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クエスト15:闘技場でバトルをやらないか(水着回)

※微エロ表現有り。ご注意下さい。


 お城の中に円形闘技場(コロシアム)を作る辺り、ここの王家は筋金入りだと感じた。

 こう、まず闘技場ありきで、その周囲に城を築くような設計になっているようだ。正門から一度お城に入ると、コロシアムを囲む円環状の通路になっていて、所々にコロシアムへの通路が開いている造りだ。勿論謁見の間みたいなセキュリティエリアは城内に更に門があったり衛兵が見張ってたりしている。

 恐らく闘技場の観客席は城下町の住民全員を収容でき、格闘戦のみならず国の重要な式典とかにもこの場所が使われるんだろうと思う。


 ――デルコンドラ城。

 僕達は今日、土のオーブを手に入れるためここに来ていた。本当は昨日には到着してたんだけど、例によって遅い時間だったから宿屋で一泊して朝を待った次第だ。

 そして王様に謁見し土のオーブを所望した僕達は、控え室……というか更衣室に通されていた。

 経緯としては王様は無類の格闘技好きで、土のオーブをくれる条件として『コロシアムで強敵と一対一で闘い勝つこと』を言い渡してきたんだ。


 余談であるが、アヤメはこの地方の出身でここのお城にも何度も訪れたことがあるらしい。そのことを聞いて僕らは「さもありなん」と思ったよ。


 で、本来ゲームのシナリオだと、闘技場で殺人虎と死闘を繰り広げることになるんだけど、僕の姿を見て王様はこう言った。


『いくら勇者といえどうら若き女子(おなご)に虎と殺し合いをさせて無意味に傷つけるのは誰も得……もとい、人類の損失! ここは我が国伝統のオイルレスリングマッチで対決するというのはどうじゃ!』


 国民は沸いた。凄い勢いで沸いた。主に男性が。

 僕としては虎相手でも全然構わなかったんだけど……これって男女差別じゃありませんかね?

 そんな訳で、渡された水着に着替えるため、コロシアムの控え室に今僕達は居るのだった。


「……これで人前に出るのか……」


 僕が今着ているのは、情熱の赤色をしたビキニ状の水着。アイテム名を“危険な水着”と言い、胸と腰だけを覆う布地の極めて少ない衣装の、防御力僅か1の文字通り危険な防具だ。

 ちなみに実はこの水着、布地面積これだけなのにお店で買うと7万(ゴールド)以上もするんだぜ。職人さんの技術の粋が詰まってるんだろうな。


「ふわわわわっ! 見てるほうが恥ずかしいです!」


 顔を真っ赤にしたアヤメが、手で顔を覆いつつも指の間からこっちを見ている。対してシンディはケロリとした顔で僕の後ろに回り、


「あ、お尻の肉がはみ出てる。やっぱり基本は押さえてるねー」


「うひゃっ!?」


 背後から僕の水着に指を指し込み、くいっと引っ張った。食い込み直しは男の浪漫の一つだが、まさかされる側に回るなんてつい昨日までは思いもよらなかったよ。


 そんなことをやってると、突然ノックも無しに扉がばーん! と開く。


「アヤメー! 帰ってきてるって!? 元気してたー!?」


 入り口を蹴破る勢いで突入してきたのは、オレンジ色の髪をくるんとカールさせて、太陽のようにエネルギー感溢れる黄色のドレスに身を包んだ、僕と同じぐらいの背丈・年頃の少女だった。

 でもノック無しは恐い。ちょっとタイミングが狂えば着替え途中に乱入の事案発生だよ。ラッキースケベも男の浪漫だがされる側に回るのは遠慮しておきたい。


「マリーナ姫! お久しゅうございます」


 膝を折り、礼儀正しく一礼するアヤメ。マリーナ姫とはここデルコンドラの国王の一人娘で、格闘をこよなく愛するお転婆なお姫様である。

 マリーナ姫はそんなアヤメの手を握り、


「暫く見ないうちに一段と強くなったみたいねー! 後で組み手しよっか!」


「はい! 今度は勝ち越してみせますよっ!」


 ……あかんこの人たち、どう見ても同類というか同部族や。そんな戦闘部族の姫君はこちらにも好奇心溢れる目を向ける。


「あなたがユウね、あたしはマリーナ。ごめんねー、ウチの父上が面倒臭いこと言ったみたいで。お詫びにあなたにも後で組み手してあげるわ。しかも五本勝負で!」


「それがお詫びになると思ってる時点で、あぁアヤメの故郷の惑星(ほし)に来たんだなぁとしみじみ思うよ」


「ど、どういう意味ですかっ!?」


 アヤメが心外そうに詰め寄ってきたので生暖かい笑顔だけ返して頭をぽふぽふ撫でておいた。


「……ところで姫君殿はヌルヌルバトルには不参加……? ……てっきり勇者殿のお相手を務めるものかと、なの……」


「あー。あたしはアレ苦手なのよねー。打撃もスキルも使用禁止なんだもん」


 ルナの問いにその場で流れるような正拳突きの型を取りつつ答えるマリーナ姫。見えない打点がぱしっ、と硬く乾いた音を立てる辺り、相当の達人である。

 そう。これから始まるオイルレスリングは打撃不可、戦闘スキル不可、当然呪文も不可と、安全に気を遣う分かなり制約の多い格闘技である。勝利条件は「相手の背中を床につけた状態で5秒カウントする」または「相手が明らかに戦闘不能になるかギブアップする」ことで、どちらかというとショー的な側面が強いと思う。

 尚、水着の剥ぎ取りは厳禁である。観客側からしたら残念かもしれないが今の僕には正直助かったという思いの方が強い。


「……むぅ、勇者殿と姫君殿の対戦だったら見所一杯だった、のに……」


「んー、ルナちゃんがこういうのが好きだったのは意外よね。いつも雨の日とか外に出たがらなかったし」


 シンディの指摘にルナは眼鏡をくいっと直しつつ、


「……濡れるのは嫌いだけど濡らすのは好き、なの……」


 清々しく言い切りやがった!


「でもやっぱり、お姫様のきわどい水着姿を全国民に晒すのは色々まずいっしょ」


「……そもそも、わざわざ水着に着替えるのが意味不明、なの……水着が濡れても当たり前すぎて面白くないの……」


 とりあえず深くは追及せずに無理やり話を戻そうとした僕に、ルナが眉根を寄せつつまた駄目なことを言い出す。


「……濡れて透けるブラウス、ヌルヌルになってめくれ上がるスカート、べっとりと臀部の形に張り付く肌着、これが至高なの……だけど『寺院』でも賛同者が少なくてフル着衣派は孤軍奮闘、なの……」


「いやそんなマイナーな分野で更に派閥争いやってるとますますそのジャンル衰退しないかな」


 見た限り僕含めて周囲にルナの味方は居なさそうだ。かといって真っ向から言い争う姿勢の論敵が現れる訳でもなく、みんなの反応としては「興味ない・どっちでも良い」ってところだろう。


「……兄弟子殿も師匠殿もここの国王殿も、肌の露出面積比率に魂を奪われた俗物揃いなの……」


 目を伏せてため息一つ吐くルナ。台詞部分さえ隠せば“憂いの美少女”というタイトルの一枚絵にもなりそうな見た目なんだけどなあ。


「というか何やってんのさ寺院。悟りを開くための修行の場所じゃなかったのかよ」


「……最近は人材不足で、手っ取り早く遊び人連れてきて転職させることも多い、なの……」


 聞きたくなかったよそんな裏事情!






 さてそれからお呼びがかかって僕はコロシアムの中心に居た。羽織っていたバスタオルを脱ぎ捨てると、男性比率の極めて高い観客席から割れるような大歓声が降り注ぐ。

 それと同時にチリチリとした、なんだか背筋が寒くなるような視線を感じる。モンスターと戦う時とはまた別の、初めて味わう生理的な不快感だった。

 大事な所以外は肌色フルオープンに曝け出した自分の格好を見て、ここで初めて恥ずかしさの感情が湧き上がってくる。女子の身体になってこれ程まで性の対象としての視線を受けたのは初めてのことで、戸惑いが出てきたのだろうか。

 できることなら今すぐ再びバスタオルを身体に巻いてこの場から逃げ出したい衝動に駆られるが、土のオーブが懸かっている都合上ここで踏み留まらなければならない。


 ……こんなことなら、無理を言ってでも殺人虎との殴り合いで押し通しておけば良かったかな……


「ふむ、なかなかよく似合っておるではないか!」


 僕の対戦相手は、姫君が出ない以上は予想通りであるが、この国の王様であった。筋骨隆々で傷だらけの歴戦感ある肉体を、ブーメランタイプの海パン一丁で際立たせている。


「王様の方こそよくお似合いです」


「フハハ! わしの肉体美に惚れると火傷するぞ、妻子持ちだからな!」


 それは王様の方が火傷するんじゃなかろうか……などと考えていると、コロシアムにやたら明るい声が響き渡る。


『レディーース、アーンド変態ジェントルメーンのみんなー! 今からいよいよ世紀の一戦! デルコンドラ国王ガンタダ十六世対ラーダトゥムの若き勇者ユウのオイルレスリングマッチ、始まるよー! 実況はあたし、戦うプリンセスのマリーナがお送りするわ!』


 うおおおおおおおおおおお!! と変態紳士の皆さんが沸く。


『まずは選手紹介から! チャンピオンのガンタダ十六世は、このオイルレスリングを含めあらゆる格闘技に精通したまさに生ける武神! 副業に国王も兼任してるから文武共に最前線で国民の皆さんと一緒に戦ってるわ! だけどリングに上がるからには地位も権力も関係無い! 一人の漢、一匹の獣として今日もあたしたちに夢と感動を与えてくれると信じてるわ!』


 マリーナ姫はこの長台詞をアドリブで考えながら喋ってるんだろうか、疑問は尽きない。ともあれ紹介にあずかった国王は、コロシアム中央に鎮座するオイルがなみなみと注がれた直径5メートルほどのビニールプールに向かって跳躍し、巨体には似つかわしくない身軽さでポージングしつつ着地。


『対するユウ選手、弱冠十六歳のベビーフェイスでニューフェイス! その正体はなんとあの勇者ガルティオの一人娘よ! 彼女自身も勇者やってて各地で魔王軍相手に血沸き肉踊る熱い戦いを繰り広げてるからその戦闘力と心の中に秘めた獣の本性は折り紙つき! 今日は体格差をどうやって埋めるのかが注目ね!』


 僕もひょいっと身軽にビニールプールに入り込む。


 ――つるっ。べしゃっ。


『あ、ああっとぉー! ユウ選手いきなりオリーブオイルのプールに顔面からスライディングー! 慣れないとオイルは足元が滑って危険だから注意しようとした矢先の出来事! 早速ファンサービスとは侮れない!』


「……わぷっ」


 身体の前面がオイルまみれになりつつも立ち上がる。これは足元がツルツル滑って踏ん張りが利かないからバランス崩したらすぐに倒れそうで恐い。

 そして何故か観客が沸いている。僕の胸やらお腹やらにオイルが流れて艶めかしくテカっているからか。くっ、こういうのが良いのか変態紳士どもめっ。


『それじゃあ両者、戦闘準備オッケーかなー? では決戦の号砲を鳴らすゴングが――今鳴ったァー!』


 ゴングあるのか、と思ってたら重い音を震わせてドラが鳴り響いた。


「ではゆくぞ、覚悟はよいな」


 そう言うと王様はプールに飛び込むように腹這いになり、その勢いで僕に向かって滑ってくる。


「わひゃっ!?」


 そこで足を引っかけられて今度は後ろに倒され、そのまま王様が僕の上に這い上がるように覆いかぶさる。うおお!? アブラギッシュな胸板が目の前に!?


「ぎゃあっ!?」


 思わず両手で筋肉質の身体を放り投げようとするが、オイルで滑って少し浮かすだけに留まった。その隙に床を滑るように脱出する。


『おおっと! あの巨体を軽々と浮かすとはユウ選手意外と力が強い! そしてオイルレスリングはまず両者の身体をオイルでヌルヌルにするのが作法だから最初は転がし合いのような地味な展開が続くぞー!』


 マリーナ姫の言うとおり、それからは迫る王様に跳ね除ける僕という攻防の応酬で両者の身体がどんどんオイルに覆われていく。王様のご立派な髪や髭なんかもオイルが浸透して濡れた犬のようになっているが、僕の髪も自分で見えないだけで似た感じになってるのかも。


「ほう、なかなか体力は鍛えておるようだな。並の女子(おなご)だとこのくらいで疲れて動けなくなるものだが」


 それはきっと能力値の差だろう。


「おかげで最近は人間扱いすらして貰えないよ」


「ふむ、それはますます楽しみだ。ではここからは本気で行くぞ」


 再び王様の猛攻が僕を襲う。だけど今度は前のような押し合い引き合いではなく、もっとガチな攻めだった。


『ああっとぉ! ガンタダ十六世が遂に封印を一つ解いたぞー! 背後に回って腕関節を取る! ユウ選手これを力で引き離す! その隙に足四の字に――これもオイルのヌルヌルを利用して脱出! 瞬きする暇も無い! これで明日はみんなドライアイだー!』


 筋力は僕の方が高いとはいえ、関節技は梃子の原理を利用するものが多く、全てを力ずくで跳ね返せるとも限らない。格闘そのものの経験やオイルのヌルヌルの経験の差は大きく、僕は防戦一方に追い込まれる!


『オイルまみれの柔肌が光る! テカる! これぞ正に熱い戦いの輝き! そして胸が揺れる! お尻も震える! やはり戦う者達の肉体は美しいー!』


 なんだか僕が大きく動く度に観客の変態ジェントルどもから歓声が降り注ぐ。確かに胸が揺れる感覚はあるが正直それどころじゃないし、お尻に至っては自分じゃあ見えないから正直どうなってるのかすら判らない。……えろいことになってなんかないよね?


『さあガンタダ十六世そのまま背後に回って――ああ!? これは禁断の!』


 むにゅっ。


「ぎょふぇー!?」


 突如胸を襲うむにゅりとした衝撃に女子力の低い悲鳴が飛び出た。揉まれた胸はオイルの効果で手の中から滑り出て、ぱるんと小さく震える。


『胸アタックだ! 禁断の胸アタックがさぁくれぇつぅー! 故意なのか事故なのか!? いずれにしても後でちょっと家族会議が必要だわ父上! それと変態紳士の皆様はゴミを投げ込まないで! 掃除の人が大変なのよー!』


 さっきまでは歓声に沸いていた客席からのブーイングが凄い。「代われー!」とか「エロキングー!」とか「爆発しろー!」とか好き勝手言ってるようだ。……これで無礼討ちとかにならない辺り、この王様はきっと寛容なんだろう。あと何だかんだで国民も王様を愛しているらしい。

 それにしても今の感触は、この前ミザリーやルナに胸を触られた時以上に危険な気配がしたよ。戦闘中でお風呂の時とは違う脳内麻薬が出てるからなのか男性に揉まれたせいなのかは判らないが……正直なところ不快感というか危機感というか“急所”感が大きかった。

 エロDVDとかだと胸を揉まれて最初は嫌がっていても段々気持ちよくなっていくような展開があるけれど、現実はそんな甘いものじゃないというのがよく分かるよ……あの中で何割ぐらいが演技なんだろうか。気になるけど真実は知りたくないな。


 それはともかく、僕は胸を腕で庇うようにしてヌルヌルとお尻を滑らせて距離を置く。……ちょっと待て僕これ明らかに女子の仕草だ。


「くくく、戦士たるもの弱点は遠慮せずに突くのが当然の礼儀! 余計な下心など無い!」


『――と、被告は言っているけど折角みんな居るから国民審査にかけてみるわ! ギルティ、オア、ノットギルティ?』


「「「有罪(ギルティ)!!!! 有罪(ギルティ)!!!!」」」


 観客――国民の皆さんの心が一つになった。かと言ってそれで僕がピンチから脱出できる手立てにはならず……


「く、来るなっ!」


 プールの端まで追い詰められた僕に、王様はゆっくりとした足取りで近寄ってくる。万事休すか!?

 ちらりと審判も兼任しているマリーナ姫の様子を(うかが)っても、ノリノリで実況を続けている。どうやら胸アタックは反則を取るべき案件にはならないらしい。きっとその方が女の子同士の試合で国民(へんたいしんし)が幸せになれるからだろう。


「……と言う事は!?」


 一つ天啓が浮かぶ。イチかバチかだがやってみる価値はありそう!


『おおっとぉ! さっきまで目が死んでたユウ選手の眼差しに覇気が戻ったぁ! 起死回生の策有りか!? ここは職権乱用でも、同じ女として彼女を応援したいわ!』


「ふっ、そう来なくてはな。どうやってこの状況を覆すか楽しみに――」


 言い終わる前に、僕は腹這いになってプールを滑り王様の股下を潜る! 更にそのついでに両腕を伸ばし王様の脚を引っ掛ける!


「おおう!?」


『ああっとぉ! ユウ選手ガンタダ十六世の足を引っ掛けて転ばしたー!』


 起き上がる暇は無い! 僕は仰向けになるようにその場で半回転だけすると王様の両膝の辺りを両脇にガッチリホールド!

 オイルでぬめるが手だけじゃなく腕全体で抱え込むことで抜けないように固定する!

 同時に王様の股間の辺りに僕の踵を添える! 胸が反則取られないのならゴールデンボールだってアリのはずだ!


「ぬわっ!? そ、そこは! あふう!」


「喰らええええええ!!」


 王様が悶えるがここからが本番! 踵の辺りを高速で踏むように振動させ、衝撃を伝達させる!

 いわゆる「電気アンマ」という奴だが【筋力】255の振幅と【敏捷】255の振動数を掛け合わせたものが威力になるなら、今の僕の電マ威力は六万以上だ! もはや電マというレベルではなく、工事現場の振動ドリルもかくやという破壊力で王様を襲う!


『おおっとぉ! これは禁断の“魔道アンマ”かあー!? ユウ選手、可愛い顔して容赦が無い! だがこれは誰が見ても自業自得ー!』


「ぬわっ!」


 そっか。こっちの世界には電気(・・)アンマなる器具は存在しないのか。それはさておき、ちょっとでも隙を見せたらすぐに振りほどいて反撃されそうで恐い! 僕は振動数を更に上げ、限界まで高め……


「ぬ、ぬわーーーーっっ!!」


 遂に、王様の断末魔の悲鳴がコロシアムに響き渡る!


『ああっとぅ! ガンタダ十六世、とうとう力尽きたかー!? ……動かない! 顔のあちこちから汁を出して果てている! これは戦闘続行不能か!』


 試合終了を告げるドラが、高らかに何度も打ち鳴らされる。観客席から大歓声が降り注ぐ中、荒い息を整えつつ僕は立ち上がった。こう、身体中からオイルが滴るのが我ながらちょっとえろい。


「……ふぅ、何とか勝てたかな」


『ユウ選手、勝利! 体格差、経験差を情け容赦の無さで覆したー! あの攻めは普通思いつかない! 思いついたとしても実行する気にならない! これが勇者の本気か!?』


 うん。僕も元男じゃなかったらきっとこんな勝ち方は出来なかっただろう。……というかそもそも男のままだったらこんな試合せずに普通に殺人虎ボコって終了だったよね?






 尚、あの後行われたマリーナ姫との模擬戦の結果は、アヤメが三勝二敗、僕が○勝五敗だった。一応無様な負け方はせず善戦したつもりだが、やはり威力よりも有効打を正しく当てる種類の勝負だと彼女みたいな熟練者相手には一歩及ばない。


「アヤメはやっぱり実戦に身を置いてるだけあって成長が早いわねー。それとユウは身体能力は文句なしに凄いけど技術がついてこないタイプ?」


「まだ成長途上。ってことにしといて」


「うふふ、じゃあまたの挑戦を待ってるわよ」


 ……何がこの(ほし)の住民をそんなに戦闘に駆り立てるんだろう。幼少期に受けた心の傷でもあるんだろうか。

 そんな事をとりとめ無く考えつつも、目当ての土のオーブ――黄金の光を放つ宝珠――を褒賞に頂戴できた僕らは翌朝にデルコンドラ城を発つことになる。

 次の目的地は、ドラドームの街を経由していよいよローザ姫の囚われている『牢獄の塔』へ。物語もクライマックスが近いのを肌で感じるのだった。






■――――――――――――――――――――――――――――――――――


なぜなに『ラビドラ』!


第12回:覚えてるけどなかなか使う機会の無いスキル解説



≪聖十字槍≫

 槍スキル。聖騎士専用。消費MP20

 敵単体から左右と敵後列1体とに拡散し<刺>属性で攻撃する。最大で合計4体に攻撃可能。

 ターゲットに選んだ単体へのダメージは通常攻撃の2倍、左右・後列への拡散分のダメージは通常攻撃と同等。

 遠隔攻撃扱いとなり後列相手でもダメージが減衰しない。

 聖騎士最強の攻撃技であるが、元の攻撃力があまり高くないのと職業特性上防御や回復で手番を取られ易いのとでなかなか使う機会に恵まれない。


≪賢人の悟り≫

 攻撃補助スキル。賢者専用。消費MP2

 5ターンの間、自分の呪文威力(攻撃呪文のダメージや回復呪文の回復量)が1.2倍になり、呪文の消費MPが半分になる。

 十分強力なスキルであるが、職業特性上補助や回復で手一杯なことが多くなかなかこのスキルにまで手が回らない。

 特にボス戦は1ターン目に敵の攻撃属性に合わせた防御呪文が、2ターン目以降は緊急で回復が必要なことが多いため、後回しになりがち。



――――――――――――――――――――――――――――――――――■



次話は4月16日夜に投稿予定です。ローザ姫救出編開始です。



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