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クエスト12:特訓です!!

 ミラクルスカートという防具がある。

 鎧扱いの防具で、名前から当然予想される通り女性専用防具であり、防御力・魔法防御ともに優秀な性能を誇るのだ。

 先日、水のオーブを取りに行った先の洞窟で手に入れたのだが、その形状が形状だけに誰も引き取らず、荷物袋の肥やしになっていた曰くつきの防具。

 そう。ソレは、ピンクのフリフリヒラヒラなミニスカートという、この上なくスイーティーな物体だった。


 シンディ曰く、「おねーさんの歳じゃあちょっとキツイわあ」

 アヤメ曰く、「そんな短いの、無理です! 褌がはみ出します!」

 ルナ曰く、「……ピンク色は頭悪そうで、賢者たる私には相応しくないなの……」


 勿論僕も拒否した訳で、このまま店売りに回して次の装備の資金の足しにしようかと考えていた矢先――


「今日はコレを使って、ユウちゃんの特訓をしましょう」


 そのミラクルスカートをシンディがぴらんと広げて、とんでもない事を言い出したのだ。






 元々、今日はあいにくの雨とシンディの体調不良の日とが重なったので、冒険はお休みにして休養日ということになっていた。

 雨さえ降っていなければ町で情報収集や買い物をしたり元気な三人で町の近くのモンスターと戦って経験を積んだりができたのだが、この悪天候の中を出歩く気にもなれない。

 なので皆でごろごろと、非生産的な一日を何事も無く終える予定だったのであるが……


「なんかこう……足がスースーする」


 いつものエプロンとジャンパースカートを取り上げられ、今の僕の格好は真っ白いブラウスにピンクのミニスカートという、これが自分じゃなければ割と好みだったのにと悩ましい格好であった。


「ふふ、生足の健康的なラインが若さを感じるわね。大丈夫、可愛い可愛い」


「あと、防御力が上がってるのに防御力が下がってる感じがする」


 何を言ってるかわからないと思うが、防具としての性能だけだと旅人の服より遥かに高いのに中身の可視性は旅人の服の方が堅牢であったという話だ。ナチュラルボーン女子はこんな装備でいつも歩いてたのかと思うと「女子すげー」「女子つえー」との思いを新たにせざるをえない。

 ある意味、これは勇者専用装備である。


「それで、特訓って何をするんだ?」


 最初の話に戻って、シンディに聞く。


「勿論、スカートでの足捌きの特訓よ。ユウちゃん、いつもロングスカートだからって油断して歩き方とか全然なってないんだもん」


 そういうもんなのか、と僕は不思議に思うのだが、アヤメやルナも納得したような顔だ。


「それで、今日は一日そのスカートで歩いたり座ったり階段を上り下りしたりして、女の子らしい仕草を身に着けて貰うわよ」


「……なるほど。それでスカートの中が見えたらアウト、なのね……」


 なんだか嬉しそうな声音のシンディに続いて、ルナの眼鏡がきらーんと光る。なんでこの二人はこんなに乗り気なんだろうか。


「んー、見えても減るもんじゃないし僕はそんなに気にしないのになあ」


 ぴっちりしたパンツならまだしも、ドロワースって短パンとかトランクスみたいなものだし。でもタダ見されるとちょっとムカっとくるのは微妙な男心か。


「減るわよ。【女子力】とか」


 それ一番僕に必要のない能力値だよね!?


「ちなみにアウトになるとどうなるんですか?」


 アヤメの問いにルナはにゅふ、と不気味に笑うと、


「……アウトになったら(でん)部を棍棒でひっ(ぱた)く、通称“ケツ棍棒”が業界標準、なの……」


「女の子がケツなんて下品な単語使っちゃいけません」


「……ひひゃい、ひひゃい……」


 ぎりりとルナのほっぺをつねりあげるシンディ。


「まあ、それじゃあ早速レベル1の技から。まずは鏡の前でくるんって一回転してみて?」


 近くの椅子に座り直して暖かそうな膝掛けをかけ観戦モードに入ると、シンディは笑顔で僕に促してきた。

 言われるままにくるっとその場で一回転すると、スカートがふわりと広がるのがわかる。


「はいアウトー」


「ええっ!?」


「……ででーん、なの……」


 シンディの宣告に続くように効果音付きでルナの振るった棍棒――旅立ちの時に王様に貰った思い出の一品――が僕のお尻をぺちん、と討つ。ルナの腕力と僕の防御力の差でダメージには程遠いがこれは結構屈辱だな……


「いやちょっと待って軽すぎだろこのスカート!?」


「それを思い通りにコントロールするのが【女子力】なのよ」


「……勇者殿の場合、【敏捷】の数値が【女子力】に比べて格段に高すぎるから肉体の動くスピードに衣装がついていってない可能性があるの……」


 レベル上げの弊害か……というか、女子力ってどうやって上げるんだよ。……いや、やっぱり知らなくていいや。






 あれから、「レベル1、可愛く回る」「レベル2、エレガントに歩く」「レベル3、お淑やかに座る」を段階的にクリアした僕は、部屋の外に出て一階と二階を繋ぐ階段を往復していた。「レベル4、華麗に階段を上り下り」の特訓だ。

 ちなみにシンディ達三人は、一回の酒場兼食堂スペースで寛いでお菓子をつまみながらこちらを見上げてきている。


「これ、歩き方とかに関係なく下から見たら丸見えだよね?」


「んー、スカートをちゃんと押さえるのに気を配ればあとはなるべく足を大股に動かさず歩くことでいけるわよ。膝を揃えて膝下だけ使って歩くイメージが掴めればベストよね」


「そこまでするものなの……?」


 なんか色々知りたくなかった方向に奥が深い。微妙な表情をしているとアヤメが笑顔でアドバイスしてきた。


「すり足の応用で、親指の付け根に力を込めて反動で跳べば、足を動かさずとも移動できますよ」


「……それができるのは、アヤメと同じ種族の生き物だけだよね」


「遂に人間扱いされなくなりました!?」


「……戦王殿が、三度の風呂よりも飯と殴り合いが好きな戦闘種族なのは今更だから良いとして……」


「どんだけですか!? ルナさんの中のわたくしって!?」


 ガーン! と擬音が聞こえそうなコミカル顔でアヤメが嘆いた。


「ま、まあ、その内容で並べるなら、三度の飯よりも風呂と殴り合いが好き、ぐらいじゃないかな」


「ううー」


 明確に否定が返ってこなかったので、だいたいあってるっぽい。


「……良いとして、私が言いたいのは、この手の件に関しては勇者殿も常識の遥か向こう側だから同類項、なの……」


「「ええー」」


 流石に嫌そうな顔で不満の声をあげる僕。アヤメも何故か不満げな顔で嫌そうな声を出していた。それを見てシンディがぷっと吹き出す。


「まあそろそろユウちゃんも疲れてきただろうし、最後にレベル5の試験も一緒にやっちゃって終わりにしよっか。アヤメちゃん、準備お願いね」


 ようやく最後かあ。なんか素振りより疲れた気がするぞ。


「じゃ、ユウちゃん最後に階段をもう一往復ね」


「はーい」


 言われるままにスカートの後ろを押さえつつ、軽いステップで階段を上り、踊り場でくるんと半回転すると――


「参ります!」


 いきなりアヤメが抜剣して僕の方に≪真空波≫を放ってきた!?


「なっ! ちょ!?」


 慌てて僕も腰の鋼の剣を抜き、殺気を帯びた風の刃を打ち据える!

 僕の斬撃で霧散した≪真空波≫は、そのままただの突風に変わり、狭い階段を吹き抜けた。

 ばさばさと下半身に風が当たる感触。


「うわっ!?」


 スカートが凄い勢いで捲れていた。慌てて押さえるのと同時に、ルナの眼鏡が光る。


「……すごい。おへそまで見えた。なの……」


 こういう時に何て言うべきか僕は知ってる。あえて胸を張って傲然と言葉を告げることにした。


「見せてんのよ」


「……勇者殿、それじゃあ痴女、なの……」


「そうよ。で、今のがレベル5で咄嗟の悪戯な風に対処する訓練なんだけど、女の子なら剣を抜くより先にまずスカートを守らないと」


「それスカートは守れても命が守れないよ!?」


 まあアヤメの攻撃一回で僕が即死することはないが、それでも最近の彼女の攻撃力上昇具合は凄まじく、僕でも咄嗟に身の危険を感じてしまうのだ。


「……ともあれ、降りてきたら最後のケ……臀部棍棒なの……」


「普通に尻棍棒で良いじゃん。というか何がそんなにルナを尻棍棒に駆り立てるんだよ」


「……それは、私が幼少期に受けた心の傷に関係してる、なの……」


 何故か唐突に遠い目をするルナ。


「……そう。あれは七年前……私がまだ悟りを開く前の小五ロリだった頃……」


「え!? ここで過去編に突入!? 尻棍棒のどこにそんなスイッチが!?」


「……貧しい寒村に生まれた私は……小さい頃から身体も弱くて……頭は格段に良かったけど、村では私の頭脳を存分に振るえるようなクリエイティブかつインテリジェンスなお仕事もなく……口減らしに売られかけた、なの……」


 どうやらルナにも結構壮絶な過去があったらしい。僕は下に降りてテーブルにつき、真面目に聞くことにした。


「……そこで運良く通りかかった賢者殿に拾われて、『寺院』に入ることにしたの……その時の賢者殿が私の師匠殿、なの……」


「そうだったのか……」


「……私は、要らない子なのが嫌だったの……私でも何か役に立てる事を証明したかったの……師匠殿に認められたかった……兄弟子殿をギャフンと言わせたかった……」


 訥々と語るルナの目の端に、涙がにじむ。


「……だから、勇者殿と一緒に旅して、魔王を倒せば、きっと師匠殿は認めてくれる……役立たずなんかじゃないって、自分に言ってあげられるの……」


「それで、あの時もあっさりと僕の仲間になってくれたんだな……」


「……それと、兄弟子殿は世界を救うことよりも女子の臀部を撫でたり叩いたりして愛でることに愛着を持つ人種だから……今日のことを土産話にすればきっと悔しがらせることができる、なの……」


「なんか台無しだよ!」


 途中までそこそこ良い話だったのになんでこの子は要所要所でこんなに残念なんだろう。

 周りの環境が悪いんだろうか。

 ……やっぱ本人の資質だよな。


 あと、この前のアヤメの時に対抗してなのか、頭を撫でて欲しそうなそぶりをしてたのでみんなで撫で回した。

 青銀色のつやつや髪の感触がなかなか良かったです。


「……あとは、師匠殿はどちらかというと胸派だから、勇者殿が“パフパフ”してくれたらきっと見返してやれる、なの……」


「普通に賢者としての多彩な呪文能力で見返そうね!?」


 普通にしてる分には、攻撃防御回復と全方面で頼りになる後衛なんだからさ。






「そういえば」


 あの後ふと気になって、シンディにも聞いてみる。


「シンディにも、やっぱり過去の心の傷とかあったりする? あ、勿論言いたくなければ無理に聞かないけど」


「ふふっ、あたしはアヤメちゃんやルナちゃん程重い話の持ち合わせはないわね」


「そっか……なら良かったよ」


「せいぜい、付き合ってた彼氏に『おまえの愛が重い』って逃げられたことぐらいかしら」


「それはそれで重いよっ!?」






■――――――――――――――――――――――――――――――――――


なぜなに『ラビドラ』!


第10回:(今更ながら)装備品あれこれ



装備スロットは【武器】【鎧】【盾】【兜】【アクセサリ】の5枠存在し、枠ごとに1つずつ装備することができる。


【武器】


「剣」……主に勇者、戦士、戦王、魔剣士が活用可能。治癒術士や遊び人や聖騎士や賢者や芸人も一部の剣は装備可能だがスキルが使えない。

 ≪薙ぎ払い≫≪二段斬り≫等、小回りの利くスキルが主体で扱いやすく、攻撃力が高く種類も豊富なのでパーティのメインウェポンになることが多い。

 <斬>属性。


「槍」……主に勇者、戦士、戦王、聖騎士が活用可能。治癒術士や賢者も一部の槍は装備可能だがスキルが使えない。

 ≪突貫≫≪長刺≫等、敵後列に有効なスキルが多く、剣では届かない所をサポートできるためパーティで誰か一人槍使いを育てると便利。

 <刺>属性。


「格闘」……格闘家が活用可能。ナックルや爪等の殴り系武器全般。特性上、格闘家はこの系統の武器しか装備できず、結果的に武器を選ぶ楽しみがあまり無い。

 威力よりも手数を増やすスキルが主体で、クリティカル率増加の職業特性との相性が良い。

 <叩>属性。


「斧」……戦士、戦王が活用可能。

 元の攻撃力も高く、≪魔神斬≫のような豪快なスキルが多い。絵的に人気が無いのと、お下がりを勇者や魔剣士に使わせるような武器の使い回しができないのが難点。

 <斬>属性。


「杖」……治癒術士、魔法使い、賢者が装備可能。

 攻撃力が低くスキルも無いが、一部の杖は戦闘中に道具として使うことで特定の呪文を発動できる。

 <叩>属性。


「飛び道具」……装備者様々。

 ブーメランやクロスボウ等。後列から攻撃してもダメージが落ちない。

 その分攻撃力は低目で専用スキルも無い。遊び人や芸人にとりあえず持たせておくことが多い。

 攻撃属性も様々。(ブーメランは<叩>、クロスボウは<刺>)


「その他軽武器」……装備者様々。

 棍棒やナイフなど。安くて取り回しの良い武器全般。

 その分攻撃力は低目で専用スキルも無い。序盤の治癒術士や魔法使いにとりあえず持たせておくことが多い。

 攻撃属性も様々。(棍棒は<叩>、ナイフは<斬>)


【鎧】


「重鎧」……主に勇者、戦士、聖騎士が装備可能。鋼の鎧や竜鱗の鎧といった重厚で防御力の高い鎧全般。

 重鎧だからと言ってシステム上動きが遅くなったり等の不利益がある訳ではなく、ただ単に装備可能な職業を分けるだけの便宜上の区分。


「軽鎧」……上記職業に加え治癒術士、戦王、魔剣士、賢者が装備可能。主に皮鎧や胸当てといった軽くて防御力もそこそこの鎧。


「服」……全職業が装備可能。格闘家専用の胴着や遊び人・芸人専用の豪華な服等、特定職専用装備も存在する。


【盾】


「重盾」……主に勇者、戦士、聖騎士が装備可能。鋼の盾のような金属製の盾全般。

 これも鎧と同じく装備可能な職業を分けるだけの便宜上の区分。


「軽盾」……上記職業に加え治癒術士、魔剣士、賢者が装備可能。皮の盾のような軽くて扱いやすい盾全般。


「手甲」……格闘家、戦王が装備可能。防御力は低いが攻撃力にプラス補正がある。


【兜】


「兜」……主に勇者、戦士、戦王、魔剣士、聖騎士が装備可能。鉄兜のようなヘルメット状の防具。


「帽子」……全職業が装備可能。髪飾り等女性専用防具もある。



【アクセサリ】


 アクセサリには防御力を高めるよりも、特定の能力値を高めたり(例:力のリング)、特定のバッドステータスの耐性を得たり(例:目覚めの首飾り)する物が多い。

 但し基本的にレアな一品物が多いため、パーティ全員に必要な耐性が行き渡らないこともしばしば。



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