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変身魔法講座

「いいかい。変身の魔法はこうやるんだ」


 そう言うと、マルムさんは無数の光の粒に飲み込まれていった。やがて光が収まると中からユニコーンの姿が現れた。なるほど、バイト中に言っていたのはこのことだったのか。


「魔法の技量にもよるけど、変身後はその体とだいたい同じ能力を得ることになるから」


「メリット、デメリットも?」


「そうだね。技量が高いほどメリットもデメリットも受けることになるよ」


 なるほど。それならユニコーンになって花嫁を背中に乗せたくないわけだ。誰だって背中を焼かれたくないもんな。


「魔法のコツは、能力を使うみたいにハッキリと過程から結果までイメージすることだ。納得や想像の出来ない過程は入れないこと。変身魔法のコツは、自分がその姿になることが当たり前だと思うことだよ。さあ、やってごらん」


 え~。魔法の説明、雑だな。こんなんでホントにできんの? 


 疑いながら自分とミントとパレアスの三人でうんうん唸りながら、しばらくやってみたが治癒能力しか発動しなかった。案の定の結果に「この講座、大丈夫かな」と不安になる。


「はい。こんな風にいきなり言われても、すぐ出来るヒトはまずいません。皆さんは正常なので安心して下さい。これで出来るなら、本屋で教本でも買って独学でやった方が安上がりですね。というわけで、ここからがトレーナーの腕の見せ所になりま~す」


 芝居がかった口調でそう言い放つと、ドヤ顔でポケットからベッドシーツのようなもの大きな白い布を三枚取り出してみせるマルムさん。ここまでの流れは彼女の想定どおりなんだろう。自信満々といった雰囲気を漂わせている。


 すっかり手のひらの上で踊らされていたことに若干イラッときたが、この感じが講座を受けてるって実感させてくれる。なんだか講座の内容に期待が持てる気がしてきたぞ。


「じゃあ皆さん、この布を頭までスッポリかぶってください。はい、いいですね。次に、自分の存在をあやふやにしていきます。自分の体が光や闇なんかになったとイメージするとやりやすいですよ」


 自己の身体領域をあやふやにすると精神的に帰って来れなくなる気がするが、それは大丈夫なんだろうか。不安が頭をよぎる。ダメだ、気になって集中できない。


「はい。じゃあ、皆さんのなりたいものや身近なヒトを強くイメージして下さい。このときにイメージしやすい部分から順番に体が出来上がっていくつもりでやると成功しやすいですよ」


 マゴマゴしている間に講義はどんどん進んでいく。今回はちょっと成功しそうにないなぁ。まあ、あとの二人も成功はしてないだろう。あまり器用そうな連中じゃないし。


「そろそろ出来ましたか? では皆さん、シーツから顔を出して確認してみましょう」


 すっかりトレーナーと化したマルムさんの指示に従い、シーツから顔を出した。もちろん、体に変化は全くない。でも初めてだし、こんなもんだろう。マルムさんはちょっと残念そうだが。


「あ! 変わってますね!」


 喜びの声が隣から聞こえてきた。この声は麦わらちゃんだ。だが、その姿はいつもと違う。下半身が馬ではなく、長くしなやかな人間の足になっているのだ。


 シーツから自慢げに見せてくる白く柔らかそうな太ももが目にまぶしい。――しかし、まさかこの娘が成功してくるとは。誰にでも得意なことってあるもんなんだなぁ。……悔しいからシーツを剥がしてやろう。


「や、やめてください!」


屈辱を紛らわすために、セクハラを敢行する。涙目になりながら真っ赤な顔で必死にシーツを押さえる姿にちょっとキュンときた。


「はいはい、おふざけはそこまでです。いよいよ、真打の登場ですよ! 注目して下さい!」


 最後のシーツお化けが高らかに宣言した。いや、お前はもう成功してることが分かってるからいいよ。シーツかぶってても明らかに身長が違うのが分かるし。それに今はそれどころではない。もうちょっとで、シーツが剥ぎ取れそうなんだ。


「すまないが、後にしてくれないか。今は手が離せないんだ」


 しまった! ミントの宣言に返答したせいで、シーツが口から外れてしまった。くそ、いま一歩のところだったのに……。


「どうやら離せないのは、口だったようだね」


 上手い事を言ってやったという顔で、クツクツと笑うマルムさんにまたしてもイラッときた。このストレスは原因であるミントにぶつけてやろう。


「じゃ~ん。セクシーになったミントちゃんですよ~って、うわ! なにするんですか!」


 今度はミントのシーツを引っ張ってやると、ミントは必死にシーツを抑えた。だが、そのお陰で変身後の体の変化は一目瞭然だ。身長だけでなく、本人の申告にあったように確かにセクシーになっている。胸も大増量し、細い腰つきから伸びる太ももが艶かしい。


 くそ、ミントまで変身するだなんて、何たる恥辱だ。この上は、それ以上の恥をこいつに与えてやるしかないな。もっとガンガン引くぞ。


「へぇ~、ペルセポネ様に似てるね。ファンなのかい? まあいい。どっちにしろ、あんたは悪戯を止めた方がいいね。馬刺しにされちまうよ」


「え?」


 物騒なワードについ口を開いてしまった。くそ、また負けた。今日はもう勝てない日なのかも知れん。


「冥界の支配者であるハデス様は愛妻家だからね。偽者相手でもセクハラなんかしてたら、一発アウトですっ飛んで来るよ。気を付けるんだね」


 あっぶね。ここで教えてもらえてよかった。外で似たようなことをやってたら、馬刺しにされてたかもしれないわけか。ましてミントは血縁者だし、余計に罪が重くなりそうだ。気を付けないと。


「さて、成功した二人は今の感覚を忘れないように自主練習していて頂戴な。で、あんたは特訓だよ。悪戯しているヒマなんてないからね!」


 あー、これは怒らせちゃったかな。お手柔らかに……は望めそうにないか。


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