ジェシーのお手伝い
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校舎と講堂とをつなぐ渡り廊下には、式を待つ新入生たちが緊張の面持ちで二列に並び、待機している。
そこに男子の視線を一人占めしているジェシーを確認し、腕の中の救世主に お願いね? と声をかけて、そっと下におろした。
ゆっくりとした足取りで、一歩ずつジェシーのほうへ向かっていく救世主。
その様子を私はハラハラしながら見守る。
そのまま、そのままっ!
後は誰かがその存在に気づいてくれれば……。
でも新入生は誰一人としてこちらを向こうともしない。緊張でガチガチなのはわかるが、顔が強ばって可哀想な感じになってしまっている。
「にゃあぁ~ん」
救世主、もとい猫がまるで こっちを見ろ とでも言いたげに鳴き、胸を反らす。
突然沈黙を破ったその鳴き声に、何人かの生徒が驚きに肩を揺らし、振り向く。
私はというと、猫のあまりの賢さに感動して泣きそうになっていた。
こんなに思い通りに動いてくれる動物っている?
私がやりたいことを理解して、自ら行動を起こしてくれたようにも取れる行為に、このあと絶対マタタビをあげようと決心した。
木の上で降りれなくなっているところを助けようと、得意でもない木登りをしたのに抱き抱えた瞬間暴れられた時はこのまま下に落とそうかとも思ったけど、そんなことしなくて良かった!
私が発生させたかったジェシーのプロローグイベントには猫が必要不可欠。
動物好きなジェシーが猫を追いかけていった先で四銃士と出会うのだ。
首輪のついていない、毛並みもそこまで綺麗でもない猫。私たち庶民にとっては普通だがお金持ちのお坊ちゃんたちにとっては……。
「まぁ、汚らわしい」
誰かがそんなことを言った。
他の者たちの猫を見る目も、冷たく、鋭い。
「どこから浸入したんだ」
「どなたか、さっさと追い出してくださいよ」
さっきまで固まってた新入生たちが口々に非難の言葉を発する。
浸入させたのは私ですけどね。
ゲームでは極自然に登場した野良猫だげど、実際にこのセキュリティ万全、ねずみどころか蟻一匹入れないような学園に猫が迷い込むなんて不可能だ。
きっとゲームでも裏で誰かが暗躍していたに違いない。
だから私が動くことにしたんだけど……
イベント発生のお手伝いってかなり大変。
猫に何ヵ所かひっかかれたし、何より目立ってしまう。
今回もこれのために遅刻する羽目になった。
おそらくあとで担任に理由を聞かれると思うけど、あまり目立つと危険だ。
もし前世の記憶を持っていると知られたら?
なにされるかわからない。普通な幸せという夢が潰れかねない。
大事なプロローグイベントを発生させたら、もうこんな風に動くのは控えよう。
もちろん経過はあのノートにメモしていくし、必要があればジュリアとジェシーにアドバイスもする。
何より、あの二人ならプロローグイベントさえ起これば、あの魅力で勝手に男たちが落ちてくれるだろう。
決意揺らぐの早いとか言わないで。人間ってそんなもんだよ……。
「猫ちゃん、おいで」
そんなことを考えているうちに、場面が動き出す。
血統書つきの動物しか知らないような貴族には野良猫は不快なものでしかないんだろう。
あんなにお利口なのに。態度は少し大きいけど、十分可愛いのに。
このシチュエーションで動物好きで優しいジェシーが動かないわけがない。
ジェシーは列から出ると猫に駆け寄った。
「すぐに外に出してあげますからね」
微笑みながら手を伸ばすジェシーは本当に天使のようだったが、警戒した猫は毛を逆立て、威嚇しながら逃げ出した。
「あ、待って!!」
もうすぐ入学式なのにジェシーは猫の後を追いかけていく。
これでいい。
行事に紛れて不審者がいないか見回りをしていた四銃士が、新入生でありながら式に参加していないジェシーに注意する。
事情を聞いた四銃士はその優しさ溢れる行動に感心して、ジェシーに興味を持つようになる。
そんなストーリーだった。
これでもうジェシーのほうは心配ない。
ジュリアのイベントを起こせばひとまず任務完了だ!!