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クエスト04:モンスターを倒してみましょう

「そういえばみんな聞いてくれ。ウチの母氏が錬金術師だった件について」


「どうしたのよ急に」


 僕がこの『ラビドラ』の世界に来た翌日。結局昨日は勇者母氏の家――僕の家と言うには馴染みが薄すぎて実感が湧かない――に四人で一泊した。

 その時に勇者母氏から冒険セットという名の背負い袋を貰ったのだがその中にとんでもない物が入っていた。


「このポーチなんだが、中にはどう考えても錬金術とか魔女の調薬とかで使いそうな薬品が並んでてどうしたものかと」


 勇者母氏に一通り説明は聞いたけど、ニュウエキ? ケショウスイ? センガンリョウ? そんな感じの健全な男子には馴染みの無い呪文ばかりで何が何やらサッパリである。


「要は、使い方を教えて欲しいのね」


 苦笑いしつつシンディがため息をついたが、僕としては一言もそんなことは言ってない訳で、欲しいなら差し上げても良いくらいなんだけど。


「喋り方もそんなだし、きっと勇者修行ばっかりで男の子みたいな子供時代を過ごしたのね……」


 勇者修行か。うん、言動が男っぽいのはそういう設定で押し通すのが良いな。ガルティオ氏のような立派な勇者を目指して男の子のように育てられてきたってことで。


「こっちの二人も、斬り合いだとか魔法修行だとかで青春を謳歌し損ねたところがあるっぽいから、これからは機会を見つけて色んな楽しみを取り返すのも良いわよね。似たものパーティっていうことで」


「……シンディさん、いくらわたくしでもそこまで酷くはないと思います……」


「……同感。私もそこまで女捨ててないの……」


「そんな可哀そうなモノを見るような目で見ないで頂きたい」


 ちなみに、錬金術ポーチ以外での冒険セットの中身は、野営用の毛布と寝袋、ロープとランタンと火打石、あと替えの肌着や調理用具というごく標準的な冒険セットだった。他の三人も似たような感じの袋を背負っている。

 こうして改めて見ると、いよいよこれから冒険が始まるのかと不安と希望が入り混じる。

 今僕達が居るのはラーダトゥムの街の正門前。地図を広げて隣村までのルートを確認しているところだ。


「さて、街道沿いに歩けば夜には隣のベーレ村に着きそうね。この距離ならもし先に日が暮れても野営せずに歩き続けた方が安全と思うわ」


「わかった。シンディの方が旅慣れてそうだからアドバイスに従うのが良いだろうね」


 要は丸投げとも言う。


「じゃ、忘れ物とか無い? 出発するわよ」


「うん」「はい!」「……なの」


 かくして僕達は快晴の空の下、果てしない冒険への第一歩を踏み出す。

 最近だと勇者の移動手段の定番と言えば馬車だろうけど、このゲームでは未実装なので今のところはただ歩くしかない。いずれは船とか鳥とかに乗って楽に旅したいものだ。






 さて、暫く雑談をしながら街道を進んでいくと、とうとうと言うか遂にと言うか、モンスターと遭遇した。

 がさがさっ、と街道沿いの茂みが揺れたかと思うと、中から青くて丸い物体が飛び出して来たのだ。


「スライムが三匹ね。ルナちゃんの呪文は温存、前衛組で蹴散らすわよ」


 シンディが竹槍を、アヤメが棍棒を構え、それぞれ一匹ずつの相手に向かっていく。当然残った三匹目は僕が相手する構図だ。

 このゲーム(ラビドラ)におけるスライムは、駆け出し勇者が戦う最弱のモンスターという位置づけで、半透明なゼリー状の身体に愛嬌のある顔をくっつけたまんまる生物だ。ぽよんぽよんと跳ねて移動して体当たりでの攻撃を仕掛けてくるが、特殊攻撃の類は使わないため何も考えずに殴り合ってもまず負けない相手である……ゲーム内のキャラクターなら。

 ここで余談だけど、日本ではスライムは雑魚モンスターの筆頭扱いだけど、海外ではスライムと言えば剣が効かず触れたものを体液で溶かして吸収する厄介なモンスターであることが多いらしい。主にダンジョンの天井にへばりついていて、誰かが下を通るとボトっと落ちて奇襲してくるんだそうだ。情景考えるとちょっとトラウマになりそうだよね。

 そんな訳なので、剣で斬れて体当たりで戦うゼリー状スライムは日本で独自の発展を重ねた、和製スライムとかガラパゴスライムとかそういうカテゴリで分けるべきだと常々思う。


 それはさておき、今は目の前のスライムへの対応だ。少し前にも言った通り僕は戦闘訓練とか受けたことの無い一般人で、ゲームの勇者や戦士と同じように戦えるかどうか判らない。

 相手は身体も小さく動きも単純なので女の子の腕力でも何とかなりそうには見えるが、全力で当たらないとあっさり返り討ちに遭うかも知れない。


「負ける、訳には、いかないっ!」


 逃げ出したくなる心を必死で繋ぎ止め、震える手で銅の剣を抜き、歯を食いしばって力の限りに振り下ろす渾身の一撃を目の前のスライムに叩きつけた!

 その瞬間、大地が轟音を上げた。






「どーしてこーなった」


 目の前の惨状に、僕はただ呆然と立ち尽くしていた。

 僕が力任せに放った攻撃は、スライムを四散させ、大地を割り、少し先に転がっていた大岩を粉砕していたのだった。

 シンディもルナも、目を点にして固まっていた。


「ですから昨日も言ったじゃないですか。ユウさんは規格外の強さだと」


 アヤメだけが、まるでこうなることが解ってたかのようにニコニコと笑みを浮かべて楽しそうにしている。なお残りのスライム二匹は衝撃に驚いて既に逃げ去った後だ。

 ドッキリとかで担がれてるのでない限り、これが僕の勇者としての実力ということになるのかな。でも、どう考えてもレベル1の強さじゃないよね……


「……あ。そういうことか」


 考えてみればこれまで幾つも不審な点があった。


 例えば昨日の酒場でのアヤメとの腕相撲。あの結果と今の戦闘を合わせて考えるなら、僕の【筋力】の値はきっと三桁超えてるだろう。


 それから、酒場で上級職のキャラクターが仲間になった点。このゲーム(ラビドラ)では上級職を登録するには条件があり、一つが「その仲間がレベル20以上になることで派生する上級職に転職できる」ようになる。例えば、戦士か格闘家がレベル20になれば戦闘系上級職の戦王へ転職可能になる、といった具合だ。

 そしてもう一つの条件が、「勇者がレベル20以上になることで、酒場でのキャラメイク時に最初から上級職を登録できる」ようになる。

 シンディ、アヤメ、ルナの三人を仲間にできたのは、実はこちらの方の条件を満たしていたのかも知れない。


 もう一つ気にしておく要因、それは僕の名前だ。

 この世界に来た当初、僕は勇者母氏や王様に“ゆういち”と呼ばれていたことを覚えているだろうか。

 今回のゲームを始めた時、実は僕は女勇者の名前を打ち込んでいない。最初に勇者の性別を決めたが、本来はその後で名前を打ち込む流れになるはずが実際はそうならず、気付いたらいきなりこの世界に来ていた。

 ちなみに“ゆういち”は、一つ前のセーブデータでの勇者の名前だ。安易な実名プレイと言うなかれ、この勇者はレベルは最大の99、全能力値も最大(カンスト)の255まで育て上げた言わばもう一人の自分で、思いいれもひとしおなんだ。


 つまり、勇者の性別以外、前のプレイ時の最強データが残ってたということか。

 もう少しバグレポート風に言うなら、「キャラメイクの途中に異世界に移動させられた場合に既に決定した項目以外は前のゲームデータの数値をそのまま引き継ぐバグ」ってことだろうね。うん、あるある……ねーよ。


「ごめん。まだ力加減がなんかよく解らなくて……それで、次にモンスターが現れたら今度は呪文スキル試してみたいんだけど……」


 もし本当に僕がレベル99になっているのなら、高レベルでないと使えない強力な呪文も使えるはずだ。そう意識して頭の中を検索してみると、不思議と使いたい呪文の文言が浮かんでくる。

 不安はあるが、恐らく使えるだろう。


「また今みたいな大災害が起こるかもって事ね。りょーかい、心構えしとくわ」


「……勇者殿が呪文まで使えると……私の存在意義がピンチなの……」


「楽しみにお待ちしてます!」


「いや、期待されると逆にプレッシャーになって困るけど……あ、そうだ、アヤメ」


「はい、何でしょう?」


「この剣、僕が使っても効率悪いと思うから、アヤメの武器と交換してくれないか?」


 現時点での装備武器は、僕が銅の剣でアヤメが棍棒だ。でもこの辺の魔物の強さを考えると、僕はどんな武器を使ってもオーバーキルになるはずだからその分アヤメの攻撃力を伸ばす方が有効だろう。


「え、ええ? でもその剣はユウさんの大切な……」


「いやまあ、初期装備なだけでどうせその内買い換える予定だったし、それに今後のことを考えるとアヤメも剣スキルに慣れておいて欲しいし」


 将来的には僕とアヤメは剣メイン、シンディは槍メインの戦い方で育成しようと思っているので、変なクセがつかないうちにアヤメには剣を持たせておきたい。

 ちなみに剣スキルはグループに纏めて攻撃したり連続で斬ったりなどシンプルで扱いやすいスキルが多く、槍スキルは遠隔攻撃や前列から後列に貫通する攻撃など縦方向の突破力が高いスキルが多い。

 このようにアタッカーを並べる場合も、スキル構成や武器の攻撃属性を変える事で様々な状況に対処できるようにするのがパーティ編成のコツである。

 そんな訳で、アヤメから棍棒を受け取って装備する僕。


「なんだか、この格好で棍棒を持つと麺棒みたいだな。棍棒だけに」


 攻撃力は下がったが、街娘度とクッキー生産能力はちょっと上がった気がする。あと駄洒落は誰も突っ込んでくれなかった。


「……次は三角巾を装備させてみたい、なの……」


「気持ちは解るけど……さて、次が来るわよ」


 シンディが目を向けた方角から、新手の魔物がこちらに突っ込んでくるのが見えた。今度はスライムと大ネズミの混成部隊だ。

 だけど、モンスターの攻撃がこちらに届くより先に、僕は呪文を唱える。


「――其は魔を撃ち砕く天の裁き、雷の閃く光を携え、我が剣と成り解き放つ――≪雷電≫!!」


 直後、ばしばしばしっ! という破裂音と共に僕の指先から眩いばかりの光が放たれた。

 勇者専用呪文≪雷電≫――レベル30ぐらいで修得する、敵全員に大ダメージを与えるかなり強力な部類のスキルである。

 その威力は呪文スキル中最強ではないにしても凄まじく、光が収まった時は敵は全て真っ黒い消し炭になっていた。余波で周囲の草や石畳までも黒く煤けている。


「す、すごい、わね」


「流石ユウさんですねっ!」


「……これだけの威力は、私にもまだ無理、なの……」


「いや、それ程でも……」


 三者三様の反応を聞きつつも、ちょっと気恥ずかしい気持ちになってくる。このレベル99の能力は気が付いたら得ていたもので努力とか修行で勝ち取ったものじゃないからなあ。一応ゲームでのレベル上げ作業としてなら努力はしてたけど今の能力に見合うかというと全然釣り合わないだろうし。


「あ、そうそう、忘れずに魔石も回収しとかないと」


 シンディが炭化した魔物の亡骸から何か明滅する謎の石を拾い上げた。最初に僕が物理で爆散させたスライムの分も忘れない。


「魔石?」


「うん。お店に持っていくと買い取ってくれるの。強いモンスターほど強力な魔石を落として価値も高くなるのよ。……もしかして知らなかった?」


「う、ううん、色々なアレとかの材料になる奴だよね。い、今思い出したよ。あははは」


 ゲームではモンスターを倒すと直接お金を落としてたから知らなかったけど、なるほどこういう仕組みになってたんだな。多分武器とかマジックアイテム辺りの材料に必要なんだろうね。


「じゃ、先に進みましょうか。あたし達の冒険はこれからよっ!」


「……聖騎士殿、それは冒険が終わるフラグ、なの……」


 心地よい陽の光と春風を浴びつつ、僕達の旅はまだまだ続く。


 ……ちゃんと続くからね?






■――――――――――――――――――――――――――――――――――


なぜなに『ラビドラ』!


第3回:今回登場(+α)のスキル解説



≪雷電≫

 攻撃呪文スキル。勇者専用。消費MP10

 強力な雷を引き起こし、敵全体に<雷>属性ダメージを与える。

 ダメージ目安は≪火弾≫の6倍。


≪火弾≫

 攻撃呪文スキル。勇者、魔法使い、魔剣士、賢者が修得。消費MP2

 小さな火の玉をぶつけて、敵単体に<炎>属性ダメージを与える。

 レベル1から使える初歩的な攻撃呪文。

 目安としては、魔法使いや賢者が杖で殴るより少しマシな程度のダメージで、基本序盤しか使われない。


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