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変身魔法の対価

 結局、朝まで4人で飲んでたみたい。目を開けると空はすっかり白んでいるのに、なんちゃって女神の3人はまだ酒盛りをしていた。


 タフだな、コイツら。驚きよりも呆れてしまう。



 ふわぁ~あ。


 3人の徹夜明けのテンションにうんざりしていると、ついつい欠伸が出た。


 途中から記憶がないのは、眠気に負けて寝てしまったからだろう。縮こまって地面で寝たせいか体の節々が痛い。ゆっくりと体を起こして、治癒能力でさっさと癒してしまおう。


 体の不調が消えると共に、ぼんやりしていた頭もシャッキリとしてきた。うっすらと残っていた酔いがさめていくのが分かる。そういえば、治癒能力には解毒とか解呪とかの状態異常の回復効果もあったっけ。


 うっかり飲み会中に使わなくてよかった。せっかく酒を飲んでるのに、酔いがさめたら勿体ないもんな。


 それにしても、ストレスから解消されたせいか体の調子が良いな。なんだか治癒能力の威力も上がってる気もするし……。まあ、気の所為だろうけど。


 いやでも、俺の体ってうっすら光ってたか?


「おはようございます、ユニさん。大丈夫ですか?」


 麦わらちゃんが寝そべりながら朝の挨拶をしてきた。朝まで飲んでいたようだけど、さすがに立ちっ放しは辛かったか。それでもフォークを手放さないのは賞賛に値するけれども。


 ……この娘の名前なんだったっけ。え~っと……、パ、パ――そう、パレアスだ。やばいな、そのうち忘れそう。今度から名前で呼ぶようにしていかないとダメそうだ。


「おはよう」


 朝の挨拶を軽く頭を下げながら返す。え~と、空がまだ暗いうちの記憶はあるな。結局、キャベツを丸ごと持ってこさせて、それをいくつもかじっていた覚えがある。あとはソーマだかなんだかいう高そうな酒をがぶ飲みしてた。


――やっべ。もしかすると、お勘定がとんでもない価格になってるかも。


「昨日飲んだソーマ……だっけ? あれなんだけど……」


「ああ、アレですね。おいしいですよね、昨日は良く飲んでいらっしゃいましたけど?」


「そう、ソレね。で、あれがね……」


「あ~、ひょっとしてもう効果を実感してるんですか? 力がみなぎるとか体から神々しい光を発してるとか?」


「おい。何を飲ませた?」


「え? だから、ソーマ社から発売されてる神酒ですよ。あとは。アムリタ社とかネクタル社とか色々な神酒も召し上がってましたね。私は普段、あんまり飲まないんですが、久しぶりに飲むとやっぱり美味しいですし、なんだか力が湧いてくる気がしますよね」


 嬉しそうな笑顔で腕に小さく柔らかそうな力こぶを作ってみせるパレアス。その純朴そうな笑顔は良いとして、飲むとパワーアップするらしい訳の分からない飲み物を黙って飲ませるとか、たちが悪いな。変な副作用とか出ないといいんだけど。


 不安に顔をしかめていると、パレアスがフォローに回り始めた。


「心配ないですよ~。おじいちゃんも言ってました。『偉い神様にお酒をいっぱい飲む方が多いだけで、お酒をいっぱい飲むから偉い神様なわけじゃない』って。でも、実体験としては沢山飲んだほうが効く気がしますよね~」


「いや、ちょっと何言ってるかわからないんだけど」


「だから~。お酒をいっぱい飲んでも偉くなれるわけじゃないんですよ」


「それは分かった。ただ、ここで問題にしてるのは量じゃ無くて、初回かどうかってコトなんだよね。お分かりいただけるかな?」


「え、昨日が初めてじゃないですよ。忘れちゃったんですか? だから、5種類も混ぜてボウルで飲んだら危ないって言ったんですよ~。ほら、私と初めてあった日の宴会で飲んでたじゃないですか。私、宴会のために取り寄せたんですよ。それにあの時に飲んだから、ユニさんは冥界に来れたんですよ~」


「え? なにその『まだ酔ってるんですか』みたいな反応。それ全部、初耳だからね」


 平然と人様に迷惑をかけるところは、小物とはいえコイツらも神族ということか。まったく、油断も隙も無いな。その上、これで本人たちは良い事をしたつもりなのだから始末に終えない。一度、労使関係についてじっくり話し合う必要がありそうだ。


「ユニさん、起きましたよ~」


 こちらの状況を無視して、今だ酒盛りで盛り上がる2人にパレアスが声を掛けた。


 しかし、朝からテンションの高いヤツらのそばに居るのは辛い。抑制を失ってやたら大きな声で話すところや甲高い声が耳障りだ。能力的に二日酔いにならないユニコーンに生まれたことは、今このときにおいては幸運だったと感じざるをえない。


「あ、ユニさん。やっと起きましたか。じゃあ、出発しましょう。すいません、お勘定!!」


 ミントがなにやらまくし立てると会計を済ませる。


 ん? 今、バイトリーダーの分もまとめて払わなかったか? 


 疑惑の目を向けていると、ミントが満面の笑みで事情を説明し始めた。


「いや~、マルムちゃんとつい盛り上がっちゃって。私たち、すっかり親友ですよ。それで、ここを奢ったら魔法を教えてくれるっていうもんですから払っちゃいました。お得だし、別にいいですよね?」


「そういうことを勝手に決めるとか……。まあ、今回はいいけど次回からはやめてよ?」


 多分もう、どれが誰の注文かなんて分からないだろうし、割り勘とかはあっちが幼女なみで、こちらに馬並みの体格の者が2名もいるから無理。だからここは、こちらが払った方が面倒が無くて一番良いだろう。


 会計の総額も5万ちょいだったから、昨日聞いた講座費用をまともに払うよりかはたぶん安いわけだし。


「いやいや、悪いね。奢ってもらって。一人一個、魔法をバッチリ教えるから。それでチャラってことにしてよ」


 バイトリーダーことマルムさんがいたずらっぽく笑顔をみせながら、片手で拝んできた。癖のある金髪にクリクリとした褐色の瞳がいたずら天使っぽい見た目に反して動作がオッサンぽいな、この人。


「いえ。こっちとしても魔法を教えてもらえるなら、逆に助かります」


「そうかい? なら、早速行こうか」


 椅子から飛び降りたマルムさんに連れられて、我々は魔法の習得のために何とかという建物を目指すことになった。目的地がサッパリ分からないが、とりあえず彼女にくっついていけば大丈夫なはずだ。




「あら、マルム。お客さんを連れてくるだなんて珍しいわね」


 受付にいるヒマそうにしていたお姉さんが、ニヤニヤしながらマルムさんを冷やかしている。昨日聞いた話だとお客は少ないってことだったから、今日のような事は珍しいのだろう。


「ああ、飲み屋で知り合ってね。で、今日は講座の申し込みはあったかい?」


「いえ、ないわね」


「そっか……」


 マルムさんから、寂しげなため息が漏れる。二人の慣れたやり取りから、普段から彼女のお客さんはだいぶ少ないんだろうと予想された。その小さな背中がやるせなさを感じさせた。


「ま、今日はお客がいるから良いや。気を取り直していこう!」


 そう独り言を呟いて、小さく手を握ったマルムさんがこちらに振り返った。


「じゃあ、みんな。部屋の使用料は、1000GPだから」


 あ、そこはこっち持ちなんだ。利益が出てなさそうだからしょうがないけど、なんだかセコい感じがするなぁ。


 あ~あ、こういうところから顧客満足度が下がっているんじゃないかなと俺は思うよ。――けっして、自分が払いたくないわけじゃなくて。いや、ホントに。


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