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クエスト09:第二章を始めなければ

「あなた!」


「母さん!」


 古代神殿での激戦の後、ここラーダトゥムの街へ約一ヶ月ぶりに帰ってきた僕達は、まずガルティオ氏を家に寄らせることにした。

 家の玄関前、結構人目もあるはずなのに熱く抱き合う二人に、通行人達の惜しみない拍手が浴びせられる。


「良かった。無事で、居てくれて……うっ、ぐすっ」


「すまない。世界に平和が戻るまではまだ、お前と子供に会わせる顔が無くて」


「そんなの気にしないで良いのに……私達がどんな思いであなたのことを待ってたか……うぅっ」


「……すまない」


 ガルティオ氏の胸に顔をうずめて涙する勇者母氏。そんな彼女を普段は豪胆な勇者が困ったように宥めている光景が、なんだか微笑ましい。

 今日は夫婦水入らずの時間にしてあげた方が良さそうだ。ガルティオ氏が帰ったことでこの家には僕の寝る場所も無くなりそうだし、宿屋にでも泊まろうかと足を進めた時、襟の後ろをむんずと掴まれた。


「ユウ、あなたそんなボロボロの格好でどこに行くつもりかしら? お母さんはあなたをそんな恥じらいの無い娘に育てた覚えはありません」


 泣きはらした赤い目をしつつも、しっかりとした口調で勇者母氏が告げてくる。言われてみればゲド戦であちこち燃やされたり切り裂かれたり血にまみれたりしていて、これで例えば夜に一人で街中を歩いていたら職務質問されてもしょうがないレベルだ。


「替えの服あるから着替えて行きなさい。その服はもう着れそうにないし雑巾にでもしようかしら」


「……母君殿、このビリビリになった服から覗く柔肌が非常にそそる。それを処分するなんてとんでもない、なの……」


 眼鏡を光らせながらおかしなことを口走る賢者殿はチョップで黙らせ、「それもアリね」などと恐い事を言い出した勇者母氏を説得し、新しい旅人の服に着替えることとなった。

 デザインは何故か相変わらずのエプロンドレスなので見た目的にはほぼ同じ、ちなみに武器も鋼の剣が壊れたので元の棍棒に戻した。最近はなんかもう、この棍棒に愛着さえ湧くようになっていて、新しい武器を買い直そうという気もあんまり起こらない。

 あと髪も、先の戦闘で燃やされて毛先が焦げたので、周囲に勿体無いと嘆かれつつも短く切り揃えることにした。ポニーテールに纏めると丁度先端が首の後ろにばしばし打撃を与える微妙な長さだったので、慣れるまでが結構大変そうだ。


 ついでに冒険者セットに入っていたスキンケア用品もいつの間にか補充されていた。武器屋にも道具屋にも売っていない薬品をいとも容易く調達してくる辺り、勇者母氏の錬金術師疑惑に一層の拍車がかかる今日この頃であった。






「よくぞ戻った!」


 ラーダトゥム城、謁見の間。

 僕達パーティとガルティオ氏の合計五人が、王様と大臣さんとを前に旅の報告をする。兵士さん達も左右にずらっと整列しており相変わらず壮観だ。

 まず先にガルティオ氏がこれまで世界を回った報告をした。内容を一言で纏めると、「最近モンスターが活発化しているので要警戒」ということで、具体的な内容に乏しい。


 勿論それはガルティオ氏が無能だということでは決して無い。実際そこかしこの街や村でガルティオ氏の武勇は語られる訳だし、先の戦闘でもゲドの手下の二人を同時に相手取って勝利している。一応あいつらもゲーム終盤の中ボス級なのでかなり強いはずなのに、だ。

 これはつまり、ゲーム用語で言うところの『当事者性』という制約だろう。もしプレイヤーが何もしなくても強力なNPCノンプレイヤーキャラクターが勝手に問題を解決して世界を救ったらどうなるか。それはもうゲームじゃなく「映画」とか「紙芝居」と呼ばれるようになってしまう。

 ここは、『ガルティオ氏が各地で魔王軍の侵攻を頑張って食い止めてたおかげで今まで世界が滅びずに済んだ』ということにしておこう。


「つきましては、ここに居る我が娘のユウが、永らく我々を苦しめてきた宿敵、邪神官(エビルプリースト)ゲドを討ったことで、こちら側に流れが傾くものと思われます」


「ほう、あのゲドを。それはまことか」


 王様が驚きの篭った目線をこちらに向けてきたので、「はい」と頭を下げて肯定する。

 ゲームではこんな風に人間軍対魔王軍という括りでの戦争とか戦況の話を聞く機会が無かったので、改めてゲームが現実となったことでの世界の広がりを感じる。まあ世界と言っても大きさは四国クラスだけど。


 それから、王様や大臣さんに問われるままに、今度は僕達の西大陸での旅の様子を聞かれた。

 川の氾濫やら作物の不作やら露天風呂に痴漢が出たやら、モンスターが原因でなさそうな話もしたが、ガルティオ氏に比べると冒険の年季が違うので尺を稼ぐために細かい話も盛り込んだのだった。大臣さんは漏らさずメモを取ってくれてたようなので、少しでも役に立てば良いな。

 そして一通り話し終えると僕は、意を決して王様に相談を持ちかけることにした。


「王様、恐れながら折り入って相談があります」


「ふむ。遠慮せずに申してみよ」


 こう、真面目な宮廷物の小説等に比べると王様も僕達も気さくに話しているようで恐縮であるが、ゲーム本編の雰囲気もそんな感じだったのでしょうがないと思って頂くしかない。元々全年齢対応のゲームなのであまり複雑な社会問題なんかを盛り込んでもプレイヤー離れを起こすだろうしね。

 それに昔のゲームでは、謁見の時に王様にあろうことか戦闘を挑むことができたり、更にその戦闘で王様がとんでもなく強かったり、しまいには「もう王様がボス倒してくれよ!」と言いたくなったり、そんなフリーダムなものすらあったぐらいだし。

 閑話休題(それはさておき)


「それでは――東大陸に渡るための手段を、何かご存知ではないでしょうか?」


 覚えているだろうか。先の古代神殿レオンハットでのイベントから、ゲーム本編だとどう物語が進んでいくかを。


『負けて動けなくなった主人公をゲドが卑劣にも人質として利用し、ガルティオ氏の抵抗を封じ、ガルティオ氏はゲドの手下に殺害される。

 しかしガルティオ氏は最後の力を振り絞り、勇者達を親の愛のパワーで脱出させ、東大陸へと飛ばす。そしてそこから、再起と反撃の第二章が開始される』


 つまりゲドに負けることでイベントが進み東大陸へと渡る結果になるのだが、それが勝ってしまったことで、渡るための手段が閉ざされるという皮肉な結果になってしまったのだ。


「ふむ……東大陸か。以前は定期船が往復しておったのじゃが、最近は海にも魔物が多くなっており少し前から途絶えておるのじゃ」


 王様は立派な顎鬚に手を当てつつ考えている。

 確かに定期船は誰でも考えそうな手段である。だからこそシナリオサイドで予めこうやって理由をつけて潰しにきた訳か。おのれラビドラスタッフ、余計なことをしやがって。

 あと、海が駄目なら空からというアプローチもあるが、空を飛ぶための手段を手にするにもまず東大陸に渡らないといけないので堂々巡りである。


「ガルティオは旅の途中に東大陸にも行ったのじゃよな。どのような方法を用いたのじゃ?」


「は。俺の時は三日三晩泳いで東大陸に渡りました。流石に死ぬかと思ったので帰りはイカダを作りました」


 このおっさん、ワイルドすぎるぜぇ……


「……勇者殿、勇者殿……」


 ルナがこっそり小声で囁きつつ、僕の服の端をくいくいと引っ張った。


「……私達は良い子でお留守番してるから、勇者殿は一度泳いで渡って≪帰還≫の呪文で……」


「いや無理だからマジで」


 三日間飲まず食わずで水泳とか普通に死ぬ。

 それに遠泳には余計な荷物とか服とか全部置いて行かないと邪魔になるから、例えばびしょ濡れのドロワース一丁で港町に泳ぎ着いたところとか見られたら社会的に死ぬ。更には万が一泳いでる途中に水の抵抗でドロワースが脱げたりしたらもうお婿に行けない。

 ちなみにこの世界での水着は防御力が低い割に何故か非常に高価なので今の僕達では手が出ないのだ。


 ガルティオ氏が≪帰還≫の呪文を覚えていれば僕達もそれにくっついて行くことで楽に東大陸に渡れたのだが、生憎とガルティオ氏の修得している呪文のレパートリーは少ない。これも『当事者性』の一環という訳だろう。

 そう色々考えていると、大臣さんが「それでしたら――」と語りだした。


「定期船が出ないと言っても、船自体が無くなった訳ではなく港で眠っているだけですので、勇者様ご一行が途中のモンスターから護衛するという形で船を出せないかどうか交渉してみることはできそうですな」


「ふむ、それは良い案じゃ。では大臣よ、交渉の次第はお主に任す」


「はは。必ずや船を手配してご覧に入れましょう」


「大臣……ありがとうございます」


 僕が頭を下げると、大臣さんはそれを手で制し、


「なんのなんの。これがわしの仕事だからな」


 ダンディな笑顔を見せた。仕事をするおじさんの顔って感じで頼もしい。

 これからの展望も見えて謁見の間を退出したところで、ガルティオ氏の寂しそうな目がこちらを向いた。


「……父さんだって、ちゃんと仕事してるからな。他の人から見えにくいだけで」


 ずっと家を空けっ放しだったことをどうやら気にしているらしい。


「そこを気にしてるんなら、時々は家に帰って来た方が良いよ。母さんも心配するから」


「うむ……」


 百戦錬磨のガルティオ氏も家族には弱いようだ。船の件の結論が出るまでは彼も僕達と同様この街にとどまることになったので、存分に家族サービスに励んで貰いたい。






■――――――――――――――――――――――――――――――――――


なぜなに『ラビドラ』!


第7回:隊列について



隊列は敵・味方ともに「前列」と「後列」に分かれる。


前列には1人以上居なければならず、前列が全員動けなくなると後列メンバーが前列に押し出される。

後列は無理に配置しなくても良いので前列のみでの編成も敵・味方ともに可能である。


剣・槍・斧などの近接攻撃武器だと隊列の影響によってダメージが下がったりする。

 前列→前列の攻撃で通常通りのダメージ。

 前列→後列または後列→前列の攻撃で通常の半分のダメージ。

 後列→後列は近接攻撃では攻撃できない。


クロスボウ・ブーメラン等の飛び道具や呪文攻撃は、隊列の影響を受けない。

また一部のスキル(特に槍)には近接武器でも遠隔扱いになり隊列の影響を受けなくなるものもある。



あと、隊列とは無関係であるが、戦闘中のコマンドで「防御」を選べばそのターンに受けるダメージを半分に減少できる。


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