女のみでの酒場では
ネクミリアの昔の小さなお話。それをネクミリア、天災禍、鬼羅の飲み会の中で語る。
夜、ネクミリアの王城の、ある特定の者しか入れない秘密の酒場にて。
そこでは女達が一日の疲れを癒すために酒を酌み交わしていた。
「今日も会議、長引いたもんだな」
ネクミリアは心底疲れたような声で酒を飲み進めていく。
「…私は悪くないよ。何も、ネクミリアが無駄に私に抗議したから長引いたんじゃないかい?」
それに対して天災禍は、やや冷め気味に言葉を返す。
「ねぇ、焼酎おかわりとおつまみ、いいかい?」
「承りました」
天災禍の注文に答えたのは、騎士兼王城のメイド長、鬼羅。
「私もご一緒して宜しいですか?」
「うむ、構わんぞ」
鬼羅はネクミリアの隣に座って、カクテルを飲み始めた。
「…んで?我のおかげで会議が長引いたと。天災禍が口出ししなければ悪戯に長引く事はなかったであろうに」
「・・・私は君の提案に穴を見つけて指摘しただけなんだけどね。君が頑なにその部分を訂正しないからだよ。その挙句、最後はその部分を修正して可決・・・。少し恥ずかしくはないかい?」
「う、うるさい!我はそれとは別方面の部分を重要視してだな・・・」
「まあまあ、会議は終わったのですし、喧嘩しないでください」
鬼羅が仲裁に入って、喧嘩になりそうなところを止める。
「・・・ったく、仕方ない奴よ」
そう言うと、ネクミリアは酒を一気に飲み干した。
「…あの、昔はこんなこと、する暇なんてなかったんだよね」
「昔?…ああ、そうか。確かにここまで暇ではなかったものだな」
その会話を聞いた鬼羅は少し手間取った様子で訪ねた。
「あの…その昔というのは、一体いつのー」
「言うまでもなかろう、我が王座に着いたばかりの頃だ」
「それは面白いですね、是が非でもお話聞かせてもらいたいものです」
「あ、いやな、何しろ話が長いものでな…まぁ、我が特に忙しく、民の為によく頑張っていた頃だ。あるとき、天災禍がそこまで君が頑張る必要はないんじゃないのかって、聞いてきたんだ」
「へぇ、それで?」
すると天災禍が割って入り込み、
「…そして私は、ネクミリアが王らしくないと言ったんだよ。偉い偉い王様が、何もそこまで頑張らなくてもって思ってね」
天災禍は酒をちびちびと飲み続ける。
「…そこから私とネクミリアとの対立が始まってね、それは毎日毎日言い争ったよ。」
「我は間違っておらぬとな」
「私はそれを間違っていると主張したよ。…王とは本来、威張って座に着き、強欲であり、部下を使いに使う。その姿は暴君となりうるものかもしれない。でも、私はそれを王の在り方として思っていたんだ」
「…しかし我は昔から強情でな、それを認めんかった。故にその後、一度民から反発を受けた」
ネクミリアは心底後悔している顔で語る。
「その時ようやく天災禍の言っていた事がわかった。悔しかったよ、王などでない者に諭されるなんてな」
そこで鬼羅は尋ねる。
「と、いうことはその後は?」
「無論、暴君ギリギリの様さ」
天災禍はつまみの唐揚げをパクパクと食べ進めていた。
「私も唐揚げ食べたかったですね…またつくりますか」
「うむ、頼んだぞ」
鬼羅は再び調理場に立って調理を始めた。
「結局、ネクミリアは自分のやり方でやっているようだね。少しは私たちの意見にも耳を傾けてほしいものだね」
「まあそれはまた、気が向いたらってことでな?」
「なんだいそれ…。…はぁ、鬼羅?私たち、一旦お風呂に入ってまたすぐくるからお酒のおかわり、よろしくね」
「了解いたしました、冷たくして待っていますよ」
「ここで風呂とは、よいな、今日は露天風呂としようか」
「じゃあネクミリア、私の体洗ってくれないかい?」
「よかろう、では逆にそのあとはお前が我の背中を流せよ?」
「…私は非力だけど、それでもよければ」
「よしきまりだ、行くぞ天災禍!」
「そんな急に走ったら、私、体力が……待って…」
そんな微笑ましい様子を見ていた鬼羅は、唐揚げも酒もつくり終えて一人酒をしていた。
「…過去より今に捕らわれず、ですか」
そう言って唐揚げと酒を交互に口へ運ぶ。
「実に王様らしいです」