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夢を売る商売

 ジュウゥゥゥゥゥ――!!


 背中が焼ける音がする。赤い豪勢な絨毯を踏みしめるごとに背中の痛みは増していった。式場に招かれた観客たちの視線が花嫁に注がれている。いったい、自分がどれほどの罪を犯したというのだろう。ただ、ミントが引き受けてしまったバイトをこなそうとしているだけなのに……。




 翌日の朝から結婚式が開始された。


 自分の出番は式の初めの花嫁の入場時に、乗り物として彼女の登場を派手に演出することだ。


 ゆっくりと深呼吸をして気を落ち着ける。大丈夫、対策は立てた。あとは、心が折られなければ、なんとかなる。今までもずっと治癒能力一筋で生きてきたんだ。この能力だけは、自分を裏切ることはないはずだ。


 よし、行くぞ!!


 豪勢なウエディングドレスやティアラなどで着飾った花嫁は、その芸術的な美しさを持つ肢体と金細工のような流れる髪はじつに美しいが、こっちはそれどころじゃない。正直、彼女が悪魔に見えて仕方がない。


「おはようございます。今日は、よろしくお願いします」


 朝の挨拶を終えると、手早く花嫁は背中に乗せられた。

 さあ、ここからが当店自慢の焼肉パーティーだよ。


 ガアァァァァ――!!


 声を出してはいけないので、心の中で悲鳴をあげる。


 今まで生きてきて、自分の背中で焼肉パーティーをされる日が来ようとは、夢にも思わなかった。この肉の焼ける匂いや音が自分にしか聞こえていないのは、予行演習で確認済みだが、この苦しみが他人に伝わらないのは悔しいかぎりだ。


 こちらを見る観客たちが、青白い光を浴びて美しさを増す花嫁。それに感嘆の声を上げている観客たち。くそ、死ねばいいのに。


 花嫁の友人たちとおぼしき集団も羨望の眼差しを向けているが、俺はもう二度とこんなことをするのはゴメンだからな。やるなら、他のユニコーンに頼めよ!


 一歩一歩、祭壇へと続く真っ赤な絨毯を踏みしめるたびに背中の痛みが強くなる気がする。痛みを感じるたびに傷を癒しているが、ゴールまで気力が持つだろうか。


 自分の角からもパキッパキッとひび割れるような音がしているんだが。もしもこれが折れてしまったら、ひょっとして業火に焼かれて死ぬということはないだろうな。


 ただのバイトでそんな最後は絶対に嫌だぞ。


 なんだか前世で見たバトルものの漫画を思い出す。こういう耐え難い苦痛に対してウオォォォォ!! とか言って特訓してたっけ。でも声が出せるだけまだいいよな。


 今の状況は、どちらかというと昔の映画の忍者みたいな「任務のためならあらゆることを犠牲にする」という感じの忍耐力が試されるケースだ。


 これが終わっても漫画みたいに劇的な成長なんてものは無く、バイト代がもらえるだけ。バイト代として破格とはいえ、なんとも侘びしい気分にさせられる。


 祭壇の階段前にやっと到着した。長かった。こんなに心待ちにした時間は、今まで存在したことはなかったな。


 あと、ほんの少し。これが最後のご奉公です。


 ゆっくりと座り込み、背中の着飾った鉄板を絨毯の上に降ろす。背中から一気に痛みが消えて行く。


 ああ、やっと開放されたんだ。こんな清々しい気持ちは、本当に何時ぶりなんだろうか。さて用が済んだらこんな場所、さっさとオサラバだ。


 観客の視線は、すでに彼女に集中している。ここは目立たないように開け放たれたままのドアから音も無く静かに退室しなくては。


 痛みなどないはずなのに、重い体を引きずって式場から外に出た。なんとかスタッフルームに到着すると、立っていられなくて座り込んでしまった。


 ダメだ。もう一歩も歩きたくない。いやむしろ、まったく動きたくない。床の上に頭を下ろすと、頭の上の色あせた角がコロリと床に転がった。


 だが、悪夢はこれで終わりではなかった。バイトの拘束時間は一日、そして今はまだ朝だ。まだまだ業務は終わっていなかった。


 身だしなみを整えさせられると結婚式の合間の余興で、支配人に命じられて花嫁の友人たちに試乗されることになった。しかし、さすがは花嫁の友人。背中を焼いていかない者がいない。


 これはもしかすると神様社会では浮気などいたって普通の行いなのかもしれないな。そうなると今後、神様連中と出会ったときは注意しないと。とりあえず、絶対に背中に乗せない事は今日、この日の苦痛にかけて心に誓うよ。


 そのあとは急遽、ユニコーンによる入場が格安ということで午後の式にも捻じ込まれた。午後の花嫁は喜んでいたが、こちらは恐怖させられた。今度の主役は体のあちこちからバラが生えていたからだ。


 自己紹介を頂いたところ『イバラの女神』とのこと。あきらめていたユニコーンが格安で使えるのが嬉しいとテンションが上がっていた。それに伴い、イバラがのびる、のびる。


 せめて鞍でも使っていただきたかったが、それでは意味がないということで、素のままで入場。背中どころか全身をイバラで傷つけられ、鞭打たれながら重い荷を運ぶ奴隷の気分を味わった。


 このときには疲れ果てて、もう思考が働かなくなっていた。このあとに、何人か問題があったりなかったりな見学者を試乗として乗せたはずだが、記憶にない。気がつくと式場の外に居て、ミントがバイト代を何度も数えなおしていた。


「グヒュヒュヒュ!」


 ミントから下品な笑い声が漏れるが、怒りも湧いてこない。ただ、彼女の今後のためにたしなめるのみだ。この娘たちは、あの悪魔たちのようになって欲しくはないからな。


「いけませんよ、ミントさん。淑女がそのような声を出すものではありません」


 こうして式場でのバイトは滞りなく進行し、我々は一頭のユニコーンの甚大な精神の損耗の末、バイト代を得た。この資金を入手する際の苦労を思えば、そう安直なことには使えない。


 だけど、もういいだろう。自分の中に渦巻くストレスとミントたちが「酒、飲まずにはいられない」というようなことをのたまっていることですし。


 この金でパァーっといこう。


 そんなわけで憂さ晴らしに飲みに行くことになった。冥界の居酒屋とか初めてなのでちょっと楽しみだ。ちなみにバイト先から「また来てほしい」と言われたけれど、断固、お断りする予定です。


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