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賢すぎるのも問題だ2

――家の飼い猫が賢すぎて困る。

 

 私はベッドの上、未だパジャマ姿のままで、床に寝転がるジジジを睨んでいた。

 ジジジとの格闘が始まって、かれこれ一時間が経つ。


 私だって、おとなしく寝ている気はなかった。ジュリアとジェシーが連れていくつもりがないのなら、二人が居なくなった後にでもこっそり学園に向かおう。そう考えていたのに、目の前の猫がことごとく邪魔をする。

 普通にドアを開けて出ていこうと思えば 扉の前にどっしりと座り込み、内側からは引くタイプの扉はびくともしない。

 トイレに行くふりをしてなんとか部屋の外に出ても、しつこく私の後ろを監視するようについて回り、私が不審な動きをするとすぐに足元にまとわりついてくる。


 どうやら姉妹たちの言いつけを守り、私を外に出さないようにしているらしい。

 …………ちょっと賢すぎませんか?今時の猫はこんなにもハイスペックになったんですか。

 本来なら自分の飼い猫が優秀なのは嬉しいことだけど、今はただ煩わしいだけでしかない。

 

「ジジジ、お願いだから見逃して!ね!?」


 ベッドの上からではあるけれど、猫に土下座までして懇願する構図はなんだか……。でもそんなことを言ってる場合じゃない。早くここから抜け出さないと儀式が終わってしまう。

 私はもう一度 お願いしますっ!! と頭を下げた。

が、ちらりと視線を上げると、必死の土下座に見向きもせずに後ろ足で顔を掻くジジジの姿を見てしまった。

 ひどいよ……せめてこっちを見てくれてもいいじゃんか。一人で土下座してるなんて私バカみたいじゃんか。


 そう考えると、唐突に虚しさが襲ってきた。病み上がりという不安定な精神状況も相まって、涙を流すまではいかないものの、私はシーツに顔を埋めたまま うぅーー と唸った。

 

 すると、手に何やら柔らかな物が触れ、次いで少し湿ったザラザラしたものが手の甲を撫でる。

 驚きに顔を勢いよく上げると、私の手を小さな舌で舐めている大きな猫がいた。


「え……えっ?あの、ジジジさん?」


混乱のあまり何故か さん付けしてしまった。

 だって、あのジジジだよ?どういうわけか家族の中で私にだけ懐かなかったふてぶてしいジジジだよ?それがどういった風の吹き回しだろう。

 まさか、慰めてでもくれてるの?


「俺で我慢しとけとか、そういうことなの?」


半分ふざけて言えば、ジジジは照れたようにそっぽを向いた。

 だからその人間くさい反応は何!?

不意打ちの可愛さに耐えられず、そっぽを向いたままのジジジを後ろから抱き締める。いつもなら爪を剥き出しにして抵抗してくるのに、今は大人しく抱き締められている。

 誓言の儀に出られないのは本当に悔しい。

でも、本人 (?)からもお許しが出ていることだし、今日はジジジで我慢してあげよう。


 私はそう決心して、念願だったもふもふに頬を埋めた。

 うわ、何これ たまらない。


―――――――…


「ジーナ無事!?」


大袈裟な音をたてて玄関の扉が開き、慌ただしく階段をかけ上がってくる足音に、姉妹が帰ってきたことを悟る。

 何事かと思うほど焦った顔のジュリアが部屋に入ってきた瞬間、それまで腕の中にいたジジジが床に下りた。

 少し寂しいけれど、私は目の前のジュリアの姿に目を見張る。


「ジ、ジュリア……その格好」

「あぁ これね、どうしてもジーナに見てほしくて、我が儘 言っちゃった」


後で理事長からお説教かな~ と頭を掻きながら笑うジュリアは、男装をしたままだった。

 画面越しに何度も見た、白の騎士服。いつもは上のほうで一本に纏めている茶色の髪は、耳より下の位置で丁寧に編み込まれ、緑色のリボンで結ばれていた。

 さすがに腰に剣までは差してなかったけれど、それは私があんなにも見たいと願っていた姿。


「どうかな、似合う?この騎士様の胸に飛び込んできてもいいよ!」


騎士服を着たまま、残念なことを言うジュリア。だけど……。

 どうしよう、イケメンにしか見えない。見慣れた、普段ならちょっとウザいとさえ感じるシスコンテンションも全然 嫌じゃない。予想以上に私好みの男装だった。ゲームではヒロインの男装の画像までは出てこなかったからな~。


 私は少しドキドキしながらも、今回ばかりはお言葉に甘えさせて貰うことにする。


「それじゃあ、失礼しますっ!!」

「……えっ」


飛び込む勢いでジュリアに抱きついたら、ボタンに鼻がぶつかって痛かった。

 イケメンバージョンのジュリアからはいつも使ってる洗剤とは少し違う香りがする。でもこれもなかなかいい匂いだな、何ていう洗剤だろう。


「あ、あぁぁああ……じ、ジーナ…?」

「ん?」


名前を呼ばれて上を見上げると、熱があるんじゃないかってくらい顔を赤くしたイケメ…ジュリアが、何やらテンパっていた。

 何で……あぁそうか。私がいきなり抱きついたりしたからか。


「ごめんなさい姉さん、いきなりこんなことして」

「う、ううん!それは別にいいの!!ていうかむしろウェルカムだからね!?どんどん来てほしいからねっ!?……ただ、ほら………ジーナっていつもこういうノリに乗ってくれないのに、今日はどうしたのかなーって。どうせ来てくれないだろーなって思ってたから心の準備が出来てなかったんだけど…」


え?そんなの理由は一つに決まってる。

 私が何も言わずに、ジーっとジュリアの顔を見つめていると、本人も気付いたらしい。

「あたしこれから一生男装し続ける!!」と宣言しているけれど、ゲーム的事情によりそれは阻止させてもらう。


 それからジェシーも帰ってきて、一日ぶりに三人で夕食を食べた。ご飯中でも騎士服を脱ごうとしないジュリアから、汚すといけないので無理矢理服を剥ぎ取った。クリーニング代を請求されたらどうするつもりだ。

 それでも、髪型はセットしたままのジュリアが目の前にいることは新鮮だったけど。


「あ、お姉様」


夕食の後片付けをしていた時、お皿を洗っていたジェシーが突然振り向いて言った。


「明日登校したら、一度保健室に寄るようにとヤエル先生が言っていました」


 ヤエル、先生?

…………………………誰ですか。

流行りのもふもふを書きたかったのですが……私には才能がありませんでした!

そのせいで予定よりも出番が減ってしまったジジジ、ごめんよ。


次からはまた学園に戻ります。

突然名前が出てきた"ヤエル先生"のご登場~(*^^*)

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