私の決意
レンガ造りの、決して大きくはない家。
その近くには井戸があって、庭には小さな菜園がある。
ある時、私は思った。
――――私、この光景を知ってる!?
そりゃあ自分の家だから知ってるのは当たり前なのだけれど。
それよりももっと昔……
そう、
生前に私はこの光景を見たことがある。
家の外観に庭の細部に至るまで、前世でプレイしていた乙女ゲームにそっくりだ。
どうして今思い出したのか、なぜ今まで思い出せなかったのかは謎だけど、確かに私はこの世界を知っていた。
もしかして、今流行りの転生モノか?
それなら私のポジションは……
「ジーナ!!」
ふと誰かが名前を呼んだ。
ジーナ?その名前って……
「どうしたのよ、ボーッとして」
肩を叩かれ振り返ると、美しい女性が立っていた。
茶色の腰まである髪をさらりと風になびかせ、健康的な肌色をした長い指を私の肩にかけている。
私の姉さんであり、私達三姉妹の長女ジュリアだ。
「姉さん…」
「井戸に水汲みに行ったっきり戻って来ないんだから心配したわよ」
大きな姉さんの瞳に映る自分を見て絶望した。
あぁ、やっぱり私は……
私の転生した役はあの子なんだ。
うつ向く私を不審に思ったのか、姉さんが顔を除きこむ。
「大丈夫?なにかあったの?」
「……いえ、なんでもないです」
私はふらつく足取りでバケツの水を持ち上げる。
「ジェシーがご飯の準備をしてくれているわ」
だから早く行きましょ、とバケツを持ってくれた。
そのさりげない動作がイケメンだ。
姉さんは女でもモテるけど、男に生まれてもモテたと思う。
さすがに悪いので、玄関前でジュリアからバケツを受けとり、ドアを開ける。
「お姉様っ!!」
家に入ると、フランス人形のような女の子が満面の笑みで迎えてくれた。
金髪碧眼のどこか儚い雰囲気をした少女。
私の妹、三女のジェシーだ。
ジェシーはドアから入ってきた私を見ると同時に飛びついてきた。
よろけるが、頑張って踏ん張る。
とりあえずバケツを持ってることを考慮して欲しい。
「あ!ジェシーずるい!!」
そんな声が聞こえ、今度は後ろから衝撃が襲う。
背後からはジュリアが抱きついてきた。
実はこの二人、かなりのシスコン。
ゲーム中にそんな設定はなかったはずだけど。
そしてジュリアもジェシーもいるってことは……
私は二人に抱きつかれながら、ガクッと頭を下げた。
私の転生したポジションは、次女のジーナなんだ。
あぁ、なんでよりによって……
ジーナになるくらいなら名前もでないモブキャラAとかのほうが私は嬉しかったのに。
このゲームは確か、ジュリアかジェシーの二人から主人公を選択できるはず。
何故ジーナは選べないのか。それはジーナが悪者だから。
ジュリアルートでは「姉さんは私を捨てるの!?」と、残念な妹として登場し、
ジェシールートでは「私を差し置いて幸せになるなんて許さない!」と、怖い姉として描かれる。
つまり、恋の邪魔者。
本当は美しいその容姿を長い黒髪で隠し、夏でも黒いマントを羽織り、誰にも心を開かない。
当時、ネットでもすごい叩かれてたな。
「怖い」とか「邪魔するな」とか。
でも私はそんなジーナがあまり嫌いじゃなかった。
引っ込み思案で人と接することが苦手なジーナ。
美しい姉妹に劣等感を抱き、自分を閉じ込めてしまったジーナ。
前世の私はぼっちだったから、そんな彼女に自分を重ねてたっけ。
………………………
…………だから!?
私がジーナになっちゃったのって、ジーナに親近感を感じてたからなの!?!?
思わず落としそうになったバケツを慌てて持ち直した。