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パーティーにて(ラス視点)

突然のラスくん視点。


彼の幼少時代です。

僕の名前はラス・アナブル。

名門貴族、アナブル家の跡取り。


両親は子宝に恵まれず、もう子供は諦めようかと思っていたときに産まれたのが僕らしく、この世に生を受けた瞬間から僕の将来は決まった。


別にそれを嫌だとは思わないし、むしろ人々に望まれ、期待されるのは嬉しかった。家の名に恥じない立派な当主となるため、幼い頃から習い事を欠かした日はなかった。



そんな僕が彼と初めて会ったのはまだ五歳の時。



今や社交界の中で不動の地位を獲得し、裏から政治をも牛耳る。

敵に回したら最後、家やその親戚ごと容赦なく消される。

誰もが認め、ひれ伏すNo.1――リーヴァス。


リーヴァス家とアナブル家は遠い血縁関係らしく、元々は1つの家だったのが分断したとか。

 一時は仲違いをしたものの、現在はトップに君臨するリーヴァスと、国内外の貿易を一手に担うアナブルは協力関係にある。


そのリーヴァスの次期当主の誕生日パーティーに招かれた。

母に

「いずれあなたたちが世界を先導するのですから、良好な関係を築いておくのですよ」

と言われ、僕は気を引き締めた。


このパーティーで、僕の振る舞いで、家の未来が決まるかもしれない。失敗なんて出来ない。


緊張で震える腕を反対の手で押さえつけ、深呼吸を繰り返しながら僕は初めての大役に臨んだ。



所々に宝石がちりばめられた大きなシャンデリアの下。彼は居た。

藍色の髪には天使の輪ができており、黄金に染まる瞳には誰も寄せ付けないような鋭さがあった。


まるで全ての光が注がれているかのように、その姿は輝いていた。

母から聞いた話だと僕より1つ上らしいが、とてもそうは思えない。


どんなに僕が頑張っても、血反吐を吐くほど努力しても彼には敵わないと思わせる何が彼にはあった。

僕が名家の跡取りだからといって傲慢にならなかったのは、まだ五歳のうちに彼に出会ったからかもしれない。



入口付近で動けなくなっている僕を黄金の瞳が捉えた。


一瞬、呼吸を忘れた。

形の良い唇が弧を描き、鋭い目が細められる。


「おい」


彼が僕を呼んでる。

返答しなければいけないと口を開ける。

そして今更ながらに自分が息を止めていたことに気付いた。


「初めまして、ラス・アナブルと申します。アダル・リーヴァス様、今宵は誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」


胸に手を当て、跪く。少しだけ声が震えた。


「………………」


しかし、アダル・リーヴァスは一言も発しない。

相手が頭を下げたらすぐに上げさせるのが普通じゃないのか?


不安になり、恐る恐る視線を上げた。

僕を見下ろす彼の表情は呆れていた。


「つまらないな」


そう言ってため息を吐き出す様子に、急に肝が冷えるような感覚を覚える。


僕は……何か間違えたのだろうか?

怒らせてしまったのだろうか?

これからのリーヴァスとアナブルの間に、亀裂を入れてしまったのだろうか?


目の前が真っ暗になった。

もう皆に合わせる顔がない。

視線を再び床へ向けた。



「顔を上げろ」


アダルが僕に投げ掛けた言葉はそれだった。


たくさんの大人たちがこちらに注目している。

この状態でまた顔を晒せだなんて、どんな拷問だ。

…あぁ、それが彼の目的か。

悲嘆に暮れ、大人たちから非難される子供を見たいのか。もし本当にそう思ってるんだとしたら、なんて悪趣味だ。


「どうした、早くしろ」


僕には最早、悪魔の囁きにしか聞こえない。

ほんの僅かな時間で彼は僕の今までの努力を泡にしてしまう。僕の味方を敵にしてしまう。

こんな人間がいるのか。


僕はゆっくりと顔を上げる。

どんな表情をしていただろう。おそらくひどかったに違いない。



アダルは僕の方へ手を伸ばし……


「いっ!…痛っ」


思いっきり頬をつねった。

僕が痛がっても離してくれない。

しばらくつねられ続け、アダルが離してくれた時には頬は真っ赤になっていた。


「……!?!?」


何が起きたのか、理解できない。

涙目で頬を押さえる僕を見て、彼は声をあげて笑いだした。


「…………え、あの?」


なんだ?なんなんだ?

目の前でお腹を抱えて笑う姿は、初めて年相応に見えた。


笑い終えたアダルは口角をニッ引き上げる。


「お前まで、つまらない大人のような態度を取るな」

「え……でも」

「なんだ?俺に逆らうのか」

「いや、とんでもない」


なら、いい。と満足げに顔を綻ばせるアダルに、僕は彼に一生敵わないと、勝負を挑むことすらしないだろうと改めて思った。



その後、僕のように挨拶をしに来たご令嬢たちを一蹴する様子には驚いた。

遠慮がちに「僕はここに居てもいいの?」と尋ねると「お前は許す」と言われた。

……認めてもらえたのかな?


家に帰ると母からも父からも祝福された。

なんでもアダルは気に入った人間しか自分の側におきたがらず、認められるかどうかも運次第なので両親にとっても賭けだったそうだ。



こうして僕はアダルを始め、たくさんの良家の者たちと関わることになる。

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