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裁きの時

「それで……、この者はどのような罪をおかしたのですかな?」


 裁判長席から一段低い席に座る好々爺然とした老人が王様に問いかけた。


「じい――いや、副裁判長よ。この者は妻の妹――つまりは我が義妹に対して襲いかかったのだ」


 王様は冤罪をでっち上げる気が満々の御様子。

 一体、彼の何がそうさせるのか。ともかく、無実は主張しておかないと。


「待って下さい、誤解です!!」


「ええい、勝手に発言をするな!!」


 無実を訴えようとするも裁判長である王様に発言を封じられてしまう。

 まずいな、これは結論ありきの裁判になってしまっている。魔女裁判とそう変わらないぞ。


「左様でございますか。では、見てみましょう」


 んん? 爺さん、いま変なこと言ったな。


 こちらの疑問など気にされるわけもなく、裁判は進んでいく。


 職員が水晶玉のようなものを抱えるように持ってくると、裁判所の大きな白い壁に向かって設置する。やがて水晶玉からの光が壁面を照らすと、そこには衣料品店での光景が映し出された。ちょうど、自分が試着室から出てきたあたりのようだ。


「見ろ、あの卑猥な格好を。確実に有罪だろ」


「いえ、あの格好が有罪ですと陛下のご兄弟も有罪ということになりますが。それに陛下も公式の場ではあのようなお召し物でいらっしゃるかと」


 王様の有罪発言に爺さんが反論した。お、これは爺さんの働きで無罪が獲得できるかもしれん。頼むぞ~、爺さん。


 映像は進み、ミントが襲い掛かってきたところが始まった。あ~、押されてるなぁ。だんだん、自分が試着室の方に追いやられていく。ほどなくして、一瞬で王様に腕を切断された。


「もう映像はよい!!」


 都合が悪いところが映し出される前に王様は映像を止めさせた。くそ、やはり不利である事は変わらないか……。


「どうだ、じい。襲い掛かっていただろう」

「ええ、女性が被告人に襲い掛かっておりましたな。力負けしているところが情けない限りですが、それがなにか?」


「うぬぬ……」


 よし、論破ともいえないような話だが、低レベルな言いがかりをやり込めたぞ。やはり現場の映像があるのはデカいな。冥界の監視社会っぷりは不安になるが今は感謝の気持ちでいっぱいだ。


 ありがとう、監視社会。ありがとう、爺さん。


「だが、有罪なモノは有罪なのだ!!」


 王様が苦し紛れに叫ぶ。おお、見苦しい。負け犬の遠吠えほど見苦しいものはありませんなぁ。だが、勝者である自分にはとっても耳に心地よい。好きなだけ喚くがよいわ。


「ふむ。陛下がそこまでおっしゃるならば、その通りなのでしょうなぁ」


 突然、ジジイが態度をひるがえした。おいおい、そこで王様におもねるとか今までの流れはなんだったんだよ。くそ、やっぱり魔女裁判だったか。さすがに逃げることも出来そうに無い。もうダメだ、おしまいだ。


「ようやく分かったようだな。では、この者を死刑と――」


「お待ち下さい!!」


 王様の死刑宣告を塗りつぶすように裁判所の大きなドアを叩きつけるように開け放って現れたのは誰あろうミントであった。


 絶望に打ちひしがれていた自分には、このタイミングで現れた彼女はまさに女神のようにまぶしく見えた。……まさか、ドアの抜こうでスタンバってたとかはないと信じたい。


「私は襲われてなどおりません」


 ミントがはっきりと宣言した。王様の顔が青くなったように見える。頼むぞ、ミント。ここで無実を証明して十倍返しにしてやってくれ。


「ほう、では無罪ですな。では被告人は帰ってよろしい」


 ジジイはあっさり無罪を認めた。先ほどまでのイエスマンっぷりはなんだったのか。本当に良く分からないジジイである。いったい何がしたいんだか。


「いえ、まだ用事がございます。私はハデス様を告発します――痴漢の罪で」


 ミントの告発を聞いて、王様は青かった顔を怒りで真っ赤に染めた。ゆで蛸のようになったその顔のまま被告人席まで飛び降りてくると、剣に手をかけ、叫ぶ。


「私を侮辱しようとは万死に値する!! 貴様らは手打ちにしてくれるわ!!」


「告発を受理します。続けなさい」


 空になったはずの裁判長席から凛とした明瞭な声が響いた。


 もしも、この声を違う場面で聞いていたらきっと聞きほれていたことだろう。しかし、この場にそのような者は存在しなかったと確信できた。なぜなら、その声は底冷えするような冷気を放っていたからだ。


 声の主はややミントに似ていた。だが装飾品や化粧、なにより気配が明らかにミントと違ってケバい――大変、華やかなお方であった。


 おそらく、あれがミントの姉。冥界の王妃なのだろう。迫力というか存在感というものが違いすぎる。王様を静かに見下ろす様は畏怖しか感じさせない。これから何が起ころうとしているんだ?


 裁判所の壁面に移される映像と共にミントの告発が続く。


「私は王様に胸を触られ、抱きつかれました」


「――有罪」


「王様は私の主人を連れ去り無実の罪で裁こうとしました」


「――有罪」


 ミントの告発が終わると今や裁判長となった王妃が王様を氷のような眼差しで見下ろしながら、口調だけは優しく問うた。


「ねぇ、あなた。あなたが犯した罪の中でもっとも許されないものはどれだと考えているのかしら。教えて下さる?」


 王様はすっかり顔面蒼白で口は半開き、腰を抜かしたように地べたに座り込んでいたが、わなわなと体を震えさせながらもその質問に答えた。


「そ、それはやはり痴漢――」


「いいえ、あなたの最大の罪は『他の女と妻を間違えたこと』よ」


 回答に失敗した王様の発言を王妃は冷たく押し流した。そして、裁判長席からふわりと降りてくると王様を後ろから優しく抱きしめる。


「あなたとはゆっくりお話しする必要があるようですね……」


 王様の体から力が抜け、人形のように地べたに転がった。




 悪は滅びた。十倍返し以上にやり返すことも出来た。しかし、後味の悪い裁判だった。密かに裁判の余韻を味わっていると、王妃がミントに話しかけてきた。


「今回は迷惑をかけたわね。……それにしても、あなたったらいつの間に結婚したの? 一言、言ってくれても良いのに」


「え? あ、いえ、それは――」


「ああ、分かってるわ。私を呼ぶと色々と大袈裟になるものね。それに最近は結婚式場に行っても裁判所には行かないって人も多いしね。――そうだ! せっかく裁判所にいるんだから婚姻を正式なものにしてしまいなさい。今回のお詫びにこの場で受理させるわ。そうね、それがいいわ。――じい!」


 高らかに木槌の音が数回響くと、ジジイが宣言した。


「ここに二人を夫婦と認める」


 こうして俺のハーレム作りの旅は終わった。厳選したハーレムを形成するつもりが、権力者によって厳選されることとなってしまうとは……。


 ごめんよ、ボス。約束……、守れなかったよ。


今回で完結となります。長らく、ご愛読くださいましてありがとうございました。

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