開けていられない。ゆっくり歩くと三十分は掛かる北門までの道のりを僅か数分で駆け抜けてしまった。

 北門で門番をしているデジュをウラが見付けると、ウマのスピードを緩めるでもなく、ちょっと出て来る、と声を掛けそのまま門を駆け抜けてしまった。

「サン、サン。怖がらないで。目を開けて。体の力を抜いて、俺に体を預けて。」

 恐るおそる目を開けると、物凄い勢いで前方の景色が後ろに向かってすっ飛んでいる。こんな光景は今まで経験したことがない。ジェットコースターに初めて乗ったときの衝撃と言ったら理解してもらるだろうか。山道を右に左にカーブしなから、馬は怒涛の如く疾駆している。キャー、キャー、叫びながら必死にウラにしがみついていた。

それでも十分ほど走っただろうか、ようやくサンにも余裕が出て来た。流れる景色を楽しめるようにもなってきつつあったし、ガチガチに固まっていた身体も徐々に解けてきて、馬とウラの動きに同調出来だした。

微かに聞こえるウラの心臓の鼓動。ウラに抱きかかえられている安心感と実際に体験しているこのスピード感のギャップが、物凄いエクスタシーとなってサンの脳天を貫いていた。

新緑の息吹の中を、今ウラと二人でワープしている。馬が奏でる蹄の音も、サンにはまるで交響曲のように聞こえていた。

あれ?今、低空飛行のツバメさんを追い越しませんでした?

何?私、もしかして川をジャンプしているんじゃない?

きゃっ、モンシロチョウが口に飛び込んできた。

もう、何もかもが空前絶後の体験であった。一体いくつのカーブを曲がったことだろうか。ようやく山を駆け下りて突き当たった道をまた大きく右に曲がった。そして川沿いにゆっくりと馬をすすめて渓谷を上流の方に遡っていくと、高さ四十メートルほどで四段つくりになっている滝が目の前に現れた。鳴谷の滝である。

ウラは滝の下のクヌギの木のところで馬を止めて、先に自分が下りた。さっ、大丈夫?下りれる?と聞いて、サンの脇の下に手をやって馬から下ろしてやった。

サンの膝がわらっていた。初めての乗馬に思わず緊張して足に変な力が入っていたのだろう。ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。

ウラは馬の手綱を木に結わえてから、懐から手拭を出しそれを滝の水で濡らして絞った。水はまだ冷たかったが非常に気持ちよかった。ほれっ、と、その絞りたての手拭をサンの方に放ってやると、自分は素っ裸になって、滝の中に飛び込でいってしまった。

「うっひゃー、冷たい!」と、言いながらウラは滝の水で頭や顔をバシャバシャと洗い始めた。

 サンも投げてもらった手拭で顔を拭いた。冷たくて気持ちが良かったが、足はまだ痺れて動けそうになかった。しかし、今でもまだ信じられなかった。ウラの付き添いがあったとは言え、女の自分が、マサか馬に跨ろうなどとは。

 ウラは気持ちよさそうに滝を浴びていた。正に天然のシャワーであった。サンも感覚を取り戻しつつある足を、川の方に投げ出してみた。心地好い水の流れがサンの足を優しく包み込んでくれるようだった。

川のせせらぎの中に目を移してみると、岩陰にはゲンゴロウがナリを潜めている。大きなハヤも下流から上ってきたかと思うと、サンの目の前で急に飛び跳ねてみせた。普段見慣れた景色である筈なのに、今のサンには全てが新鮮に映った。太陽も水面に反射していつもよりも何故だかキラキラと眩しいのだ。

「いやぁ、気持ち良かった。」と、言ってウラが川から上がってきた。そのウラに先ほどの手拭をよく絞って渡す。引き締まった、筋肉の塊のような身体がよく水を弾いていた。ササっとその身体を手拭で拭いてから着物を羽織ってサンの横に座ってきた。

「足はもう大丈夫か?」と、尋ねるウラに、サンはにっこり笑って頷いた。

「ウラ、私ね。馬って初めてなの。」ようやくサンの口から言葉が漏れた。スンゴク気持ちが良かったよ、と、まだ興奮が冷めやらぬ様であった。ウラはそんなサンの手を持ち挙げ、握り締めたかと思うと少し表情を固くしてサンの方を見詰め直した。

そして、これから話すことを良く聞いてくれ、と、この間の評定での一件をゆっくりと、出来るだけ丁寧に語り始めた。

途中、何度もサンはウラに質問をした。その度にウラは色々な角度から説明を繰り返してやった。そのウラの一言一句を、サンは顔色一つ変えずに全て聞いていた。


吉備の大たたら場の西門の内側に、丸太で組んだ高さが四メートルほどの大きさの投石器が一基据付られていた。その横には図面を片手に頭を抱えているミョンバと技術屋らしい男達が数人群がっていた。

「取り敢えずこれで完成だよな?」自分に言い聞かせるようにミョンバが呟いた。

「ウラが居ねぇけど、ちょっと試し撃ちしてみるか。」と、言って周りの男達を見回した。皆この機械がどのくらい凄いのか一刻も早く見てみたくてウズウズしていた。

「ハハ、聞くまでもないか。」と、言って図面を丁寧に折りたたんで懐にしまってから、試し撃ちの指示を始めた。

「石はあるな?火薬はどうだ?あと、松脂だ、あるか?」全て整っている。

「よ~し、それでは。石を松脂にドップリ漬けろ。」

指示された男が、三十センチほどの丸く加工された石を松脂の樽の中に漬け込んだ。

「石を取り出して、火薬を振り掛けろ。」

 先ほどの男が樽の中から石を取り出して持っているところへ、別の男が火薬を振り掛けた。

「良いか?万遍なくだぞ。」と、言って注意深くその作業を観察している。

「よし、その石を皿の上において設置しろ。」

 投石器の天秤の端に備え付けられている皿の上に、先ほどの石を静かに下ろした。

「松明を持ってこい。」

 すぐにミョンバの手元に松明が手渡された。

 一呼吸おいて、妙にもったいぶった口調でミョンバが男達に命令した。

「それではこれから、新兵器の試し撃ちを行う。皆、その縄を持て。」

 石の載った皿とは反対側に縄が付けられていた。男達はその縄を一斉に持って、力を込めた。

「俺が合図をしたら、思いっきり引っ張るんだ。良いな?」

 男達は縄を持って準備したままミョンバの方に向かって頷いた。

 そして、皿の上の石にミョンバが松明を近付けると、石はゴウゴウと音を立てながら紫色の大きな炎をあげて燃え始めた。

「良いか~、三・・・二・・・1・・・、」ミョンバが大きくカウントする。

「撃て!」

と、言ったその合図で、男達が一斉に縄を引っ張った。

 すると、次の瞬間には火の玉が空高く舞い上がっていた。

 ゴゴゴゴー、と音を立てながら火の玉がきれいな放物線を描いて西の空を駆けていく。滞空時間の長さは飛距離に比例する。とても矢では届かないところまで飛んでいった火の玉は、山すそにドーン!と物凄い地響きと共に着弾した。

 ミョンバも他の男達もあまりの威力に呆然としていた。

「ス・・・・・スゲェ。」間抜けな感想である。他の男達も言葉がない。地面に突き刺さった火の玉の周りは大きなクレーター状になっていて、石はそれでもしばらく燃え続けていた。実験は大成功である。

 ウラの吉備での功績は、やはりこのミョンバによるところが大きい。彼のサポートが無ければ難しいことが多かった。特に細かい技術的な部分ではミョンバの才能が他の誰より一頭地を抜いていた。

 投石器に火薬を使うのも、彼のアイデアであった。

 火薬には硝酸と硫黄が必需品であった。硫黄は吉備では手に入らなかったので出雲から取り寄せることにした。硝酸は「古土法」というやり方で、少量ではあったが何とか自分たちで生産した。それもこれも全てミョンバの発案である。

「明日から、これと同じものを更に十基作る。」

「忙しくなるぞ~。皆、準備に取り掛かれ。」と、ミョンバが男達にハッパを掛けた。

 この投石器が城壁沿いに十一基立ち並ぶのである。圧巻であろう。例え鬼が攻めてきたとしても、負ける気がしなかった。

 

 全ての経緯をウラから聞いて、この男が何を恐れているのかやっとサンは理解した。余りに大きすぎる問題であった。

―そして、何を思ったか、突然サンは着ているものをその場で全て脱ぎ始めた。

「サン、どうした?」と、サンの手を止めようとするウラ。

 しかし、サンはそのウラの手を払いのけて、結局全裸になってしまった。

「ウラ。あなたの話を聞いて、やっと私解ったの。」突飛な行動を採っているにしては、妙に清々しい表情である。優しい聖母のような顔と言って良いか。

「結婚しても、あなたは私に指一本触れようとしなかった。私、まだ子供扱いされているんだ、って思って随分悩んでいたんだけど、」サンの目が真直ぐウラの目を見詰めている。

「そんなことはない!サン。俺はただ、」言いかけたウラの言葉をサンが遮った。

「ううん、解ってる。ウラは私のことを考えて、最悪は自分だけ逝けば良いと思っているんでしょ?」

 サン、と言い掛けたが、言葉にはならなかった。

「でもね、ウラ。それって優しさとは違うの。」

 ちょっと、寂しそうに微笑んでいるサン。

「もう、ウラのいない世界なんて、私は考えられないんだからね。」

 と、ここまで言って、ようやく全裸の自分に恥じらいを覚えたのか、少し顔を赤らめながら、その形の良い胸と下腹部を手で隠す素振りをした。

 そして、これ以上女の子に恥をかかせないで、と小声でささやくと、自分の脱いだ服で顔だけ隠して、川原の一枚岩の上に横たわってしまった。

 サンの手が小刻みに震えている。これだけ離れているのに、サンの心臓の鼓動まで聞こえてきそうだった。

 ウラもついに意を決した。

 そして、自分も着物をもう一度脱ぎ始めた。これで良いんだ、と、自分に言い聞かせるように・・・・・。

 この僅か一~二分の間のことが、サンには驚くほど長い時に思えた。もう、心臓がバクバクいって、今にも口から出てきそうである。

 ゆっくりとウラがサンの隣に横たわってきた。そして、サンの首筋から鎖骨へ、鎖骨から脇へと手を這わす。たったそれだけのことなのに、身体がボーっと熱くなる。足をバタつかせずにはいられないのだ。

「サン、とても綺麗だ・・・・、」

と、言って、今度はサンの豊かな胸をゆっくりとすくい上げ、その頂上の突起物に口を付けてきた。

―その瞬間。

 サンの後頭部から尾てい骨に掛けて、高圧電流が一気に駆け抜けた。

「ああ・・・・・、」

と、思わず息が漏れてしまう。

 胸の突起物をウラの舌で転がされるたびに、どうしても膝がガクガクと震えてしまうのだ。もう、どんどん身体が熱くなっていく。

 そしてついにその時がやってきた。

 ウラが股の間に身体を分け入らせてきた。

 これには堪らず、真っ白なのどを突き出すように仰け反ってしまった。

「ああ~。」

 さっきの電流が今度は後頭部に向けて逆流してきた。

 そして、ゆっくりと時間をかけて、少しずつウラがサンの中に入ってくる。サンは身体全体でそれを感じることが出来た。

 夢にまでみた瞬間であった。

 そう、今や二人は一つに繫がっているのだ。

 神様お願いです。

 このまま時間を止めて下さい。

 そう願わずにいられなかった・・・・。

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