賢すぎるのも問題だ
大切なことを忘れていた。
「……えっ?」
ジュリアに言われた言葉が衝撃的過ぎて、ジェシーが作ってくれた卵入りおかゆを掬っていたスプーンを取り落とした。
ベッドで食べていたため、落ちたおかゆが布団を汚すも、私は今それどころではない。
「だから、ジーナは今日は学校休みなさい」
「嫌っ!!」
私が声を荒げて拒否するのが珍しいからか、ジュリアが瞳を丸くする。
私だって、普段なら喜んで学校を休むよ。でもね、今日は…今日だけは絶対に行かないといけない。
昨日、家にある体温計で熱を計ったら39度あった。きっと過度のストレスが原因。無理矢理にでも病院へ連行しようとする姉と妹をなんとか説き伏せ、自分のベッドに潜った。
過保護な姉妹たちは氷枕を用意してくれたり、私でも食べやすいものを作ってくれたり、夜も寝ずに看病をしてくれたらしい。
そのおかげか、翌朝にはすっかり熱が引いていた。美しい二人の顔には、濃い隈があったけど。
前世で独りぼっちの時にインフルにかかったことのある私だから、別に放っておいてくれても自分で出来たのに。
『こんなときぐらい頼りなさいよ』
『心配なんです、大切な家族ですから』
そう言って、ずっと側にいてくれた二人にはとっても感謝してる。
握ってくれた手の優しい温もりが嬉しくて、思わず涙も出た。
朝一番に自然とこぼれた笑顔でお礼を言うと、ジュリアもジェシーも頬を赤らめた。
「もうっ!ジーナ天使すぎる!!病み上がりじゃなかったら押し倒してるからね!?理性を総動員させて堪えてるんだからね!?」
「あぁぁあ、どうして今私はカメラを用意してないのでしょう。すみません、一眼レフを買ってくるので後でもう一度同じのお願いできますか」
二人の発言は全力スルーで。いちいち反応してたらキリがないと学んだから。
そんなこんなで無事に回復した私は、のんびりとおかゆを食べていた。
……あれ?そういえば今日は何曜日だっけ?と卓上カレンダーに視線を移し、
「………ぁあっ!!」
今日がとても大事な日だったことを思い出す。
なんてったって今日は、あの誓言の儀がある日なのだ。
誓言の儀とは、学園に伝わる伝統の儀式。
騎士団が白い騎士服、四銃士が黒い騎士服を身に纏い、腰に代々受け継がれてきた剣を差したスタイルで臨む。
髪もちゃんとセットして、只でさえカッコイイ キャラたちが更に輝いて見える。
全校生徒が注目する中、剣を胸の前で構え、校章と古代王家の紋章に向かって騎士の誓いを述べるというだけの堅苦しいもの。
だが、そんなつまらない行事も彼らを眺めていればすぐに終わる。それだけ、騎士の格好をした皆は神々しい。
ゲーム中ではスチルが一枚出てきただけだけど、そのイラストの美しいことといったら……。
すぐさま保存して、ずっとゲームのホーム画面にしてたほど素敵だった。
それを生で見るのを私がどれだけ楽しみにしてたか。この豪華なメンバーが揃うのは今年だけ。しかも今回はジュリアも男装して参加するらしい。ゲームファンとして、これを見逃すなんてできない。
だから、学校に行かせて欲しいとお願いした。ジュリアなら私のお願いを聞いてくれるだろうと、甘い気持ちで。
ところが、望んだ返事はジュリアの口から出てこなかった。
「ダメよ。ジーナは安静にしてなさい」
そして 冒頭に戻る。
「お願い姉さん、今日だけは……」
「許しません」
「っ!! ……姉さん」
「そっ、そんな上目遣いで見てきてもダメ!袖をくいって引っ張ってもダメなものはダメ!!」
顔を真っ赤にしながらもそう叫ぶジュリアを見て、私は絶望した。
今回ばかりは極度のシスコンのジュリアでも私のお願いを聞いてくれないらしい。
私は、ジュリアを羨ましそうに眺めるジェシーに視線で助けを求めるも
「お姉様はゆっくり寝ててください」
むしろ釘をさされた。
内心は ブルータス、お前もか 状態。
心配してくれるのはとても嬉しいしありがたい。でも、一生に一度のチャンスを逃す訳には……。
「ぶなぁ」
俯いて真剣に悩んでる私の膝に、突然巨体が乗っかってきた。
「じゃあね。ジジジ、ジーナをよろしくね」
「お姉様!すぐに帰ってきますから」
「えっ、ちょっと待って」
部屋から出ていこうとする二人を追いかけようとしたが、膝の上のジジジが重すぎて動けない。
あれ、こんなに重かったっけ。もしや太った?
「退いてよお願いだから……ねぇ、ジージージー!!」
きっとどれだけ私が必死なのかわからないだろうジジジは、膝上で呑気にあくびをした。
階下からは「行ってきます」という二人の声と、扉が閉まる音がした。
そんな……。ガクッと頭を落とした私は、ふてぶてしく鎮座するジジジを恨めしげに睨んだ。
というわけで、ジジジのターン 次回も続きます。
ジジジは今流行りのもふもふ動物に比べて可愛さが全然足りませんが、もうしばらく 猫とのふれあいにお付き合いください(・・;)