新たな楽しみ(シュナイザ視点)
ラスの次はシュナイザ視点!
しばらく別視点が多くなるかもです……、
「あ、シュナイザはラスくん呼んできて」
そろそろ講堂の後片付けをしに行こうかと、席を立つ騎士団のメンバー。
その中で唯一の紅一点、ジュリアさんが俺に向かってそう言った。
あぁ…そういえば、ラスの家は入学式パーティーを容認してるんだっけ?羨ましいなぁ。俺の家はお祖母様が許してくれないんだよね。
ま、原因は俺たちにあるから文句言えないんだけど。
「わかりましたよ。……そのかわり、呼んできたらご褒美くれます?」
少し口角を上げて、冗談混じりに言えば、頭を書類を丸めたもので叩かれた。
目の前の美女は俺を殴った物を得意気に胸の前で振りながら、意地の悪い笑みを作った。
「よく言うわ。あたしのこと女だなんて思ってないくせにね」
丸まった書類をそのまま机の上に放り出し、美しい茶髪をなびかせてジュリアさんは部屋から出ていった。
あーあ、女の子にあんなこと言わせるなんて、俺も男失格かな?でも、実際に図星だから何も言えない。
ジュリアさんは素敵な人だと思うよ。間違いなくね。あんなに美人でなんでも出来る人は見たことがない。性格もはっきりしていて好印象だ。学年的にも副騎士団長はジュリアさんなはずなのに、遠慮して俺にその座を譲ったところとか、普通の人にはできないと思う。
……恋愛対象として見れるかどうかは別だけど。
自分より優秀で自分より男前な彼女は、さすがの俺でもちょっとね。男にもプライドってものがあるわけで。
ジュリアさん自身もあんな恵まれた容姿をしていながら色恋ごとに全く興味が無いんだから。
妹ちゃん…1年生のジェシーちゃんだったかな?
どうしてあの子みたいな女らしさが無いのか…
ジェシーちゃんは入学式の時点で既に話題の的だった。可憐で儚い超絶美少女が入ってきたって。ぜひお会いしたいものだけど、ジュリアさんが怖いから、今は無理かなぁ。
ジェシーちゃんを見習えとまでは言わないけど、せめて女の子らしい弱い一面でも見せてくれたら認識は変わるのかもしれないけど…ジュリアさんに怖いものなんてあるのかな?
机の上の丸まった書類を伸ばしてから、困っているであろう友人を救出するべく俺も部屋を出る。
ラスが所属するクラスの前に行くと、案の定たくさんの女子が群れを成していた。こんなにたくさんのレディたちから誘われるなんて、心底羨ましい。去年もそうだったけど、おそらく今年も全ての招待を断ったんだろうな。もったいない。
ラスに断られ落ち込んだ彼女たちを慰めながらラスを講堂へ連行するのが俺の役目。だからその集団に近づいた。ただ、今回は少し様子がおかしい。
いつもなら項垂れているはずの女子の目線はある一点に注がれていた。
それらを辿るように視界を移動させると……
「……っ!?」
派手なレディ(名前はたしか、ルディー嬢だったかな?)が一人女の子を見下ろしていた。その雰囲気はどうみても修羅場。一触即発な空気を醸し出していた。
ルディー嬢は学園内でも有力な家の一人娘で、甘やかされた結果なのか、かなりのわがままらしい。思い通りにいかないとすぐ頭に血が上る性格だとか。俺は自己主張の激しいレディも好きだけどね。
問題は見下ろされているほうの子だ。
あまりに場違いなその姿に思わず目を瞬かせた。
ジーナ・リリーク。ジュリアさんのもう一人の妹。
フード付きの黒いマントからこぼれ落ちる、これまた漆黒の髪。
昔、1度だけアプローチしようとしたらジュリアさんに邪魔され、失敗に終わった。
本人は他人と関わることを極端に避け、家族以外にその素顔をみた人はいない。
二年生になってから髪を切ったらしい。魔女と呼ばれる所以となった黒髪は半分ほどの長さになった。そこから僅かに覗く隠され続けた白い肌に、生徒たちの間ではジーナ・リリーク美人説が流れている。
まあ、まだそこまで噂は広まってないみたいだけど?相変わらず黒のマントは健在だし、敬遠してた子が実は美女だったなんて認めたくない人も大勢いるみたいだから。
そんな彼女が、何故ここに……?
そんな疑問がふと思ったものの、ルディー嬢の言葉でそれどころじゃなくなった。
「あなたなんでしょう?あなたが黒魔術か何かでラス様を 操作したのでしょう?でなければラス様が私の誘いを断る なんてありえませんもの」
きっとルディー嬢は本気で言ったのだろうけど、周りは唖然とした。もちろん俺も。
次女ちゃんが魔女と言われているのは本当。でもそれは単なるあだ名に過ぎないというのに。まさか信じてる人間がいるとは思わなかった。
反論しようとしているのか、口を開いた次女ちゃんに駆け寄り、紡がれる言葉を遮った。
唇と、ついでに腰にも手を回し、後ろから抱きしめるようにしてルディー嬢から引き離す。
女性の柔らかい抱き心地は素晴らしい。次女ちゃんの場合、もう少し肉付きが良いほうが俺好みだけどね。
俺の突然の登場に頬を染める女の子たちは凄く可愛い。離して欲しいのか、腕のなかで次女ちゃんがもぞもぞと動くけど、まだダメ。
他の女子の鋭い眼差しが君に向けられているのは知ってるけど、あとちょっと我慢して。
「シュナイザ、どうしてここに……?」
不思議そうに首を傾げる友人に事情を説明していると、下から視線を感じた。
感じたといっても、その瞳は前髪で隠れてしまっているから、あくまで予感だけど。
ラスも感じたのか、二人揃って彼女を見た。
それがいけなかったのか。
腕の中にいた次女ちゃんは顔を青くさせ、俺の腕を振り払って逃げた。
「あっ」
呼びかける間もなく遠ざかるその背を、隣の友人が興味深そうにみつめているのは気のせいだろうか?
本当は逃げないで欲しかったんだけど、仕方ない。
俺は他の子たち同様、呆然と成り行きを見守っていたルディー嬢の手を取った。瞬間、ルディー嬢の顔はバラの花のように赤くなる。女の子はどんな表情も素敵だけど、好きなものを前にしたときに頬を染める姿が一番可愛い。
その愛らしい様に口元を緩めながらも、騎士団として、この娘には一言 言ってあげないと。
「ルディー嬢」
優しく、耳元で囁く。握った手から彼女の体温が上昇したのを確認し、つり目気味な瞳と目線を合わせる。
「君はとても愛らしい。家柄もこの学園の者として申し分ないよ」
「そ、んな……あ、ありがとうございます」
いつもの気丈さはどこへやら。恋する乙女のようにもじもじとスカートの裾を弄ぶ。
そんなルディー嬢の髪を一束指に絡め、更にグッと顔を近づけた。
「ひゃっ……あ、シュナイザ様…」
蕩ける彼女に、そろそろ現実を突きつけてあげようか。
「でもね、いくら外面が優れていても、中身が残念じゃあ意味ないなぁ」
「…………えっ」
刹那、極限まで赤かった顔が今度は青になった。
「このままじゃ学園にはいられない。周りの人間に哀れまれるような人間は、人の上に立つ資格はないんだよ?」
これでもなるべく優しく言ってあげたつもりだ。
――この学園は甘くない。
世界有数の富豪の子供たちが通うこの学園はどこの権力も受けない。いくら金を積んだって、いくら親が権力者だからって、ここじゃあ塵ほどの意味も持たない。
全ては学園が決める。ふさわしくないと判断されれば、容赦なく捨てられる。
足を踏み外す者が出ないよう、生徒の模範となり、規則となるのが騎士団と四銃士だ。
ルディー嬢にもぜひ心を入れ替えてもらいたい。
……“退学”を言い渡される前に。
やっと自分の言動の愚かさに気づいたのか、ルディー嬢は可哀想なくらいに怯えている。
そんな怯えなくても、まだ大丈夫だと思うけどね。……これ以上続くとわからないけど?
「シュナイザ、そろそろ講堂へ行こう」
「はいはい。じゃあね、みんな」
もちろん女の子へのサービスは忘れないよ。
ウィンクと投げキッスをしてから、踵を返した。後ろから聞こえる黄色い歓声に満足しながら。
「…………シュナイザ」
講堂への移動中、さっきまで全然しゃべらなかったラスが俺の名を呼んだ。
「何?」
「どうしてあの時、ジーナ・リリークの発言を止めたの」
その口調は質問しているというより、責めているように聞こえたのはなぜだろうね?
「次女ちゃんはきっと正論を言うよね」
「……そうだね」
「あのプライドの高いルディー嬢が下の身分の者に反論されたら、逆上しないわけがない。もしそれが問題にでも発展したら、ルディー嬢はもちろん、下手したら次女ちゃんもなんらかの罰を与えられてたかもね」
「……………」
ラス、その顔はなんだい?
僕の友人であり騎士団の一員でもあるラス・アナブルは、周りと比べても大人っぽい。
アダル団長の後を追うように騎士団に入ってきたみたいだけど、仕事は出来るし、先生からの評判も良い。騎士団唯一のまともな人といっても過言ではない。
いつも穏やかな笑みを湛えていて、生徒の間では「微笑みの王子様」なんて言われてる。
そのラスの今の顔といったら……
例えるならば………う~ん、そうだなぁ。
…………あ、わかった。
楽しみを取られた子供の表情だ。
「ラス、逆に聞くけど。どうしてあの場を収めようとしなかったんだい?」
任務や規律に忠実な君らしくもない。
そう尋ねれば、彼はバツが悪そうに目を泳がせた。
「あ、いや、うん……そうだよね。止めなきゃダメたったよね」
珍しい。というか、今まで見たこともない姿に悪戯心が刺激される。
「君にらしくない行動をさせるものは一体何なのかなぁ?」
ついニヤニヤと表情筋が緩む。あ~面白い。
「ほんの僅かな好奇心というか探求心というか。どんな反応するのかなって……うん、ごめん。反省してる」
申し訳なさそうに眉を下げたラス。
理由は話さないつもり、か。
大体予想は出来てるけどね。
「あーっ、もういいだろう!早く行かないとジュリアさんに怒られるぞ!!」
「クスッ、それもそうだね。急ごうか」
講堂への渡り廊下を二人で走る。
少し前を走るラスの黒髪が、一瞬“彼女”と重なって、更に笑えてきた。
と同時に、興醒めするような思考が頭を過る。
俺が面白いと感じるんだから、“あいつ”もきっと同じことを思うんだろうね。
とりあえず、当分の俺の役目はあいつから彼女を守ってあげることだろうか。
楽しみの邪魔なんて絶対させない。
双子の弟なんかに、次女ちゃんのことは教えてあげない。
シュナイザは新たな楽しみを見つけた。
↑でもまだ興味深い程度で、主人公に好意は抱いてません。
目立ちたくないのに着々と興味を引いていく主人公(笑
プロローグイベントが終われば今までよりは静かに過ごせるはず……!!