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先生

最初に謝っておきます。すみませんでした!

 おじさんとの交流で穏やかな気持ちになった私は、ほくほくとした気分のまま教室へ向かう。 

 腕の中にある三つのどら焼きを見ると、勝手に頬が緩むのを感じた。

 このどら焼きは帰り際、おじさんがくれたもの。しかもジュリアとジェシーの分までくれた。優しすぎる。


 腕で潰してしまわないように優しく抱えながら二階にあるクラスへ行くために階段を上ると、昼休み終了まで残り10分はあるというのに、既に廊下は静まり返っていた。


 おそらく、皆 次の授業の予習でもしているんだろう。さすが国内屈指の偏差値を誇る学園。生徒たちの勉強への熱意が半端じゃない。

 特待生として入学した私も負けていられない。なんたってこっちはお金持ちと違って、成績が10位以下になると退学させられてしまうんだから。


 少し焦って、早足で廊下を進む。


 前方から歩いてきたスーツ姿の先生とおぼしき人物に軽く会釈をし、自分のクラスへと急いだ。


 ところが



「あ、お前ちょっと待て」

「っ!?ひゃっ」


 すれ違いざま、さっきの先生にマントを引っ張られ、被っていたフードがその反動でパサリと脱げた。私は咄嗟に前髪を手で押さえつける。


 な、ななな……何するんだ突然!!

キッ!と睨み付けようとするけど、しっかり前髪を押さえてるから相手の顔がよく見えない。


 私のフードを取った先生は、悪びれた様子もなく、こう切り出した。


「お前の妹、なんとかしてくれよ」



……………………は?


 もし今の私の状態を表すなら『呆然』これしかないと思う。

 目を丸くし、口をポカンと開ける。


 妹?ひょっとしてジェシーのことを言ってるの?

え、じゃあ まさか………。いや!まだそうと決まったわけじゃない!!


 嫌な予感を振り払うように小さく頭を横に振り、恐る恐る相手の様子を伺う。最近的中してるこの予感が外れてくれることを祈りながら。


 

 先生はゆっくり深い息を吐き出し、クシャっと自身の前髪を掴んだ。

 どこか色気の漂う仕草に戸惑って視線を逸らす。


 危ない危ない。ブラインド代わりになっているこの前髪がなかったら、彼を直視しないといけないところだった。もし直視してたら顔は真っ赤に染まっていただろう。


「お前、ジーナ・リリークだろ?俺はお前の妹の担任なんだが……」


 耳に入ってきた、腰を刺激する低めなイケボと担任という単語に泣きたくなった。

 どうして的中するの、私の予感。


 まるでそれがスイッチだったと言わんばかりに、脳内を満たす大量の記憶。

 本日二度目の感覚に、一瞬 意識が遠退きかけた。

本当にこれは何度経験しても辛い。


 頭を押さえ、荒い息を繰り返す私に、彼は 大丈夫か? と手を伸ばしてきたが、それをやんわりと阻止する。


 誰が“攻略対象者”の手なんか借りるか。



 私は自分の対象者との遭遇率の高さを呪った。

確かに私は、ゲームの中でも結構重要な存在だったから、完全に彼らに会わないことが無理だというのは知ってる。

 でも、あまりにもひどい。ゲームスタートからたったの二日で六人分の情報を集めるなんて。


 そもそもこのゲームは対象者が多すぎるっ!!

前世では楽しませてもらったけど、対象者ごとに悪役をやらされてたジーナの気持ちも考えてくださいゲームの製作者さん。



 深呼吸をして激しく脈打つ心臓を落ち着かせ、改めて相手を見据える。


「それで、ジェシーがなにかしましたか?ガエン先生」


 多少 口調がキツくなったのは許してください。


 別に彼らが嫌いなわけじゃない。むしろ好き。じゃなきゃゲームをフルコンプしたり、グッズやイベントに行って散財したりしてない。

 前世の私は、オタク友達すら引くくらいこのゲームにどっぷりハマってたんだから。溺れてたっていってもいいくらい。


 でも彼らに会ったときの、この頭痛は好きにはなれない。

 それに私は所謂、傍観型乙女。ヒロインと甘いロマンスを繰り広げるイケメンを第三者視点で眺めるのが好きなゲーマーだったから、私自身に絡まれても何も嬉しくない。


 お願いだから私に構ってる暇があったら、ヒロインたちにアプローチでもしてきてほしい。



「……あ、あぁ。お前の妹、午前の授業サボったらしいんだ。特待生なのに初日からサボりなんて印象悪いからな」


 冷たくされることに慣れていないのか、私の口調に目を丸くしつつも発したガエン先生の言葉に、今度は私が目を丸くする。


 ジェシーのサボりは間違いなくフィニくんが学校案内という名目でつれ回してるせいだと思うけど、一体彼は何を考えてるの?


 私たち特待生は、さっきも言ったように厳しい条件付きでこの学園にいる。一年生とはいえ、四銃士であるフィニくんがそれを知らないはずはない。おまけに生徒の模範でなくてはならない彼が率先してそんな行動を取ることは問題だ。


 ……よし、チクろう。


「私、フィニ・ホリートがジェシーをつれ回してるところを見ました。ジェシーはサボりなんてする子じゃないですし、もしかしたら彼が……」


 

 余談だけど、ガエン先生こと ガエン・オルター。

ジェシーとフィニくんのクラスの担任であり、学園OBであり、元四銃士。現在は生徒指導部の先生で、生徒の間では 鬼のガエン と呼ばれ、恐れられている人。

 模範生には優しいから、女子人気は凄まじいけど。


 私の話を聞いた瞬間、顔を怒りで歪めて「あいつっ!!」と駆け出していった先生の背中を見送りながら、フィニくんの未来に手を合わせて 南無~ と呟いた。


 さて、私も教室に戻らないと。このひどい頭痛のままだと勉強に身が入らないとは思うけど仕方ない。

 家に帰ったら三人でどら焼き食べよう。それを楽しみに今日は生きよう。


 そう考えて、腕の中にあったはずのどら焼きがないことに気づき、慌てて周囲を見回した。


 たぶん、前髪を押さえようとした時だ。思わず手を離してしまったんだと思う。


「どら焼き……」


 廊下に落ちている、つぶれた無惨なその姿を目にして、悲しくなった。

 なぜ冒頭で謝ったかというと、ジーナに静かな生活を送れなくてごめんなさいということです。


 ガエン先生は後々のこともあってなるべく早く出しておきたかったんですが、振り返ってみるとジーナには濃い一日でしたね(^-^;



 ちなみに凄くどうでもいい情報ですが、私もジーナと同じく傍観型乙女です(笑

漫画を読んだりゲームをするときはヒロインも込みで愛でてしまうタイプです。

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