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ユニコーンの生まれた理由

「あんたが代役の喋るユニコーンか。来てくれて助かったよ」


 そういって歓迎してくれたのは、今回のバイトリーダーだった。


 彼女はその子供のような見た目から、ここでベールガールとして長く働いているとのこと。たしかに、にこやかな笑顔を浮かべてこちらに礼を言う姿、は無邪気な天使のようにも見えるからうってつけの仕事だろう。


「あんたが来てくれなかったら、あたしが代役をやらなくちゃいけなかったからね」


「は? それはどういう……」


 残念ながら、バイトリーダーから返答を貰う前に支配人に呼び出しをうけてしまった。なんでも、このまま花嫁にご挨拶に伺わなければならないらしい。慌しいことだ。




 花嫁は、華やかな美しさを持つ妖艶な美女だった。さすがは美の女神の血縁者だ。その美貌に見とれていると、支配人が俺の紹介を始めた。


「こちらがお乗りいただくユニコーンとなっております」


「なかなか大きいですね。立派でいいと思います。その子でお願いします」


「はい、かしこまりました」


 花嫁は代理のバイトにご満足下さって模様。二人の会話が始まってしまったため、自己紹介のタイミングを逸してしまった。もちろん花嫁に見とれていたので反応が遅れたのもある。


 まあ、男とはそういう生き物だから仕方ないね。


「よろしくね」


 花嫁はそういうと首筋を優しく撫でようとしてくる。花のような、果実のような甘い匂いが彼女から立ち込めている。やはり美人は、匂いからして違うな。ただちょっと甘すぎる気もする。

 

 具体的には、腐りかけの果実のような……。


ジュウウゥゥゥゥゥ――!!


 首筋からありえない音が聞こえた気がした。肉が焼けるような音だ。

 奇怪な音に困惑していると焼印を押されたかのような痛みが首筋から脳に駆け巡る。それとほぼ同時に、反射的に首を花嫁の手から逃がす。


 あまりの痛みに無意識に漏らすかと思った。

 いったい何があったんだ? この花嫁は、一体……。




 ここで脳裏に昔の風景が浮かんできた。

 あれは……。そう、バルバリ様と初めて会った時のことだ。


 ある何の変哲もない森の中で、俺はバルバリ様に出会った。なお、この出会いは偶然でも何でもはなく、バルバリ・ハーレムの匂いを辿った結果なので、運命的なものとかは一切ない。


「ユニコーンか。女の匂いに釣られてきたな。……まあいい。どうだ、俺の役に立つならここに置いてやるぞ。ちょうど――」


 そうだ、あの時に言われたことが答えだ。


「ちょうど、『浮気』避けが欲しいと思っていたところだ」


 ああ、そうだ。全部思い出したぞ。ユニコーンが清純な乙女ってヤツを求める理由を。


 俺たちが、鍛冶の神様の離婚記念に彼の苦い思い出によって作り出された存在だからだ。浮気女に二度と近寄りたくないという創造主の熱い思いが、警鐘として我々の身を焼くのだ。


 ひどい呪いだ。しかし、その呪いが花嫁の純潔さをあらわすための小道具にされているのだから皮肉でしかない。


「失礼。まさか撫でられるとは思っていなかったもので」


 顧客の機嫌を損ねないために、咄嗟に適当な言い訳を口にする。


 花嫁は、目の前の馬が喋ることに驚いた顔をした。それと同時に自分の行いが、そこらのオッサンの頭を撫でるような場違いなものと思いいたったのか、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


 どうやら謝罪の口調から、出来るだけオッサンをイメージさせるように試みたことが成功したようだ。ご不快の言葉も頂かなかった。


 しかし、こうしていると清純そうに見えるのに、結婚前から浮気をしているあたり油断も隙も無い。女は恐ろしいとは、こういうことをいうのだろう。


 花嫁に触られた首筋がズキズキと痛むので治癒能力を使ってみると、あっという間に痛みが消えた。どうやら治癒能力は有効らしい。


 そうと分かれば試しておかないわけにはいかないだろう。もう一度だけ彼女に触ってもらい、焼印の痛みを治癒能力で相殺できるか実験してみなくては。


 ぶっつけ本番では、ちょっと対処できる気がしない。


「よろしければ予行演習に背中に乗られてみませんか?」


「え?」


「ドレスを着ると動きにくくなります。あらかじめ経験されておくと、式の最中にトラブルが起きるようなこともなくなるかと……」


 そう言って、床に這いつくばってみせた。


 花嫁はやや困惑したようだったが、こちらの誘いに乗り、おずおずと背中に横乗りした。


 ヌグウゥゥ――。


 彼女が背中に手をかけた時点で焼けるような激しい痛みに襲われた。表情や声に出さないように必死で堪える。


 これ以上の苦痛に耐える気など無いのでさっそく能力を使ってみる。この痛み具合からして初めから全力全開での自己回復でないとダメだろう。


 ヌオォォォォ――!!


 心の中で気合を入れて、能力を使った。


 イケる、イケるぞ。痛い事は痛いが、我慢できないほどではない。わずかな距離を乗せて歩くぐらいなら辛うじて出来そうだ。


 全力で能力を使っているために、ほんのりとした青白い光が全身から放たれているが、そこはご勘弁いただくしかない。


 我慢できると分かったところで、ゆっくりと立ち上がってみせた。


「わあ、高い。それに青白く光っていて、とても綺麗です。気に入りました」


「今回は、特別に演出として光らせてみました。気に言っていただけて嬉しく思います」


 回復の光を誤魔化すため適当な嘘をでっち上げると、ゆっくりとひざまずいて花嫁を床に下ろした。


 「では、本番でも同じように」ということで話がまとまったので、花嫁のいた部屋から退室した。


 支配人と一緒にスタッフルームに入ると、支配人からため息が漏れた。


「フゥ……。一時はどうなるかと思いましたが、何とか切り抜けましたね。今後、あのような態度は慎んで下さい。いいですね。ですが、体を光らせるアイデアは良かったですよ。見栄えがするので、これからはウチでも取り入れたいですね。どうやってやったんですか?」


 花嫁の機嫌が取れたので、支配人からたいした叱責もされなかった。よかった。ここで解雇宣告など受けて賠償金を求められても持ち合わせがないからな。角を山程積んで謝っても許してもらえないだろうし。


 支配人の気が変わらないうちに体の光らせ方を教えてしまって、こんな都合の悪い話は終わらせてしまわないと。


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