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クエスト06:たまには休暇を頂きたい(温泉回)

 僕がこの世界に飛ばされて、そろそろ三週間になる。

 冒険の方はあれからも順調に進み、徒歩で次の町・村に訪れてはそこで起きている問題を解決するために近くの洞窟・塔を攻略することの繰り返しで、典型的なお使いクエスト生活だったりしている。

 その結果、西大陸のうち徒歩で行ける範囲はほぼ制覇したことになる。

 ちなみにこの世界の地理は、大きく西大陸と東大陸とに分かれていて、始まりの町ラーダトゥムが西大陸の南の端に位置していて、そこからスタートしてぐるっと時計回りに西大陸を制覇しつつあるようなそんなイメージで。

 え、徒歩で一ヶ月かからずに制覇できるなんて大陸にしては狭い? 僕もそう思うけどゲームだった時の距離感に合わせてるんだと思うよ。

 日本で言うなら、四国を真ん中辺りで二つに割って愛媛と高知側が西大陸、香川と徳島側が東大陸ぐらいの縮尺かな。


 それはそれとして、僕が女勇者の身体になってからも三週間ということで。

 慣れない女子の身体ということで、着替えとかお風呂とかトイレとか勿論最初は大変だったけど……

 ただ、僕としてはいきなりゲーム世界! だとかいきなり最強の勇者! だとかびっくりした事が多すぎて、それに比べると性別が変わったことのインパクトも薄れるかなあ、みたいな。

 正直なところ、レベル99勇者の身体能力やらスキルやらを考えると何と言うか「人類以外の生き物になりました」感が強くて、性別なんてどうでもよくなってくる感じだよ。


 まあそうは言っても、女子になって初めて解る女の子の大変さも勿論ある。

 まず身だしなみが大変だ! スキンケアとか髪型とか手間が掛かるし無駄毛処理なんかも超面倒だし女の子の服は構造が難解で着るのも脱ぐのも一苦労だし手を抜くとシンディが怒るし……一日が二十三時間しかない感覚だよ全く。

 あとは女の子特有の、月に一度の体調不良なんかもある。このパーティは生物学上は何故か全員女の子のガールズパーティなのでその手の問題には優先的に対処しなければならなくて……

 結果、無理をせず悪天候の日に加えて誰かが体調不良の日も冒険を休みましょうということになった。個人差はあるが大体一人一日~三日ほど申告してくるので週平均二日のペースでオフの日が設定されることになる。

 僕たちも今は疲れ知らずのゲームキャラじゃなく生身の人間なので、週に一日二日は休みも必要だし、丁度いいペースだと思う。ビバゆとり勇者パーティ。


 そんな訳なので今日もそのオフの日の一つで、温泉街アネルという場所でゆっくり休養を取っていた。

 尚、今日は誰が体調不良なのかは本人の名誉のために伏せておくこととする。


 と、思いをめぐらせていると、コンコンコン、と扉――僕たちが取っている宿屋の部屋の入り口――が鳴った。


「ユウちゃん、起きてる?」


「ああ、うん、どうぞ」


 返事を受け扉を開けて入って来たのはパーティのお母さん、シンディだった。手には何か飲み物が入ってるであろう木のカップを持っている。

 冒険モードじゃないからか、いつもはアップにまとめてある綺麗な金髪を、今日は下ろして首の後ろで軽く縛ってある。髪形を変えるだけでなんだかふんわりとした印象になるのが不思議だ。

 ちなみに、起きてる? の時には半分はいで半分いいえだ。目が覚めてるという意味では起きてるが体勢的にはベッドに横になってだらけている。


「痛み止めの薬草茶作ってきたけど飲む? あ、宿の人にミルクと蜂蜜も貰ったから味は大丈夫よ?」


 カップの中には、程よく温かそうな抹茶ミルクっぽい飲み物が注がれている。聞くところによると、日本における優しさが成分の半分を占めているあのお薬に相当するような定番の薬草茶とのことらしい。

 そのままだと苦くて飲めたものじゃないのでみんなミルクとか果汁とか蜂蜜とかホットワインとかで味を調整するようだ。


「あ、うん、ありがとう。ごめんね、何から何まで」


 目線を斜め上に上げながらその薬草茶を受け取る。目を向けた先、部屋の隅には洗いさらしの肌着(ドロワース)が干されてあった。

 ……うん。血が出るってことは知識では知ってたけど、予想以上に凄惨な光景に今朝は思わず取り乱してしまったんだ。

 思い返すと改めて恥ずかしくなり、このまま布団を被って消えてしまいたくなる。


「ふふ、気にしなくて良いのよ。ユウちゃんも子供っぽいところがあって嬉しいなあって思ったんだから」


「世話焼きお姉さんめ……僕達としては助かってるしありがたいけど変な男に引っかからないよう気をつけてね」


「ふ、ユウちゃんがあたしの心配なんて十年早いわ」


 三週間一緒に居ると軽口も叩ける関係になってくる。そんな空気にほっこりしながらカップを口に運んだ。


「……甘い」


 くどすぎない、素朴な甘さとほろ苦さに心身が癒される。

 静かで優しい空気の流れる部屋の中、ゆっくりと、少しずつ、薬草茶を胃に流し込んだ。


「ご馳走様。美味しかったよ、ありがとう」


「はい、どういたしまして」


「シンディも、せっかくの休みなんだから人のことばっかりじゃなくて自分のやりたいこともやりなよ。僕もそろそろ起きて資金とか荷物の消耗品在庫管理ぐらいはって思ってるし」


 アヤメとルナにも一応街中での情報収集や武具屋の品物調査をお願いしているが、自由時間も兼ねている。ついでにショッピングなり買い食いなりを楽しんでいることだろう。


「そうね、じゃあ昼からはちょっと街をぶらぶら散歩でもしてこようかしら。ユウちゃんもあんまり無理しないようにね」


「うん。今日のところは部屋でできることだけにしとくよ」


 実際準備は大切だ。特にこの次に挑戦する迷宮(ラビリンス)には、僕にとって一つの勝負どころとなる重大なイベントが待ち構えている。

 万全の体調、装備、精神状態を兼ね備えて挑まなければならないし、そのためには手持ちのお金を使い切ってしまってでも可能な限り良い武具を買い揃えておきたい。

 まずはメンバーの装備の傷み具合を確認して、アヤメとルナが戻ったらこの街で買える装備品と照らし合わせて必要な物から買い替えよう。


 さっきの薬草茶のおかげか、少し気分的にもマシになったような気がする。僕はもそもそとベッドから降りると、汗ばんだ寝間着を男らしく豪快に脱ぎ捨てた。

 ……すかさず「お行儀が悪い」と、シンディにお尻をぺちんと叩かれた。






「じゃ、温泉行こっか」


 その日の夕食後、シンディが唐突にそんなことを言い出した。

 ここは温泉街なだけあって、宿屋にも広い露天風呂が設置されてある。僕は昨日は街についてすぐベッドに直行したので入ってないが、他の三人は昨晩入ってすっかり気に入ったらしい。


「ああ。楽しんでくると良いよ。僕は後からゆっくり入るから」


「何言ってるのよ。ユウちゃんも一緒に決まってるじゃない」


「……マジで?」


 非常に魅力的な提案であるが、乗って良いものだろうか。

 確かに僕も健全な男の子。シンディの裸とかシンディの胸とかシンディのうなじとかを間近で見れるチャンスは逃す手は無い!

 あとアヤメの着物の下がどうなっているのかも非常に気になる。この件についてはネットの掲示板でも頻繁に議論になり、『世界設定的にドロワースだろ派』『着物なら下着無しに決まってる派』『武人らしく褌派』『戦姫は俺の嫁派』等入り乱れていつも長々と言い争う割に毎回結論が出ない問題で、『ラビドラ三大論争』の一つとまで言われている。

 ルナは……うん。なんかこう、彼女の表情と同じで起伏の無さそうなボディは見るのが申し訳ないと言うか犯罪臭がすると言うかそういう感情が先に立つので、見れなくても惜しくないかな……


 とはいえ僕が実は男だと隠して女湯に入るのもどうにも卑怯な気がする。真の勇者の取るべき行動とは思えない。


「えっと、僕は勇者教育で男らしくなるよう育てられたからお風呂も別々に入った方が――」


 言いかけたところで、三人にがしっと身体を掴まれる。


「はいはい。いつまでもそんな事言ってると青春とか婚期が逃げちゃうわよ」


「ユウさんは、固く考えすぎだと思います」


「……勇者殿を男湯に突撃させてマッチョな野獣達に囲まれるぐらいなら私達で貰う、なの……」


 うん。相変わらず賢者様の言うことは難解すぎてよくわからない。そう現実逃避しつつ僕はずるずると女湯側の脱衣所へ引きずられて行った。

 ちなみに、アヤメの着物の下はサラシに褌だった。『ラビドラ三大論争』の一つが解決した瞬間だ。よし僕の勝ちだぜ孝明ィ!






 そんな訳で温泉。

 ちゃんと湯煙とかタオルとかで大事なところは隠れてるので僕みたいなチキンにも安心安全な仕様だ。

 大方の予想通り、シンディのスタイルは素晴らしいの一言に尽きる。防御力に定評のある聖騎士らしく胸部装甲の圧倒的なボリュームは僕を含め他の小娘どもの追随を許さない。

 尚アヤメは小さめで、ルナは更に平ためだったことをここに付記しておく。


 そしてかけ湯をして髪もアップに纏めて湯船に漬かる時に、恐ろしい現象を目にした。

 シンディがお湯の中に腰を沈めた時、胸の双丘様がばしゃん、と水音を立てたのだ!

 僕達小娘組三人は目を見開き、おもむろに一旦立ち上がってもう一度沈んでみる。


 ………………


 特にお湯の抵抗もなく静かに肩まで漬かった。


「……よし。勇者殿も戦王殿と同じくこっち側、なの……」


 ルナの表情は何故か嬉しそうだった。ちなみに眼鏡は脱衣所で外していて、雰囲気から理知的成分が少し抜け落ちて新鮮な印象を受ける。


「それにしてもユウちゃんは恥ずかしがり屋さんねえ」


 呆れを含んだシンディの声。他の三人は思い思いに湯船で身体を伸ばしているが、僕は隅っこの方で膝を抱えてなるべく遠くの星空を見ていたからだろう。

 なんかこう、偶然チラっと見えるのはラッキー感あるんだけど、じっくりと凝視するのには抵抗を感じる微妙な年頃の男心と言ってお解かり頂けるであろうか。


「うーん。もう、性分だから諦めて」


「ユウさんは、慎み深い乙女なんですねえ」


 いや違うよアヤメ! 慎みはあると思うけど乙女じゃないよ! 男なんだよ! 全力で否定したくなるが言葉にすると色々終わりそうなので無言で首をふるふると横に振るだけに留めておく。この辺が慎み深い僕の真骨頂。

 なんかこう、三人が生暖かい笑顔でこっちを見てるような気がする。一体みんな僕のことを何だと思ってるんだろう……


 それから何事もイベントも無く……と行くかと思ってたら今度は身体の洗い方に駄目出しをされた。


「ああ、ユウちゃん、そんな乱暴な洗い方じゃあお肌傷めちゃうわよ。ちょっと貸してみて」


「ふぇっ!?」


 使っていたヘチマっぽい植物で作られたスポンジをシンディに取り上げられ、手や足を軽くくるくると小さく円を描くような動きで磨かれる。


「ふぁっ!? ちょっ!? くすぐったい!?」


 他人に肌を触られるからなのか、妙にこそばゆく、思わず変な声が出てしまう。あとすぐ側に大きなお胸さんが存在感を主張して目のやり場に困る。


「……勇者殿、意外と敏感肌、なの?」


 なんかルナの目がきゅぴーんと光った気がしたが今はそれどころじゃない。手足をばたばたさせて抵抗したいが前を隠してるタオルがはだけそうで往くも戻るも地獄、みたいな。


「ん、こんな感じね。じゃああとは自分でできるわね」


 とりあえず手足を洗い終えたところで無事に解放されたので、その場にへたり込んで息を整える。何かの漫画とかみたいにそのまま胸まで揉まれたりとかはなかった。

 まあ男同士でも一緒にお風呂入る時に「ウホっ、良い大胸筋。ちょっと揉ませろ」なんて展開はまず間違いなく起こりえないし、そう考えると女の子同士の“揉みニケーション”なんかもきっと都市伝説の類なんだろう。

 そんな感じで、今度こそ何事もイベント無く、身体を洗い終えてもう一度湯船でゆっくりしてから温泉を後にした。


 ……べ、別にちょっと残念なんて思ってないんだからねっ。



パーティメンバー色々比較


背の高い順:

シンディ(170)>ユウ(162)>アヤメ(156)>ルナ(151)


年齢の高い順:

シンディ(19)>ルナ(17)>ユウ=アヤメ(16)


髪の長い順:

ルナ(腰までのロング)>シンディ≒ユウ(肩の下辺りまでのセミロング)>アヤメ(肩にかからないぐらいのおかっぱ)


胸の大きい順:

シンディ(F)>>>ユウ(C)>アヤメ(B)>ルナ(A)



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