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棘の迷宮2

会話文 多め。

「ジュリアさんがこんな所に来るなんて、珍しいね」

「どういう意味?あたしがバラに囲まれてちゃいけないわけ?」

「まさか。ジュリアさんの美しさで霞んでしまうバラたちを哀れに思うよ」

「またそうやって嘘ばっかり」


 聞き取れた声は、私が予想していたものだった。

近付き過ぎるのはバレる危険があるので、姿を見ることは出来ないけど、特徴的なその声で二人が誰なのかぐらい容易にわかる。



 騎士団の紅一点と副騎士団長。これは副騎士団長ルートのイベントだ。

 棘の迷宮で出会った二人。副騎士団長はジュリアにバラを渡すが、「女扱いもしてないくせに」と突っ返されてしまう。そんなジュリアの手を優しく取り、「俺は、貴女が弱さを見せてくれたあの時から、一人の女性として見ているよ」と言うのだ。


 あ、思い出しただけで悶えそう。

驚きで目を見開いた後、徐々に羞恥で顔を赤らめるジュリアも可愛かったし、なんといっても副騎士団長が跪いてヒロインの手を取る様はリアルに王子様だった。

 まさかあれが現実で行われるなんて。見ることが出来ないのが本当に悔しい。


 せめて一言も聞き逃さないようにと、耳に意識を集中させた。


「あはは、俺は嘘なんて言わないよ」

「今更そんなこと言ったって無駄なんだから」

「相変わらずつれないなぁ。ま、それがジュリアさんの魅力でもあるんだけど」

「はいはい ありがとーございました。あたし暇じゃないからもう行くね。ここにもいなくなったジーナとジェシーを探しに来ただけだし」

「あ、待って!はい これ」

「……何?」

「バラだよ。男が魅力的な女性に花を贈るのは当たり前だからね」


 会話が進むたびに鼓動が早く、大きくなる。もう少し。もう少しであのシーンだ。


「騙されないから。大体、あたしのこと女扱いもしてないくせに」


 ジュリアがそう言った瞬間、私の期待と緊張が頂点に達した。キュッと胸の辺りの制服を握りしめ、副騎士団長の言葉を待つ。



「そんなことない」


普段とは違う、真剣味を含んだ彼の声が棘の迷宮内に響く。


「俺は……」


“貴女が弱さを見せてくれたあの時から、一人の女性として見ているよ”


 言葉は、そう続くはずだった。





 ブロロロロという轟音と共に突風が吹き荒れる。

バラたちは一斉にわさわさと揺れ、私も目を開けていられずに、腕で顔を庇った。


 悲しいことに、私はこの突然の邪魔者の正体を知っている。

 うっすらと目を開き、様子を伺うと、今まさに大きな物体が棘の迷宮のすぐ隣に着陸しようとしていた。


 ヘリコプタァァァァアアア!!!

なんてことをしてくれたんだ!せっかくのイベントが台無しだよ!人様のイベントぶち壊すなんて言語道断!!

 もう恨むからね。ラスくんのこと一生恨むからね!?


 暫くの間吹き続けた風は、音が消えたのと同時に止んだ。

 ついでに、ジュリアと副騎士団長の甘い雰囲気も消え失せていた。いや、まだ甘かったわけじゃないけど、この状況になってもあの台詞を吐けるほど副騎士団長は空気の読めない人間じゃないと思う。


 それにしても


「…うっ」


目が回るような感覚と吐き気を覚えて、両手を地面に付く。イベントでテンションが上がり、忘れていたダルさが復活。

 ラスくんは私を助けたいのか、苦しめたいのか、どっちだ。

 とにかく、少し落ち着いたらもう帰ろう。


「一体、なんだったの?」

「さぁ?どっかの常識外れな生徒が、ヘリポートじゃなくここにヘリを着陸させたんじゃないかな」


 副騎士団長、正解です。しかもその常識外れな生徒はあなたのご友人ですよ。本当なんとかしてください。


 風で散ってしまったバラの花を拾い上げる。顔に近付けると微かな香りが鼻をくすぐり、僅かに心が落ち着いた。

 額に滲んだ汗を制服の袖で拭い、体を起こす。


「そういえばシュナイザ、あんたさっき何か言いかけてなかった?」


 妙に響いたジュリアの声に、私は思わず動作を止めた。

 ……聞いちゃうんだ。確かに、あそこで言葉を区切られて気にならない訳がないけれど、副騎士団長は言えないだろう、あの続きを。


案の定

「あーうん……なんでもないよ?あれは忘れて」


全くなんでもなくないような言い回しで彼は言葉を濁した。

 ごめんなさい。家の姉妹たちは鈍感でシスコンなんです。対象者の皆さんには是非その壁を越えて素敵なラブストーリーを繰り広げて欲しい。


「用がないならもう行くからね、急いでるから」


 少し離れた所でジュリアが踵を返す気配がして、私は慌てて違う通路に逸れた。

 あぁ二人の最初のイベントは、本当にこれで終わりなのか。そう思うと悲しく、申し訳ない気分になった。元はと言えば私がラスくんを放ってここへ逃げてきたのが原因だし。幸せになってほしいのに、邪魔してどうするの。


 ザッザッザッと出口へ向かうジュリアの足音を聞いて切なくなっていると


「あ、ジュリアさん!!」

「……何」


副騎士団長のジュリアを呼び止める声がして、落ちていた心が浮上した。この際 驚くほど冷たく低いジュリアの返答は聞かなかったことにする。

 さて、これからどんな展開が……


「妹ちゃんたちの事だけどさ」


 ……もし今の私に効果音をつけるとしたら、ガクッ。これしかない。

 シスコンに妹たちの話をしても、自分が眼中の外に追いやられるだけだというのに。まぁ、ジュリアは食い付くだろうけど。


「二人がどうかしたの?」


ほらね。


「ジェシーちゃんの方はわかってるよね?」

「えぇ……四銃士のガキが随分なことしてくれたみたいだよね。ジジジを助けるっていう素晴らしい行いをしたにも関わらずポイントを引いたあいつらは只でさえ許せないっていうのに」


 ボキボキッていう音がしてるんだけど、まさかジュリア 骨鳴らしてる?バラたちの間から黒いオーラが漂ってるよ。怖すぎるんですが。

 そんな暗黒ジュリアの様子を苦笑だけで流せる副騎士団長も凄いけど。


「じゃあ魔女っ子ちゃんのほうだけど」


……ん、私?


「凄く具合悪そうだったから。もしかしたら熱でもあるのかもしれない。ゆっくり休ませてあげてね」


腰にくるあの甘い声で紡がれた言葉に、私自身が目から鱗だった。

 そうか、私は熱があるのか。

手を額や首筋に当てても、手自体が熱いからかよくわからないけど、前世でも感じたことのある独特のダルさから、自分の体が正常でないことはわかった。どうりでいつまでも頭痛が引かないわけだ。

 それにしても相変わらずの観察眼というか、ゲームの中でも他人の変化には敏感だったもんな、副騎士団長。


「そんな……ジーナ!今すぐ病院に連れてってあげるからぁーー!」


そう言い終わるか否かのうちにジュリアはこの場から走り出していった。

 病院なんて行かなくていいのに、家計が苦しいんだから。


 とはいえ、そろそろまずい。寒気もしてきたし、これは本格的に熱があるかもしれない。

 まだ副騎士団長が棘の迷宮内にいるので、体勢を低くしたまま出口を目指した。


 だから


「お大事に、覗き見 魔女っ子ちゃん?」


後方からかけられた クスクスと楽しそうな声も、 きっと気のせいだろう と、気にも留めなかった。


 

バラがいつ咲くのかはわからないので、ゲーム補正により年中無休で咲き続けているということで(^-^;



ちなみにシュナイザはきっと最初からジーナに気付いていました。


ジュリアさんまだ自分が女扱いされてないと思ってる?つまらないな~

あ、魔女っ子ちゃんきた

期待してるみたいだし、それに応えてあげようか。ジュリアさんに勘違いされたままなのも嫌だし。


こんな感じかと。

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