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クエスト13:隠れ里でエルフと握手! 前編

 伝説の妖精国があるという湖へ向かう途中、僕達は一旦道を外れて深い森の中に入った。

 森の外からは見えなく、ここに里があると最初から知らなければ行き着けないような場所、そこに用事があったのだ。


 エルフとモンスター達の名も無き隠れ里。モンスターと言っても大人しい者達ばかりで、里に居るエルフやホビット、それに少数の人間達とちゃんと共存している。

 ここに、火のオーブを持つという元魔王軍の将軍、闇騎士(ダークナイト)ピカレス氏がひっそりと暮らしているのだと言う。


「こんな所に、村があるなんて……」


 シンディ達がもの珍しそうに辺りを見渡す。森の中を切り拓いて作られた広場を簡単な木の柵で囲み、木板で組んで作ったような簡素な家が立ち並ぶのどかな場所だ。

 ただ、里の中央にそびえる白亜の建物――塔と言うにはやや低い三階建てぐらいの縦長の家――が異彩を放っていた。


「……こうやって見ると、あれ、隠す気全く無いよなー」


 この里の中では、ミザリーという名のエルフの少女が欲深い人間に見つからないよう匿われているのだが、木造の平屋が立ち並ぶ中に一軒だけ真っ白い石造りの三階建ての建築物があれば普通に怪しい。

 言うまでも無く彼女はあの建物の最上階に住んでいる。


「よう、珍しいなこの村に人間が入って来るなんて。道に迷いでもしたか?」


 道すがら、斧を抱えた木こりっぽいホビットのおじさんとすれ違った。この世界でのホビットは、童話の絵本に出てくるようなずんぐりむっくりした髭のおじさんという見た目をしている。


「実は、僕は旅の勇者なんだけど、ここに火のオーブがあると噂で聞いたもので……」


 下手に嘘をつくとボロが出るのでここは正直に話すことにした。特にミザリー狙いと誤解されると一気に里の人たちの反応が硬化してしまう。

 それだけミザリーはこの里で大事にされているのだ。


「そうか、火のオーブ……ねぇ。ミザリーちゃんの“ルビー”目当てじゃなけりゃ何だっていいや」


 言葉を区切ると、ホビットおじさんの目が鋭さを増した。


「……だが、もしミザリーちゃんに手を出したらその時は若旦那に消されるから気をつけな。ま、本当に勇者ならそんな蛮行に手を染めたりしないだろうけどな」


 がははと笑うと、言いたいことだけ言ってホビットおじさんは森の方に歩いて行った。

 ちょっとの会話で色々情報が出てきたが、ゲームの時の名残りがあるのか街や村の住民は大抵喋りたがり屋なのだ。


「ヒヒーン。今ならピカレス様とミザリーちゃんはあっちの畑の方に居るぜ」


 人語を喋る八本足の馬にも話を聞きつつ、この隠れ里での重要人物二人に会いに行く。


「……あれが、若旦那、なの……?」


「随分シュールねー……」


闇騎士(ダークナイト)という二つ名には、ぴったりのお姿ではありますが……」


 畑に着くと、真っ黒く禍々しい全身鎧に身を包んだ騎士が(くわ)を手に畑仕事をしていた。近くの木陰ではピンクの髪に白いドレスで尖った耳をした儚げな少女がバスケットからお弁当らしきものを出して食事の用意をしているようだ。


 そう。この農作業中のフルプレートの人物こそが、僕達が来た目的の闇騎士(ダークナイト)ピカレス氏本人である。

 ピカレス氏は元・魔王軍の将軍で、炎の魔剣と漆黒の鎧で武装し凄まじい剣技で戦場を支配する絶対的強者として君臨していたという。

 だがミザリーと出会ったのをきっかけに、「護りたいものができた……」と言い残して魔王軍を引退、この隠れ里で穏やかな暮らしを望んでいるのだ。

 今は人間と魔王軍との戦いにも興味を示さないが、いずれミザリーに危害が及ぶ時は再び剣を振るい、憤怒と復讐の炎を燃やして恐怖と絶望を振り撒くであろう。

 前にも話したかも知れないけど、ピカレス氏はそのイケメンな外見や生き様、そしてシナリオの悲劇性から、魔王軍でも邪神官ゲドと人気を二分するキャラクターで、悪役人気投票とかやると男性票はゲドに、女性票はピカレス氏に流れる傾向にある。おかげで魔王デスドラースの空気化が止まらない。


 そしてエルフの少女ミザリー。

 彼女は体内で宝石(ルビー)を精製するという特殊な体質で、その宝石を狙う欲深い人間達にいつも狙われていた。

 何しろ彼女を攫えば、タダで貴重なルビーが幾らでも手に入るのだ。彼女は幾度もいわれなき悪意・害意に晒され、その度に悲しみの涙と血を流してきたのだ。

 そんな中、ピカレス氏に出会い、この隠れ里に匿われることとなる。

 出入り口の見えない砦のようなあの白い建物での生活は若干不便そうだが、それでもピカレス氏も里の人々も皆優しくしてくれ、今は笑顔で暮らしているようだ。


「人間か――この里の者ではないな」


 こちらに気付いた闇騎士(ダークナイト)ピカレス氏は、手に持った鍬をこちらにびしっと突きつけつつ、厳かさを備えたイケメンボイスで問いかけてきた。

 後ろでルナが笑いを堪えている気配がするのを背中に隠しつつ、僕は敵意が無いことを示すように両手を広げて答える。


「僕はユウ。旅の勇者で今は六つのオーブを集めているんだ」


「勇者……だと? ふん、随分イメージと違うな」


 話しづらいのか、ピカレス氏はフルフェイスのヘルメットを外す。白い髪に褐色の肌の怜悧な素顔が現れた。切れ長の目には闇のような黒い瞳、こちらの真意を探るように鋭く光っている。


「うん。よく言われるよ」


 苦笑して返す。未だにエプロンドレス姿なのは何かの呪いなんじゃないかとさえ思うんだ。このまま勇者専用装備の“聖なる鎧”を入手するまでこの格好かも知れない。

 ちなみに先日シンディに新しい防具、鋼の鎧を買ったが、それで不要になった鉄の胸当てがお下がりで回ってくることはなかった。胸のサイズが違いすぎて合わんかったんや……


「さて、オーブの事だが、誰に聞いたかは知らぬが確かに我はその一つを持っている。だがこのオーブは我の力の源、渡すことはできぬ」


 ピカレス氏の言葉はそっけない。


「我の望みはここでミザリーと穏やかに暮らすこと、それだけだ。人間が滅びようが魔王が倒されようが別にどうでも良い。だが我らの暮らしを脅かす奴らには一切容赦はせぬぞ」


 そう。厄介なことに火のオーブを持つ彼は勇者に協力する義理も義務も無いのだ。なので「世界の為に!」という魔法の言葉で税金のように徴収することもできない。


「うん、わかったよ」


 それであっさりと僕が引くのだが、ピカレス氏も仲間達三人も、「え?」という顔をした。


「勿論タダで貰おうなんて思ってないし、現状で僕達が差し出せるものも無さそうだし、状況が変わったらまた相談に来ることにするよ」


 元々ゲームでも火のオーブは初対面で貰えるものではない。今日は顔繋ぎと言うか、ゲーム的に言うところのフラグ立てだけでここの用事を終わらせる予定だったんだ。


「今日はお邪魔したね。あ、それと、あの白亜の塔はいかにも大事なもの護ってますって感じでバレバレだからもう少し地味にした方が良いと思うよ」


 一応アドバイスもしておくことにした。ゲームではこの後、ミザリーが攫われるイベントが発生してしまう予定だが、それから一連の流れが悲しい鬱イベントなので防げるなら防ぎたいのが人情だ。


「む、そんなに目立つか?」


 ……自覚無いのかよこの人。なんかこう、何でも金で解決しようとして庶民のヒロインにドン引きされる金持ちのボンボン系と同じような感じがするなあ。


「あ、あの、お待ち下さい!」


 僕達がその場から離れようとしたところ、ミザリーが引き止めてきた。


「えっと、もし良かったら、今日は私の部屋に泊まっていきませんか? 勇者様の旅のお話を、色々聞いてみたいんです」


「ミザリー!? しかし……」


「ピカレス様……大丈夫、この方達はとても澄んだ目をしておいでです。それに、男性の方はすぐにピカレス様が追い払ってしまって話すことさえ許してくれないですから、せめて女の子のお友達ぐらい作らせて頂きたいのです……」


 おねだりするような上目遣い。あれで堕ちない男の人は殆どいないだろう。うむ、可愛い顔してミザリーさんマジ悪女。


「ぐむむ……」


 悩みだすピカレス氏。この場面はゲーム時代では男勇者オンリーだったので問答無用で追い払われてたのだが、ガールズパーティだとこういう展開もあるのか。


「よかろう。ならば決闘だ! 貴様達がミザリーに相応しいかどうか見極めてやる!」


 なんでやねん、過保護なお父さんかよ。僕がもうちょっと穏便に話を進めようと口を開いた時、アヤメが超嬉しそうに「喜んでお受けいたしますっ!」と即答しやがった。

 ……うむ、可愛い顔してアヤメさんマジ修羅。






「……えっと、強敵と死合って戦いの経験を積み重ね強くなることがわたくし達には必要だと思ったんです……」


「うんうん。誰に向けての言い訳かは知らないけどアヤメのことはみんなよく分かってるから気にしないで良いよ」


 目を逸らして取ってつけたような事を言うアヤメの頭をぽふぽふと撫でつつ、決闘の準備を進める。あと死合いじゃなくて試合だよね? ……だよね?

 里の中だと色々目立つし流れ弾が飛んで危ないので、森に少し入った所にある広場に僕達は移動していた。

 なおミザリーは、里の外は危険とのことで先にあの白亜の塔へ送ってきている。

 広場の中央で僕達と相対するピカレス氏は、漆黒のフルプレートに身を包み、身の丈程ある巨大な両手剣を手にしていた。剣の柄に赤い宝珠が埋め込まれていて、あれがきっと火のオーブだろう。


「ちょっと待て貴様、その棍棒でこの我と闘おうと言うのか? 甘く見てると本気で殺すぞ」


 ……あ、やっぱり僕の装備を突っ込まれた。そう、今の僕は武器として棍棒を装備している状態だ。なんだかんだで使用頻度高いなこの王様印の棍棒。


「あ、いや、別に馬鹿にしてるとかじゃなくて、ピカレス氏の武具が勇者の最強装備並の威力と硬度を兼ね備えてるのはちゃんと知ってるから、鋼の剣で刃こぼれ気にしながら戦うよりはこっちの方が有利と判断したまでだよ」


 僕の言葉に嘘は無い。鋼の剣だと装備のグレード的に打ち負けるんだ。アヤメのドラゴンバスターやシンディのホーリースピア(最近買った)もかなり質の高い武器であるが戦闘が長引けば少しずつ劣化しかねない。この戦いが終わったら武器の手入れを入念にやっておかないと。

 で、棍棒みたいな殴り武器は刃こぼれしないから気兼ねなく殴れるし値段が安いから破損しても惜しくない、そういうことだ。


「ふむ、まあ良いだろう。闘いの中で見極めるとしようぞ」


 どうやら彼も剣を合わせる事で相手を理解しようとする生粋の武人のようだ。


「それより、甘く見るって話なら一対四で闘おうとしてるそっちはどうなのさ」


「我は昔に魔王軍で鍛えているからな。単騎(ソロ)で複数を相手取るのは得意だ」


 まあ中ボスってそういうところあるけど、やっぱり時々思うんだ。四対一で囲んで闘うのはフェアじゃないんじゃないかなって。


「では、始めるぞ」


 そう告げるとピカレス氏は手に持ったメダル――金銭的価値は無いが一部のコレクター垂涎の的のあのメダル――を指で弾き上げる。

 くるくると回るメダルが地面に接した瞬間、ピカレス氏が動いた!


 ――速い!?


 とてもフルプレートを着ているとは思えない動きで一瞬のうちに僕との間合いを詰め、斬り上げをフェイントに使って軌道を即座に戻す斬り下ろし!

 戦士系スキル、≪疾風斬≫か!

 だけど――


「なっ!?」


 微動だにせず、彼の剣を身体で受ける僕に驚愕の声を上げるピカレス氏。がぎんと硬い音と共に、僕の肩の骨が強烈な斬り下ろしを受け止める!

 元々付け焼刃の技術で彼に対抗できるとは思っていないので、あえて動かずフェイントも気にしないで攻撃を受けて活路を見出す戦法だ!


「それっ!」


 攻撃の直後の隙を狙う! テニスで言うバックハンドのようなコンパクトなスイングで、棍棒をがら空きの胴に叩き込んだ。重い音と衝撃とを残してピカレス氏の身体が後方に吹っ飛ぶ。彼は空中でバランスを取って見事に着地するが、


「――≪雷光鎚≫!」


 間合いが開いた隙を見逃さず、勇者最強の攻撃呪文を叩き込んだ。激しい稲妻がピカレス氏を直撃する!


「ぐっ……! 貴様、本当に人間か? 人体を斬った手応えがせぬぞ!」


 そうは言われても、切られた肩口はちゃんと痛いし血も滲んでる。ただこの前のキングマーマンの≪魔神斬≫に比べると軽いだけで、このピカレス氏も後半の中ボスなだけあって攻撃力は決して低くない。


「ふふっ、ユウさんを人間だと思ってると手痛いしっぺ返しを食らいますよ。最初にお会いした時のわたくしのように……」


「……まだ気にしてたのか」


 腕相撲の件、僕はすっかり忘れてたけど彼女の中ではまだ爪痕を残しているらしい。ともあれ過去の事より目の前の決闘を片付けないと。


「とりあえず、今のでこっちの実力は示したって事で駄目かな……?」


 正直なところ、ここで勝っても火のオーブが貰える訳じゃなさそうなのでお互い大怪我しないうちに終われるならそれが一番なんだけど……


「フン、今のはほんの様子見、これくらいで我の実力を測った気になるなよ小娘!」


「そうですよ! 今からが良いところなんですから!」


 予想通り、ピカレス氏とアヤメは続ける気満々のようだ。再び、身軽な動きでこちらとの間合いを詰めてくるピカレス氏。


 それからは、高度な技と技のぶつかり合いだった。

 ピカレス氏の≪薙ぎ払い≫をシンディが盾で体当たりするように受け止め、技の起点を封じる。

 アヤメの≪二段斬り≫に、ピカレス氏は片方を剣で弾きもう片方をサイドステップで回避する。

 ルナが唱えた≪爆炎≫の呪文の威力を、黒く輝く鎧の特殊効果で半減する。

 僕は隙を突いて棍棒で殴る。

 ピカレス氏の強烈な≪魔神斬≫をアヤメが柳のようにしなやかな剣捌きで受け流す。

 着地地点を狙ったシンディの槍の一閃を、ピカレス氏はあえて腕で受けて急所への痛撃を避ける。

 ルナの紡ぐ堅牢な防御呪文と回復呪文を前に、ピカレス氏が攻めあぐねる。

 お返しとばかりにアヤメが放った≪魔神斬≫はしかしあっさりと躱され、また地面を真っ二つに叩き斬る。

 僕は隙を突いて棍棒で殴る。


 ……なんかこう、僕一人だけ真面目にやってないように見えそうだけど、ダメージは僕が一番叩き出してるから許して欲しい。

 戦況を単純化するなら、ピカレス氏と他三人との攻防が拮抗してる中、僕だけが一方的にダメージを与えてるような構図ということだ。


「我にこの技を使わせるとはなっ!」


 こちらの優位が確定しかけた頃、ピカレス氏はこちらとの間合いを大きく取ると、闘気を一層大きく膨らます。

 それに呼応するように、彼の持つ魔剣が炎の渦を噴き上げた。

 戦王スキル≪前傾の構え≫だ。彼がこれを使うということは――


「いよいよ来るか、“憤怒砲”が」


 僕の背筋を嫌な汗が伝う。ピカレス氏にはまだ、数々の『ラビドラ』プレイヤーを勝利の予感から絶望へと叩き落した一発逆転の大技が残されているのだ。

 憤怒砲――正確には≪憤怒獄炎破≫という戦王専用スキル。敵全体に<炎>属性のダメージを与え、しかもそのダメージに「最大HP-現HP」の差分を追加する恐るべき攻撃だ。

 当然HPの低い瀕死状態で使えば絶大な威力を発揮する訳で、このスキルを最大威力でかっ飛ばすことに魅せられし者共が古今、HPを低く保とうとしては流れ弾で死ぬという悲喜劇――通称「全裸切腹」を繰り返してきた。

 同じ戦王のアヤメはまだこのスキルを使えないが、もし覚えたらどんな戦闘スタイルを目指すのか今から恐い。


 しかもピカレス氏のような中ボスポジションの敵はHPも格段に多いのが常なので、僕もゲームの時は初対戦時にこれをまともに食らって前衛が二千超え、後衛が千超えのダメージを受けあっけなく全滅した。普通に育成した場合この時点での仲間のHPが二百とか三百程度だったから正直もう笑うしかない。

 ……ゲームが現実となったこの状況だと、気絶を通り越して骨も残らず灰になりそうで恐い。レベル99の僕でもまず耐えられない。戦闘ならまだしも決闘で使って良いスキルじゃないと思う。


 だけど、『ラビドラ』のゲームバランスは意外とちゃんとしていて、ピカレス氏がこのスキルを使う際には予備動作がきちんと設定されている。今の≪前傾の構え≫がそれだ。

 突き詰めるとただの初見殺しに過ぎず、来るのが判っていれば対処することも容易い。


 対処案その1、ダメージコントロールの基本、盾スキルで≪庇う≫。

 但し庇った側は死ぬ。


 対処案その2、<炎>属性ダメージなので≪耐熱≫の呪文を張り後衛で防御する。

 ≪耐熱≫の効果と後列補正と防御時の軽減効果でダメージを八分の一まで減らせて生存率が上がる。

 但し前衛は死ぬ。


 対処案その3、≪加速≫の呪文で【敏捷】を上げ、回避率補正に期待する。

 ただ、【敏捷】が上がったところで得られる回避率は10%から20%がせいぜいなので、あまり劇的な効果は期待できない。

 つまり期待値で四人中三人ぐらい死ぬ。


 ……うん。いずれも誰かに犠牲を強いたり不確実性が高かったりする、ゲームの中ならともかく現実では使いたくない手段だ。

 仕方が無い。美しさに欠けるけど確実な手段に頼ろう。


「往くぞ、受けてみよっ!!」


 ピカレス氏が吼え声とともに剣を振るう。

 動けない(・・・・)僕達を押し包むように、白く輝く程の高温の炎が暴力的な光と熱を撒き散らしながら駆け抜けた。


 光と熱が収まった頃、

 森の中は、酷い状況になっていた。

 辺りの地面はぐつぐつと沸騰し、石や岩は赤く溶け、憤怒の炎が通過した跡は樹木が全て炭化して崩れ落ち、真っ直ぐな道を作り出していたのだ。

 そんな光景を、鋼鉄の塊(・・・・)と化した僕らはただ呆然と見つめる。


 そう。来るタイミングが明確なら勇者呪文≪鋼鉄塊≫で防げるよね、と言う事だ。これが対処案その4。

 やがて、ゲーム内時計で言うところの3ターン相当が経過し、僕達は無傷なまま元の生身に戻る。


「……今のも防ぐのか……」


 疲れきった声でピカレス氏が呻く。大技の反動というのもあるのだろうが、自分の持つ最強の攻撃を完璧に防がれた時の精神ダメージは結構来るものがあるからなあ。


「まあ、面白みの無い手段でゴメンとは思うけど、アレは防御しておかないとヤバかったし……それで、そろそろ良い頃合だと思うんだけどどうかな?」


 今ので勝敗もあらかた決したと思うし、これ以上強力スキルのぶつけ合いを続けると誰か大怪我しそうで恐い。


「……良いだろう。今日のところは引き分けということにしておいてやる。貴様らのミザリーとの交友を認めよう」


 ピカレス氏も結構負けず嫌いな性格のようだ。対抗しても面倒臭いことになりそうだったので僕は笑顔で「ありがとう」と受け流すに留めておいた。






■――――――――――――――――――――――――――――――――――


なぜなに『ラビドラ』!


第11回:今回登場のスキル解説



≪疾風斬≫

 剣・槍スキル。戦士、戦王、魔剣士、聖騎士が修得。消費MP3

 敵1体に近接攻撃を行う。ダメージは通常攻撃と同等。

 攻撃時の素早さと命中率にプラス補正がつく。

 基本的には「ターンのほぼ最初にほぼ100%当たる通常攻撃を行う」だけのスキル。雑魚戦で敵が動くより早く仕留めたい時に便利。


≪憤怒獄炎破≫

 近接攻撃スキル。戦王専用。消費MP30

 敵全体に近接攻撃を行い、<炎>属性ダメージを与える。その際のダメージに「自分の最大HP-現HP」を追加する。

 攻撃補助スキル等の影響でダメージに倍率がある場合は、先に倍率を掛けて最後に追加分を足す。

 戦王のピーキーなスタイルを特徴付けるスキルその3。

 HPが低ければ低いほど威力が上がる特性上、最大威力を狙ってそのまま事故死する戦王が後を絶たない。特に≪前傾の構え≫≪灼血刃≫で準備が整った状態からの流れ弾で倒れるのは通称「全裸切腹」と呼ばれ一つの風物詩になっている。

 また、さりげなく<炎>属性になる点に注意。<炎>属性には耐性を持つ敵も多いのでこれ一つで無双できる訳ではない。


≪加速≫

 攻撃補助呪文スキル。魔法使い、魔剣士、賢者が修得。消費MP4

 5ターンの間、味方全体の【敏捷】を2倍にする。それに伴い行動速度や回避率がアップする。

 また、命中率に+20%程、クリティカル発生率(※)に+2%程の補正がつく模様。≪魔神斬≫の命中率が2倍になるので地味に便利。

 他の攻撃補助スキルとの重ねがけはできず、後からかけたものが有効になる。


 (※元のクリティカル率は、通常1%、格闘家ならレベル10毎に+1%されて最大10%、が目安)


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