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クエスト02:王様に謁見すべし

 始まりの城、ラーダトゥム。

 ゲームの最初に、王に会い旅の目的を聞いたり軍資金を貰ったりする場所である。

 案内の兵士さんに連れられて階段を二度上がった先の奥の部屋、いわゆる謁見の間に僕は来ていた。

 広大な赤絨毯に沿うように、左右に大勢の兵士さんが微動だにせず立ち並ぶ姿は圧巻だ。


「よくぞ来た! 勇敢なるガルティオの息子、ゆういちよ!」


 僕の正面、三段程の段差の上に置かれた立派な玉座に座るゴージャスな装いのおじさん――勿論この国の王様だ――のよく通るお声が、謁見の間に響き渡る。


「……いや、娘じゃったな」


 柔らかな感触の絨毯に片手と片膝をついた姿勢で、僕は黙って頷くように一礼した。二十一世紀の日本育ちだとこういう場での礼儀作法が全くと言って良い程分からないのでそれらしいポーズを維持して基本黙ったままでいるのが無難かなと。

 ともあれ、きちんとゲーム通りの台詞を再現した後で取ってつけたように訂正が入る辺り芸が細かいと思う。


「さて、ガルティオの跡を継ぎ旅に出たいというそなたの願い、しかと聞き届けたぞ――」


 それからの王様の話もやっぱりゲームの通りで、纏めるとこんな感じになる。


 勇者である僕がこれから赴く冒険の目的は大きく三つ。

 第一に、僕のこの世界での父親、勇者ガルティオの行方を捜すこと。

 第二に、魔王に連れ去られたこの国の姫君、ローザを助け出すこと。

 最後に、魔王デスドラースを倒し、世界に平和を取り戻すこと。


 順番に説明しようか。

 まず勇者ガルティオ、設定によると……いや、話によると僕がまだ小さい時から魔王を倒すための旅に出て一度も帰って来てないらしい。なんたる風来坊か。勇者母氏泣くぞ。

 で、ネタバレして申し訳ないんだけど、このガルティオ氏、シナリオの中盤に主人公――つまり僕を庇って非業の死を遂げるんだ。

 そのシーンは涙無くしては見られない衝撃的な散り様で、幼い心にトラウマと魔王軍への復讐心をこれでもかと植えつけてくる重大イベントで、『ラビドラ』での大きなターニングポイントとなる。

 僕も最初見た時は泣いた。

 そしてガルティオ氏に手を下した卑劣なる邪神官(エビルプリースト)ゲドを絶対に許さないと誓った。


 次にローザ姫、彼女はラーダトゥム王の一人娘で、只今砂漠に囲まれた『牢獄の塔』と呼ばれる迷宮(ラビリンス)に囚われている。

 シナリオの比較的終盤で行けるようになる場所なので救出もそれだけ遅くなるのだが、ここでローザ姫の牢の前に立ちはだかる中ボスがなんと、父親の仇である邪神官ゲドだったりする。

 父親の敵を討ちつつヒロインを奪還するという、物語の一つの節目であり勇者側の反撃の象徴になるポイントともいえる。こういう場所に仇敵を配置してストーリーの盛り上がりを演出する辺り、『ラビドラ』スタッフの王道冒険物に対する拘りが見えるよね。

 そして主人公の勇者は助け出した姫と相思相愛になることで『真実の愛』という重要アイテムを入手し、物語の先に進む手がかりを手に入れることになる。

 まさに王道。


 で、最後、魔王デスドラース。悪の親玉で教科書(テンプレ)通りな魔王なんだけど、それゆえに地味だ。

 実際、魔王の部下に二人――さっきの邪神官(エビルプリースト)ゲドとあと一人闇騎士(ダークナイト)――個性の強烈な中ボスが居るために、彼らに押されて存在感が薄れてしまうようだ。

 ネットでも「空気魔王(笑)」「魔王デスなんとかさん」「ゲドの上司のあの人」と散々な言われようだったりするけど……ぶっちゃけその通りなので擁護できないね、うん。


「……?」


 王様の話を聞きつつ冒険の展開に思いを馳せていると、ふと視線を感じた。

 無礼にならないように王様を見上げた姿勢のまま目の端で違和感を探っていると、左右に立ち並ぶ兵士さんの幾人かがチラチラと僕の方を(うかが)ってるような気配がある。

 んー……髪も服もきちんと整ってるのを鏡で見て確認してるしなあ……お城に来る途中何か変なモノでもくっつけたのか?

 でも王様の前なので無闇に身体をパタパタする訳にもいかないし。ああ、なんかムズムズする。


「……コホン。同じ姿勢で居るのも疲れるだろう。足を崩すと良い」


 こちらの落ち着きの無い気配が王様にも伝わったのだろうか。そんなことを仰った。……って、足?

 ――まさかっ!?

 そういえばスカート姿で片膝立てた姿勢で座ってた。ロング丈だから大丈夫だと油断してたけど、思い出してみると中学生の時の全校集会なんかでもロングスカートなのに中が見えてる座り方の女の子が意外と居た気がする。まあ大抵は下に短パン履いてたけどな。

 慌ててスカートを押さえると左右の兵士さんの列から落胆の雰囲気が伝わってきた。――やっぱりか。

 ついでに王様の隣に控えていた大臣さんの眉もしょぼーんと下がったのを見逃さなかった。何やってんのさ大臣さんまで。


「す、すみません。お気遣い感謝します……」


 僕のスカート熟練度はまだゼロに等しいので、無理せず両膝を絨毯につけることにした。正座に近いが足が痺れないように腰を少し浮かせた「乙女の祈り」的な感じで。

 顔がちょっと火照っている感じがする。もしかすると紅くなってるのかも。でもさ、所詮ドロワースって短パンみたいなものだからそこまで恥ずかしいとは思わないけど! だってただの布じゃん! トランクスと何が違うねん! みたいな! 畜生!


 ところでこんな色気の無いドロワースでも、それしか無い世界で育った紳士だとやっぱり見えると嬉しいものなのだろうか……大臣さんの様子を見てふとそんなとりとめもない疑問が浮かんできたのだった。


「よいよい。さて、これから厳しい旅に出るゆういちにわしからの贈り物じゃ」


 王様が大臣さんに手で合図を送ると、大臣さんが大きな包みを抱えて僕に近づいてきた。


「城下町の酒場で信頼できる仲間を集め、これで装備を整えると良いだろう」


「はい。ありがたく頂戴いたします」


 作法がわからないのでとりあえず卒業式に証書を受け取る要領で包みを貰い、頭を下げた。

 ちなみに包みの中はお金が50(ゴールド)と棍棒、竹の槍、檜の杖と、本当に無いよりマシなだけの初期装備だ。魔王を倒すどころか次の村に行くまでの繋ぎでしかないがゲームバランスを考えるとそうそう強い装備も出せないのでこんなものだろう。


「では、往くが良い、ゆういちよ!」


「必ずや、魔王をアレしてみせます」


 ……緊張のあまり、咄嗟に『討伐』とか『征伐』の単語が出てこなかったんだ。恥ずかしい!

 そして立ち上がって王様に一礼し、謁見の間を後にする。


 さて、次は仲間探しだな。ゲームが現実になったこの状況だと、人見知りする僕には結構ハードルが高そうで今からビクビクですよ。



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