ゲームスタート
「お姉様、変なところは無いですか?」
赤いチェック柄のスカートをひらめかせ、鏡の前でくるくる回っているジェシー。
綺麗な顔には見惚れるような笑顔を浮かべている。
わかるよ、新しい制服ってなんだか嬉しいよね。
しかもこの学園の制服は、気難しいご令嬢方にも気に入ってもらえるよう、かな~り可愛い仕様になっている。
スカートも一年生は赤だけど二年生は緑、三年生は青のチェックがそれぞれはいっていて、一目で学年がわかる。
かれこれ10分は鏡を見ているジェシーと、それをカメラで撮影し続けるジュリア。
「ジェシー可愛いっ!!天使!変なところなんかどこにもない!!」
「私っ、お姉様たちと同じ制服を着られるなんて感激です!」
……………早くしないと遅刻しちゃいますよ~。
私はスカートと同じ緑色のリボンを手に取り、胸元で結ぶ。
実は、これからやらないといけないことがあるんだ。だから早めに学校に行きたいんだけど。
せっせと登校の準備をしていたら、不意に腕を引っ張られた。
「ジーナ!せっかくだから三人で記念撮影しよう」
「それはいいですね」
朝からハイテンションな二人は、期待のこもった眼差しでこっちを見てくる。
本当は早く行かないといけないんだけど……。
美人たちにこんな風にみつめられて、断れるわけがない。
「いいよ。でもあまり時間はかけられないからね?」
そう答えればジュリアとジェシーは抱き合って喜び出した。
「やったー!ジーナと写真!」
「お姉様写真がお嫌いなのに……嬉しいです!」
ありゃ…。ジーナって写真苦手なんだっけ?
そういえばゲーム中でもそんな描写があったような、なかったような……。
二人は全然疑ってないけど、あんまりジーナらしくない行動を取らないように気を付けないといけないかも。
初めて姉妹三人揃って撮った写真。ジュリアが家宝にするとか言ってた。
ジェシーも素敵な思い出になりましたって涙目になってた。
なんかこういうの、経験したことなかったからくすぐったい。けど、いいね。
「それじゃあ私、用事があるから」
歓喜に浸っている二人を置いて家を出る。
まだ冷たい風を頬に感じながら、私は走った。
今日は入学式。
いよいよ、ゲームスタートっ!!
―――――――――……
と意気込んで家を出たのが一時間前。
あと数十分で式が始まってしまう。それなのに、目的のアレが見つからない。
学園周辺の植木や物陰を探しまわっているのに、アレどころかその痕跡すら見当たらない。
ヤバい。もし見つからなかったら、ジェシーのプロローグイベントが潰れてしまう。
冷や汗が背中を伝った。
プロローグイベントが発生しなければ、きっとその後にも大きく影響するだろう。
落ち着け……絶対に、見つけるの。
焦る気持ちを落ち着かせるように、胸に手を当てた。
頭上で木葉がサワサワと音をたてる。
葉が何枚か落ちてきて、頭に乗った。
なんか、変幻するタヌキにでもなった気分。
頭の上の葉っぱを払い、ふと木を見上げてみた。
別になにか意図があったわけじゃない。たまたまだ。
だから、そこに探していた姿をみとめ、目頭が熱くなった。
こんな偶然ってある?ナイスすぎるよ葉っぱ!!
感極まった私は人目も気にせず叫んだ。
「救世主!!」
もっとも、こんな時間帯に教室にいない生徒なんて、私ぐらいだろうけど。