表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

クエスト21:魔王デスなんとかを倒せ!

 切り立った崖の上、暗雲に囲まれておどろおどろしい雰囲気を醸し出す漆黒の城――

 魔王の住む城、『闇の城ガッデム』……一応名前まで用意されてるんだけどちゃんと呼ぶ人は滅多に居らず、みんな『闇の城』とだけ呼んでいる。


「いよいよね」


 ぱたぱたと翼を忙しく上下させて飛行する天空雀の背中で、シンディが緊張した面持ちで呟いた。


「……今までの旅の記憶が、走馬灯のように駆け巡る、なの……」


「いやまだ思い出に浸るのは早いから!」


 遂に魔王の城に突入という場面だからか、みんなテンションがおかしい感じがする。だけど……


「あと最初に言っておくけど、今日はお城の最深部まで攻め入る予定は無くて、頃合を見て引き上げるつもりだからね」


「そ、そうなんですか?」


「だって、門番にきっと強いモンスターが配置されてるはずだし、道中で宝箱漁ったり近道開通させたりとかしなきゃだし、そんな消耗した状態で魔王と決戦する訳にはいかないよ」


 物語とかだと、まるで退路が絶たれたかのように一回のアタックで門番からラスボスまで一気に突破することもあるらしいけど、現実とゲームを一緒にしてはいけない。ここがゲーム世界で敵方から攻めてこない以上は適度に休みながら効率的に攻略しないとだね。

 それに、門番を倒してしまえば以降は≪帰還≫の呪文で即座に『闇の城』の入り口まで移動できるようになるから、初回アタックは門番だけ倒して宿に戻っても良いぐらいだ。消耗度合いにもよるけど「“まだ行ける”は“もう危ない”」がこの手のRPGの合言葉なので油断は禁物。

 いのちをだいじに。そう自分に言い聞かせて、城門の側に天空雀を着陸、待機させる。

 ここからは一瞬の油断が即死に繋がる魔境。剣の柄に手をかけていつでも戦えるよう心のスイッチを切り替え、門へと歩みを進めると、そこに待っていたのは――


「遂にここまで来たか。伝説の勇者とその一味の者どもよ」


「魔王……デスドラース!?」


「ククク、いかにも。わしが全世界の王となる存在、魔王デスドラースだ」


 何と、魔王城の城門を魔王が護っているというなんかよくわからない状況に遭遇した。

 黒いマントを羽織り長いお髭をたくわえた老人の姿の、まさに『魔王・第一形態』と表現すべき外見だ。

 これまで中ボスが一つずつ前にスライドして登場していたからもしかしたら、とは思っていたけど、それにしたって唐突すぎて何が何だか。


 で、どうでも良い話だがこの魔王デスドラース、このゲーム(ラビドラ)でも一、二を争うくらい名前を覚えて貰えない不遇のボスキャラで、さっきの台詞を聞いたプレイヤーの八割が「あぁ、そういえばそんな名前だったな」と反応する。これも、邪神官(エビルプリースト)ゲドや闇騎士(ダークナイト)ピカレス氏のキャラが濃すぎて喰われるせいである。

 尚残りの二割のうち一割は僕のようにちゃんと覚えてる層、もう一割は「本人なのに自分の名前間違うなよデスドロワースさん」とかネタに走る層らしい……

 ちなみに昨日仲間達にも抜き打ちで魔王の名前言えるかどうかテストしてみたんだけど、正解は意外な事にアヤメ一人だけだった。シンディは「デスなんとかでしょ」と覚える気最初からゼロだったし、ルナは「……デスクリムゾン、なの……」と別のゲームが混ざってた。


 それはさて置き、いくら空気魔王と言ってもいざ対峙すると威圧感とかが普通に凄い。行動パターンなどに突出した特長は無いが普通に戦えば普通に強い相手なので、ここでネタに走って挑発する気にはなれない。


「身の程をわきまえぬ者達め。ここに来た事を後悔させてやろうぞっ!」


「勝つのは僕達だ! 行くぞみんなっ!」


「ええ!」「はいっ!」「……なの!」


 予定より早く幕が開けた最終決戦(推定)であるが、僕達だってそれに備えて準備とか作戦会議とかは済ませてる。ここまで来て負けるつもりは無い!


「行くぞっ!」


 いつものようにオープニングヒットは【敏捷】の高い僕から。耐久力の高い勇者の剣を手に入れたことで遂に解禁となった≪雷神剣≫を早速叩き付ける!

 まるで落雷のような閃光と轟音と共に、僕の剣閃が魔王の胴を薙ぐ! 最強の剣に最強のスキルに最強のステータス、これらが合わさった威力は凄まじく、油断すると自分でも制御できなくなりそうだった。


「クッ……ここまで来ただけのことはあるか……仕方ない。出でよ我がしもべ達よ!」


 魔王が両手を天に向けて上げると、呼びかけに応じ魔王の左右に一体ずつ、新たな敵が召喚される。右側に現れたのが殺人機兵(キリングマシン)――メタルマジンガーの劣化版みたいな武器攻撃型モンスターで、左側が地獄神官――ゲドの劣化版みたいな呪文攻撃型モンスターだ。


「気にするな! 押し切ろう!」


「当然っ!」


 仲間達に発破をかける。ここまで一緒に来た頼もしい戦友だ。今更この程度の敵に遅れは取らないに決まってる。


「っはああ!」


 まずアヤメの≪二段斬り≫が武器攻撃に弱い地獄神官を切り裂く! 袈裟懸けから逆袈裟に戻る軌跡はさながら地面近くで急反転する燕の飛行のようだ。


「……燃え盛る猛き炎よ、(あか)く輝く熱き光よ、我が言の葉に従い敵を討ち払う刃と成れ――≪極炎柱≫なの!」


 続いてルナが放った<炎>属性最強の攻撃呪文が、魔法攻撃に弱い殺人機兵(キリングマシン)を業火で包み込んだ! その火柱の勢いは古代遺跡での決戦の時にゲドが駆使したものよりも強く熱く、普段は残念なところがあるルナだが呪文の威力と多彩さにかけてはもうこの世界でもきっとトップクラスだ。


「出てきてそうそう悪いけどっ!」


 流れるような連携でシンディが≪聖十字槍≫を繰り出す! 銀の槍はまず魔王に着弾。そこから十字型に左右と後方に衝撃が拡散し、地獄神官と殺人機兵(キリングマシン)にトドメを刺した。彼女の槍技は久しぶりに見る気がするが、衰えていないどころか新しい槍と新しい技を持って一層輝いている。


「三人ともナイスだ! これで終わらせる!」


 そして、最後に残った魔王に僕が再び≪雷神剣≫をブチ込む! 魔王の脳天から縦一文字に切り裂き、眩しい光の中に溶けるかのように奴の姿が消失した。


「よし、前座は終わり。ここからが本番だ!」


 そう。今の老人の姿は単なる前座。この第一形態を倒してようやく真の姿の魔王と戦えるのだ。あっさり倒したように見えるだろうが、第一形態で苦戦していたら第二形態にはとても勝てないので、ここまではある意味当然の流れなのである。


 余談であるが魔王が第一形態から第二形態に移る際はターン処理が一旦終わるんだ。つまり今みたいにターンの頭に僕が行動して倒した場合、敵の攻撃順はスキップしてまた次のターンの頭から始まるということで、【敏捷】が早ければ一方的に攻撃できるチャンスということだ。


「――ふむ。やはりじじいの姿では失礼だったか……良いだろう。では本気で相手をしてやるとしようか!」


 魔王の残骸が散らばった石床が、不意に円形に輝く。次の瞬間、床の下からせり上がるように巨大な何かが現れた。

 ずんぐりむっくりした二足歩行のドラゴンのような姿。溶岩のような赤い肌に鋭い爪の生えた太い手足、背中にはコウモリのような翼を生やし、開いた口には鋭い牙が無数に並ぶ。

 これこそが、魔王デスドラースの真の姿!


「さあ、泣け! 叫べ! 貴様達の苦しみと絶望こそが最大の供物! 全て喰らい尽くしてくれよう!」


 これまで戦った敵達とはまるで比べ物にならない威圧感を発して、魔王が襲い掛かってくる。

 だけど、僕達だってこれまで相当な修羅場を潜り抜けてるんだ。仲間達も緊張の面持ちはしていても気圧されていない。確かに魔王の能力は全体的に高いが、最初に戦った時のゲド程の力の差は感じないし、ピカレス氏程の瞬間火力も出さない。ストームドラゴンのように巨体の物量で押し潰してこないしメタルマジンガー程の装甲の硬さも持っていない。

 平たく言うと「普通に強いんだけど印象に残らない」タイプの敵だ。僕達がいつも通りに頑張ればきっと勝てるはず!


「みんな、落ち着いてね! 作戦通りに戦えば勝てるから!」


 僕が事前に伝えた作戦はこうだ。魔王第二形態の行動パターンはランダム行動と確定行動を繰り返す変則的なローテーション型なので、確定行動を確実に防ぐようにその都度防御補助を張り替えつつ戦う。

 ローテーションは八ターンを一サイクルとして繰り返し、確定行動は二ターン目に<炎>、四ターン目に<氷>、六ターン目に<炎>、八ターン目に補助スキルの効果を消失させる≪(しば)れる波動≫を繰り出してくるんだ。


 それだけ言うと僕は仲間達を信じて前に出る。まずは雄叫びと共に≪雷神剣≫を一閃! 光の剣が魔王の分厚い表皮を易々と切り裂き、魔王の悲鳴が響く!

 鋼の剣の時は≪雷神剣≫を三回放った時点でスキルの威力に耐えられずに砕けたんだけど、この勇者の剣は刃こぼれ一つ生じていない。流石に世界最強の剣だけのことはある。


「続きますっ!」


 僕が切り裂いた箇所を狙って、アヤメがオリハルコンの刀を思いっきり突き入れる!


「貴様らッ!」


「させるかっ!」


 怒り狂った魔王がアヤメに向けて鋭い爪を振るうが、僕が盾を構えて割り込んだ。強く重い衝撃が全身を巡るが、防具には傷一つつかずここでも最強装備の恩恵を実感する。

 こう、見た目はちょっと上質のエプロンドレスなのに魔王の爪を受け止めて破れないのは凄く釈然としない気持ちになってくる……いや破れた方が良いとかマニアックなこと言う気はないけどね。

 ともあれ、シンディが次の魔王の攻撃に備えて≪耐熱≫を唱え、ルナが今後の回復に備えて≪賢人の悟り≫を起動する。心なしかルナの身体全体が青いオーラに覆われたようで凄く魔法キャラっぽい感じだ。


「喰らえ! ――≪炎熱爆陣≫!!」


 勿論魔王も、何もせずに僕達が動くのを待ってくれる訳がない。<炎>属性全体攻撃で最強の呪文が炸裂する。

 だが詠唱勝負はなんとかシンディの≪耐熱≫が半瞬早く、全てを吹き飛ばすような大爆発が僕達に届く前に優しい絹のカーテンのような魔法の護りが包み込む。


「――くっ!」「――きゃあっ!?」


 とはいえ流石は魔王の唱える最高位の呪文。威力を半減しても僕達はかなりのダメージを受けてしまう。特に装備の魔法防御が比較的弱いアヤメと元々の体力(HP)が低いルナは辛そうだ。


「……はぁ、ふぅ、任せて――≪範囲回復≫なの!」


 既に詠唱を完了させたルナの呪文が発動、僕達を温かい光が包み込み、火傷の熱さと痛みが引いていく。

 ほぼ同時にシンディが、≪耐寒≫を唱えて次の攻撃属性に応じた防御補助に張り替えた。


 一手分の判断のミスが、一歩分の行動の遅れが、正に命取りになる。そんな緊張感の中、僕達は戦い続ける。

 魔王の攻撃も苛烈を極め、強烈な≪乱氷杭≫の呪文が、口から吐かれる灼熱の炎が、容赦なく襲う。僕達は防御呪文や回復呪文で凌ぎつつ、反撃を重ね――


「小癪なッ!」


 魔王の構えた両手の爪から、稲妻が迸るように魔力の波が広がる! 特殊行動の≪(しば)れる波動≫だ。直接的な攻撃力こそ無いが、補助スキルを全て打ち消す厄介な技。

 もし不意にこの攻撃を受けて補助スキルを剥がされると、攻撃のリズムを崩されたり防御スキルを失った所に強力な攻撃を受けたりして戦いの主導権を一気に奪われかねない。

 だけど来るタイミングが判っていれば、ダメージに繋がる行動じゃないからそのターンは回復して一旦立て直すのにうってつけのタイミングになる訳だ。

 僕達も、≪(しば)れる波動≫の勢いに合わせるように一度相手と距離を置いて回復を行い、次の攻防に備える。


「護るわ! ≪耐熱≫!」


「……勇者殿! ≪鋭刃≫なの!」


「ありがとう! このまま押し切れば勝てるっ!」


 そして攻防の補助呪文を受けた僕が再度魔王に斬りかかろうとした時――予想外の冷気が僕達を襲った。


「――くっ!?」


 魔王デスドラースの口から吐かれた猛烈な吹雪は、物理的な鋭さすら帯びて、僕達の身体をズタズタに引き裂こうと荒れ狂う!

 奴の行動パターンの特性上仕方の無いことだけど、ランダム攻撃のターンだと対策した属性以外の攻撃を受け、予想外の大ダメージに繋がることもある。こればっかりは運だからしょうがなく、重要なのはここからどう立て直すかだ。


「アヤメ! ルナ! 無事か!?」


 装備効果で炎や冷気に強い僕とシンディはまだ心配無い。耐久力に不安のある二人に声をかけると、視界を遮る吹雪の中から「はい!」「……なの」と声が返ってきた。よし、二人とも倒れてないな。

 だけど楽観視はできない。続けざまに魔王は強力な攻撃呪文を唱える。


「お姉さんに任せて! アヤメちゃんとルナちゃんはその間に回復を!」


「シンディ!? 無茶だっ!」


 そんな中、シンディが盾を構えて魔王の目の前、僕達全員を庇うかのように躍り出た。≪庇う≫の上位技、≪仁王立ち≫か!? パーティ全員を纏めて庇うスキルだけど、勿論その分のダメージを全部自分で引き受けることになるから≪庇う≫よりもリスクが大きいのに!


「……聖騎士殿! ≪全回復≫なの!」


 唱えかけた≪範囲回復≫を中断し、ルナが急ぎでシンディに回復呪文を投げる。


「ならば、まずは貴様からだ! ――≪炎熱爆陣≫!!」


 次の瞬間生じた大爆発が、シンディを呑み込む――


「シンディーーーーッ!!」


 押し寄せる熱風に逆らい、掻き分けるようにして、シンディの元に走り寄る。ふらりと揺れたシンディの身体を抱くようにして支えた。

 とにかく回復を! 僕はポーチの中から“取って置き”の回復アイテムを取り出し、その輝くように澄んだ液体の入った透明な瓶を空中に放り投げる!


「――許しません! 喰らいなさいっ!!」


 僕の行動と並行して、アヤメが振るった刀が灼熱の炎を帯びて魔王に迫る! ≪憤怒獄炎破≫か! 確かに今は使いどころだけど見てる方がハラハラして困る。


「……おぉ。あれは脱げば脱ぐ程強くなる戦王殿の必殺、≪裸身活殺剣――」


「違います! 違いますからあっ!」


 ルナの言うことにも一応根拠はあって、さっきの攻撃でアヤメの着物の上半身部分が大破し、下に着込んでいたレオタードが剥き出しになっているのが見えた。あのレオタードじゃなければ今頃再びポロリ状態だったかと考えると、防具の選択は間違ってなかったように思う。

 それは良いとして――


「グオオオォォッ!?」


 アヤメの渾身の一撃は魔王の巨体を後方に吹き飛ばし、それにより回復の為の一瞬の隙を僕達にもたらしてくれた。

 次の瞬間、さっき僕が投げた回復アイテム“世界樹の朝露”の満ちた瓶が、空中で割れる。その露はキラキラと輝きながら僕達四人に注ぎ、身体中にできた凍傷や火傷を癒していく。

 ゲーム的には、味方全員の体力(HP)を一気に最大値まで回復させる、世界最高の回復アイテムだ。治癒術士専用呪文にも同じ効果を持つものはあるが、僕達のパーティだと誰も使えない。


「シンディ! 平気か!?」


「大丈夫よ。それに聖騎士なら一度は憧れるシチュエーションなんだからみんなも気にしないでね」


 四人分の攻撃を一度に庇ったんだ。本当は大丈夫な訳がないであろうにシンディは笑顔で頷いてきた。本人の耐久力に加え、竜鱗防具による装備耐性、≪耐熱≫の呪文効果、そしてルナの回復呪文、どれか一つでも足りなければきっと危なかったに違いない。


「本当にもう、みんな無茶ばっかり――」


「はいはい。それよりユウちゃんの役目は何? アヤメちゃん一人に戦わせる気かしら?」


 シンディが僕の背中を優しく押す。視界の先ではアヤメの繰り出した斬撃が魔王の左腕を大きく切り裂くところだった。だがカウンター気味に魔王が振るった右腕の爪もまたアヤメに深く食い込む!


「――うぐっ!」


「アヤメっ!」


 全力で走り、横合いから魔王の脇腹目掛けすれ違いざまに斬りつける。一拍遅れてシンディも、床に転がったアヤメを庇うように魔王の前に立ち塞がる。


「戦王殿!」


 ルナの≪全回復≫がアヤメを癒し、これでまたいつもの四人の陣形(フォーメーション)が完成する! この形が維持できればもう負ける気はしない!


「これで決める! 援護を頼む!」


「任せて!」「はい!」「……なの!」


「――小賢しいわっ!」


「徹さない!」


 咆哮と共に魔王が振り下ろす強靭な右腕を、シンディの盾ががっちりと受け止める!


「参ります!」


 盾の影から滑り出たアヤメの一撃が、魔王の右腕を肘から斬り飛ばす!


「……隙あり、なの!」


 魔王が再び猛吹雪を吐こうと大口を開けたところに、ルナが唱えた≪爆炎≫が口内で炸裂する!


「――ガアッ!?」


 予想外の衝撃に魔王の動きが一瞬止まる。この隙を逃す手は無い! 僕は既に動きの鈍った左腕を駆け上がるようにして魔王の頭上に跳躍している!

 あとは落下の勢いに身を任せ、僕の最高の一撃を叩き込むだけだ!


「これで、終わりだあっ! ≪雷神剣≫!!」


 剣が凄まじい光と熱を帯び、魔王の脳天に食い込む!

 僕の渾身の一撃は闇を切り裂く落雷となり、魔王の身体を縦に断ち斬った。






「はぁ、はぁ……や、やった……か?」


 肩で息をしつつ立ち上がる。着地に失敗したせいでお尻が痛い。

 結果的には終始僕らが押してた印象であるが、こちらの切り札になった回復アイテム“世界樹の朝露”は一個きりしか無かったからあと一度同じ展開の攻撃を受けてたら実は危なかったかも知れない。見た目以上に結構ギリギリの勝負だったと思うんだ。


「……うん。凄かった、なの。特に落下の勢いでスカートが巾着みたいに――」


「いやそういうのは良いから」


 ずびしとルナの額にデコピンする。戦ってる時は夢中だったから意識しなかったけどいざ指摘されるとちょっと顔が熱くなる。僕の場合はロングだからまだ良いけど、世のミニスカで戦う美少女戦士の皆さんはもっと大変なんだろうかと同情心が沸く。

 というか何故彼女達はあえてスカート姿で戦いたがるんだろうか。そこにスカートがあるからか。それともそこにスカートしかないからか。妄想(ゆめ)が広がりんぐ。


「……ク……クククク……まさか、このわしが……敗れるとは……な……」


「――まだ生きてたのか!?」


 驚いたことに、身体を縦に真っ二つに断ち斬ったにも拘らず、弱々しいながらも魔王デスドラースが言葉を発する。喉も破壊しているはずなのに、気合いとか魂とかそういう部分で喋ってるんだろうか。


「……だが……わしを倒したところで……もはや世界は救……えまい……」


「どういうことだ!? まだ何か居るのか!?」


「……クク……貴様らは……大魔王……コウメイ様には……勝てぬと……いうこと…………」


 そこまで喋ると、魔王の体が色を失う。

 石か灰のような白に染まり、砂のように崩れ、光の粒子となり空に溶けてゆく……

 最後まで“普通の魔王”なデスドラースの、普通な演出での散り様だった。


 ふと、アヤメが眼前に刀を掲げ、空に祈るように呟く。


「お父さん、お母さん……仇は討ちました……」


 しんみりした空気の流れる中、手持ち無沙汰になったのでアヤメの頭をぽふっと撫でておいた。


「それにしても、魔王を倒したら次は大魔王なんて、悪質な冗談みたいな話ね……」


「……勇者殿が言ってた中ボススライドの原因もそれかも知れない……城門に魔王が居たのも大魔王との縄張り争いに負けて住処を追いやられたかも、なの……」


「住処ってそんな野生動物じゃあるまいし」


 でもルナの言うことも一理ある。そもそも大魔王なんてのはゲーム版の『ラビドラ』では居なかったキャラクターだ。だけど“コウメイ”という名前には少し心当たりがあったりするんだ……


「それにしても大魔王コウメイ、一体何者なんだー」


 ちょっと棒読みっぽくなったが、いずれにしてもゲームに無い展開となればここから先は慎重に慎重を期すべきだ。ということで今の魔王戦でかなり消耗した僕らは一旦、拠点へと戻ることにするのだった。






■――――――――――――――――――――――――――――――――――


なぜなに『ラビドラ』!


第16回:今回登場のスキル解説



≪炎熱爆陣≫

 攻撃呪文スキル。魔法使い専用。消費MP18

 豪快な大爆発を起こして、敵全体に<火>属性ダメージを与える。

 ダメージ目安は≪火弾≫の8倍、全体攻撃では最強の威力を誇る。


≪乱氷杭≫

 攻撃呪文スキル。魔法使い、賢者が修得。消費MP12

 巨大な氷の杭をぶつけて、敵全体の中から3~6体をランダムに選んで<氷>属性ダメージを与える。

 同じ敵には複数回ヒットせず、ランダム対象なので狙った敵に当たるかどうか判らず不確定要素の高い呪文。

 ダメージ目安は≪火弾≫の7倍、<氷>属性では最強の威力でゲーム終盤の主力呪文の一つ。


≪範囲回復≫

 回復呪文スキル。治癒術士、賢者が修得。消費MP18

 味方全体のHPを回復させる。回復量の目安は≪回復≫の4倍。

 貴重な複数人回復スキル。消費MPは大きいが、≪大回復≫を4回別々に使うよりは回復量もMP消費量も有利。


≪完全回復≫

 回復呪文スキル。治癒術士専用。消費MP64

 味方全体のHPを最大値まで回復させる。究極の回復呪文だがMP消費量も究極。

 消費型回復アイテム“世界樹の朝露”も、この呪文と同じ効果を持つ。


≪仁王立ち≫

 盾スキル。聖騎士専用。消費MP25

 そのターンの間、味方全員を庇い、対象が受ける予定の攻撃を代わりに受ける。

 受けるダメージはスキル使用者の防御力や魔法防御を基準に計算し、更に受けるダメージを0.6倍に軽減する。

 聖騎士を象徴する防御スキルだが、リスクも大きいのでなるべく使わないに越したことは無い。



――――――――――――――――――――――――――――――――――■



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ