イベントへの道のり
入学式の日はHRが終われば後は家に帰るだけ。 多くのお坊ちゃんやお嬢様がパーティーを開くからだそうだ。庶民には全く関係ないけど。
私も鞄を持ち上げ、帰るふりをする。
まだ私にはラストミッションがあるから帰らないんだけど、不審に思われても困るし。
クラスの入口付近では学年問わず、お嬢様方のラスくんパーティー勧誘合戦が繰り広げられていた。
うわぁ…通りづらい。
「ラス様、私のパーティーにいらしてください」
「ぜひ私の所へっ!!」
「最高級のおもてなしをさせて頂きますわ!」
各々の招待状を神に捧げるかのように頭を下げて差し出すお嬢様方、笑顔で彼女たちをみつめるラスくん。もはや危険な宗教にしか見えない。
ほら、教室の前を通る男子の目がドン引きして… って あれ?みんな案外普通にスルーしてる。
見慣れてるのかな……。
ゲーム中では、騎士団や四銃士は凄い人気を誇ってるとは書いていたけど、実際にそういう描写はなかったからなぁ。
まさかここまでとは……イケメン恐るべし。そしてそんなイケメンたちを手玉に取る私の姉妹もっと恐るべし。
「ごめんなさい。これから騎士団の用事がありますので」
信者たち……おっと間違えた。 お嬢様たちの誘いを申し訳なさそうに眉をハの字にした笑顔で断るラスくん。
その言葉に彼女たちの表情は、まるでこの世の終わりとでもいうように暗くなったけど、私の瞳はきらめいた。
何故かというと、確信したからだ。
この後―ジュリアのイベントがあるということを。
ジュリアのプロローグイベントは騎士団が講堂の後片付けをしている時に発生する。
入学式の片付けをしていた騎士団だが、突然 扉が開かなくなり、閉じ込められてしまう。
小さい頃に倉庫に閉じ込められたトラウマがあるジュリアは不安になり、目に涙を浮かべて弱音を吐露する。
いつもの男らしい様子からは想像もできない弱々しい姿に、騎士団のみんなは改めてジュリアが女だということを実感した――。
たしかそういうイベントだった。
多くの乙女ゲームが出会いから始まるのに対し、このイベントのコンセプトは『気持ちの変化』。
斬新だって結構好評だったんだよね。
私も、みんなが主人公を異性として意識しだしたあのハッとした表情は好きだったな~。部屋のベッドの上をゴロゴロしながら悶えてた気がする。
みんなかっこよかったんだけど、私的にアダル騎士団長が一番良かったな……。
怯えるジュリアの肩に手を回し、 なんて顔してんだ、らしくねーぞ って微笑みかける。普段は挑戦的な笑みしか見せない騎士団長の純粋な笑顔に、世のアダルファンの女子たちは発狂したそうな…。
私は誰推しでもないけど、あれには見惚れた。 このゲームはスチル画像の数が多いことでも有名だったけど、画面いっぱいの騎士団長の可愛らしい笑顔は反則だったな。
とにかく、この場から移動してイベントに備えないと!
「あのっ…し、失礼します」
お通夜のような雰囲気を漂わせるお嬢様の間を体を小さくしながら通り抜ける。
思っていたより人が多くて大変だ。鞄をお嬢様たちに当てないように高く掲げながら慎重に進む。
あと少しで抜けられる!そう気が緩んだ時
「なんで私が断られるの?おかしいわ!!」
「えっ!?ち、ちちちょ……どぅわあぁっ!」
逆上したお嬢様の一人が振り上げた手が私の鞄に当たる。つま先立ちで歩いていた私はこの僅かな衝撃で体制を崩し、尻餅をついた。
鞄を持っていたせいで手をつけず、もろに腰打った。痛すぎて泣けてくる。誰も巻き込まなかったのは奇跡としか言いようがない。
私の無様な悲鳴に、お通夜だったみなさんが一斉にこちらを向いた。
前世の頃から他人に注目されているのは慣れてない。この状況はどんな拷問ですか……。
居心地が悪くなり、そそくさと退場しようとする私の背中に、鼻で笑ったような声がかかった。
「あら、誰かと思ったら魔女じゃない」
ゆっくりと振り向くと、さっき逆上した人がこっちを見下ろしていた。
というか、魔女って誰のことですか。もしかして私に言ってるの?
ウェーブがかった髪を揺らしながらツカツカとこちらに歩を進める様を黙って見ていると、その人は私と一歩分の距離を開け、立ち止まった。
一体なんの用だろう?
逆上さん(名前がわからないのでこれで勘弁)は細く白い腕を組み、目を鋭く尖らせた。
「あなたなんでしょう?あなたが黒魔術か何かでラス様を操作したのでしょう?でなければラス様が私の誘いを断るなんてありえませんもの」
……………………………はい?
私は思わず目を白黒させた。
え、ごめんなさい。ふんっと胸を反らされても、言っていることが意味不明すぎて威厳が感じられないです 。
黒魔術?本気で言ってるの? 断られたのがショックだからって他人に八つ当たりしないでくださいよー!!
逆上さんの発言に、周りのお嬢様方も驚きや呆れといったた表情を浮かべる。
これはちゃんと現実を教えてあげたほうがいいか?
「あのですね、私は魔女じゃ…」
否定を述べようとした口を、誰かの大きな手が塞いだ。
微かなバラの香りが辺りに満ちる。
「何々?こんなに可愛い女の子が集まって……これは神様が俺にくれたご褒美かな?」
頭上から聞こえる低く甘い声音に、私は嫌な予感を払拭することができなかった。
別人でありますように。私が想像してる人物と別人でありますように!!
ところが
「シュナイザ?どうしてここに…」
ラスくんの呟きによりその願いは虚しく砕け散った。
シュナイザ・アヴィレ。現在の騎士団副団長にして無類の女好き。もちろんジュリアの攻略対象者だ。
英才教育を叩き込まれてきた御曹司にしては珍しいチャラチャラとした外見。男にしては長い明るめの茶髪を後ろで結び、シャツのボタンを第三ボタンまではだけさせている。
社交界では女好きで知られ、女性に贈るため常にバラの花を持っているとかいないとか……。
どうでもいいけど口に当ててる手と腰に回ってる腕を離してもらえませんか。女子の視線が怖すぎるんですが。
そんな私の心境を察することもなく、副騎士団長は笑った。
「ラス、君を迎えに来たんだよ。ジュリアさんが、ラスのことだからきっと女子に囲まれて大変だと思うからって」
「………参ったな、ジュリアさんにはお見通しなんだね」
「それにしても、ずるいなぁ…ラスばっかり女の子に囲まれてさ」
「そんなことないよ。アヴィレ家も入学式パーティーへの参加を許せばシュナイザなんか僕の比じゃないほどの誘いがくると思うけど」
これは……なんていうか、萌えますね。
騎士団同士の仲の良さを伺わせる会話。やっぱり好きな作品の登場人物たちが仲良しだとこっちまで嬉しくなる。
しかもジュリアはかなり信頼されてるんじゃない?二人の話を聞いた感じだと。
二人の会話を盗み聞きしていると、その二人の視線が私に向けられた。
……やめてください。
本当に巻き込まないでください。私は傍観したいんです。静かに過ごしたいんです。女子怖すぎるから、そこらのオバケより断然怖いから。今すぐ私への視線を外してほしい。
まだなにもされてないけど、嫌な予感が拭えない私は副騎士団長の腕を半ば強引に振り払い、その場から逃げ出した。
中途半端ですが、時間がないので載せておきます。
もしかしたら改稿するかも…………(^^;




